Podium

news commentary

五輪中止の社説

2021-05-27 20:39:54 | 政治

5月22日付朝日新聞のオピニオンのページで、元東京都知事の猪瀬直樹氏が新型コロナ下のオリンピック開催に賛成する意見を述べていた。「コロナ禍の今こそ、人間の限界に挑戦する選手の活躍から勇気をもらうことが『夢の力』につながるでしょう。菅義偉首相らは、なぜ開催するのかを繰り返し訴えていく必要があります」と。

一連の主張の中で、猪瀬氏はこうも言った。「五輪が過度な商業主義に走っているとして、『だから、やめられない』などと批判するのは、そもそも間違っています。五輪はビジネスそのもので、スポーツ産業です。お金が動かなければ、選手も生活できない。五輪は、日ごろ脚光を浴びることがないマイナー競技の選手がメダルを取って知名度を上げるための最大の機会です」と。

猪瀬氏はオリンピックの東京開催が決まった2013年9月7日、東京都知事であり五輪招致委員会の会長だった。

新型コロナを理由に関係者は2020年の東京オリンピックの開催を2021年に延期した。震災復興五輪、コロナ克服祝賀五輪、コロナと闘う連帯五輪とオリンピックの開催理念も漂流した。開催日までに2ヵ月を切ったいま、やみくもにオリンピック開催を目指すのは、猪瀬氏のいうようにオリンピックがビジネスであって、スポーツ産業であるからだ。オリンピックを開催することで日本の景気は盛り上がり、集まった金のしたたり効果で国民が豊かになる。それが菅政権の延命にプラスの効果をもたらす――だから菅首相は何が何でもオリンピック開催に固執するのだと、新聞は書き続けてきた。

Covid-19流行のさなかのオリンピック開催はいったい何のため、誰のため、コロナ禍で身動きでない市民の疑問が、世論調査でオリンピック開催に否定的な意見を急上昇させた。

2021年5月23日付の信濃毎日新聞が、オリンピック開催の中止を社説で主張した。続いて西日本新聞、沖縄タイムスが同様の主張を繰り広げ、5月26日には朝日新聞がオリンピックの中止を求めた。

新聞社は新聞を発行することで利益を生み出す。編集局は取材を通じて間接的に意見をにおわすが、表立って新聞社としての見解や意見を主張することはない。そういう約束になっている。新聞社の意見はもっぱら論説委員会が書く社説を通じて表明される。

この段階でオリンピック中止論を唱えれば、賛同とともに新聞批判も呼び起こすことだろう。いくつかの日本の新聞が社説でオリンピック中止論を主張し始めたのは、社説の使命を再確認したことと、社説でオリンピック中止論を唱えても、それほどひどい新聞批判の逆風が吹くこともないだろうというよみがあったからだろう。

(2021.5.27 花崎泰雄)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

政府は頼りにならない

2021-05-20 16:07:33 | 政治

沖縄県は5月20日、日本国政府に対して新型コロナ感染症緊急事態宣言の対象に沖縄県を加えるよう要請した。その前日の19日、自民党の細田博之議員が自民党沖縄振興調査会役員会とその後の記者会見で、次のような発言をしていたと、20日の朝刊が伝えていた。

「県こそ独自の政策を取るべきだ」「国の政策に頼るなんて沖縄県民らしくない」

 沖縄タイムズ紙によると、細田氏は会合の後、記者団に発言を問われ、「(沖縄県は離島だから)1人の感染者もないようにできるのに、なんで168人(5月18日)も出るんだって。バカじゃないか、そうでしょ」「(感染拡大は)旅行者が持ってくるに決まってるんだから」と主張した。

「厚労省にお願いします、緊急事態、って言ったってできないんだから。沖縄県が自らこういう政策をとりますと、一国二制度でいいんですと、厚労省を頼りにしません、ただし補助金は頂きますよ、経費はね。それで飛行機に乗るときに検査をJALやANAに要請して、それで陽性の人は全部病院に運ぶ、陰性の人だけ通るようにしてもいいと。そういう風にすべきですよ。そしたらゼロになるんだよ。そうでしょう」

すると、

「島国である日本全体そうではないか」

と質問が飛んだ。

 

ドイツのメルケル首相は、ヨーロッパに新型コロナウイルス感染者と死者が急上昇し始めた去年の3月11日の記者会見で、専門家の意見ではドイツ国民の60-70パーセントが感染する恐れがあるが、当面、我々にできるのは、治療薬や予防ワクチンが開発されるまでの時間稼ぎだけだ、と事実を国民に突きつけ、だからこそ一致団結してできる限りのことをやってみようではないかと訴えた。

正しい認識だった。

いっぽう、この1年余りの間、日本の政府はワクチンや治療薬の自力開発に意欲を見せず、PCR検査の拡充も、医療体制の増強も不十分であった。

だらだらしているうちに、今では入院待ちしている間に、症状が悪化して患者が死んでしまう医療崩壊が始まっている。

「飛行機に乗るときに検査をJALやANAに要請して、それで陽性の人は全部病院に運ぶ、陰性の人だけ通るようにしてもいいと。そういう風にすべきですよ」と細田氏は言った。

さて、陽性と分かった患者のための病院の空き病床はどこにあるのかな。愚かなことを主張する議員もいるもんだ。

(2021.5.20 花崎泰雄)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする