「問うに落ちず語るに落ちる」という。
武装した北朝鮮の偽装難民がやって来たらどうする? そんな発言で話題になった副総理・麻生太郎氏が、先の総選挙での自民党の勝利の要因について、「明らかに北朝鮮のおかげもありましょう」と自民党議員のパーティーで語った。
あれはジョークだよ、と自民党幹事長・二階俊博氏は例の愛想な表情と口調で語ったが、麻生発言をジョークだと思った有権者は、さて、どのくらいいたのだろうか。
首相・安倍晋三氏は先の解散総選挙を決意したさい、記者会見でこんなことを言っていた。
「国民の皆様は、北朝鮮の度重なる挑発に関しまして大きな不安を持っておられることと思います」「民主主義の原点でもある選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されるようなことがあってはなりません」「こういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応によって、国民の皆さんに問いたいと思います」「我が国を飛び越える弾道ミサイルの相次ぐ発射、核実験の強行、北朝鮮による挑発はどんどんエスカレートし、その脅威はまさに現実のものとなっています」
いわゆる国難突破解散・総選挙の宣言だ。
10月27日の朝日新聞朝刊の記事によると、安倍首相は9月28日の衆院解散から10月21日までの間に、全国で75回の演説をした。このうち53回は北朝鮮関連のテーマに触れた。消費税増税とその死と変更については67回、東日本大震災・熊本地震からの復興については6回だった。ちなみに同紙によると、森友・加計問題については一切触れなかった。改憲についてもほとんど口にしなかった。
「問うに答えず」となのである。言いたいことだけを口にする。「由らしむべし知らしむべからず」。古臭い『論語』の統治者の心得が、いまなお、日本国では生きている。
それで、北朝鮮の脅威が「国難」だったかといえば、そうではなかったようである。
総選挙が終わって特別国会で首班指名・組閣をすませたら、年内には国会は召集しないそうである。通常国会は1月に召集される。
2017年の通常国会は6月18日に閉会した。9月28日には臨時国会が開かれたが、これは衆院解散を告げるためだけの開会。
したがって国難である北朝鮮の脅威はかれこれ半年にわって、民主主義の原点である国会で本格的な議論がされないままになりそうだ。北朝鮮の脅威については「難儀なことである」という認識はあるのだろうが、日本国の存立の基盤が崩れるほどの「国難」とは、議員諸侯の誰もが感じていなようだ。
というわけで、麻生氏の「北朝鮮のおかげ」発言は、ジョークでもなんでもなく、正鵠を得た発言だった。
(2017.10.29 花崎泰雄)