今日10月20日の朝日新聞朝刊4面に、以下のような気持ちの悪い記事が載っていた。
「選挙区が県境をまたぐ参議院の合区の解消について、自民党の高村正彦副総裁は19日、憲法改正で対応する考えを示した。近く党内に設ける検討機関で協議する。憲法審査会での議論の入り に合区解消を据えることで、野党との改憲論議を進める狙いがある。党本部で記者団に語った。高村氏は『単なる法律改正では無理なので、憲法改正が必要になってくる』と持論を展開。党が18日の憲法改正推進本部で草案を憲法審査会に出さないことを決めるなか、『党の憲法改正草案に全く触れられていなくても、今の時点で大切なことは、衆参の憲法審査会に提案する可能性がある』とも語った。発言は『都道府県制度は100年以上続く。憲法改正に向けた有権者の理解も得られやすい』(党幹部)との党内の期待を踏まえたものだ」
日本国憲法は地方自治に関して次のように定めている。
第八章 地方自治
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
また、地方自治法第6条は、
都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、法律でこれを定める
としている。都道府県の縄張り(線引き)変更に憲法の変更は必要ない。
この考え方からすれば、参議院の合区問題に憲法を持ちだす必要はない。
以前は参議院の選挙に「全国区」があった。現在は「比例区」に変わっている。衆議院にも現在、「比例区」があり、選挙区選挙で落選した候補者が比例区で救済される仕組みになっている。
ご存じのとおり、これらの変更にあたっては、憲法の条文変更は行われなかった。
これはあたり前の話である。憲法が、
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める
としているからだ。
合区の設定に憲法の変更は必要でなかったのだから、合区の解消にも憲法の変更を必要としないのは理の当然である。
高村正彦という人は、先の安保法制をめぐる議論で、憲法を変えなくても集団的自衛権は行使できるという主張の中心になった人物である。その彼が参議院の合区問題でことさら憲法論議を提唱しているのである。日本の安全保障のためなのだから憲法の変更は必要ないと主張した高村氏は、こんどは何をもくろんで憲法の変更を言い出したのだろうか?
きれいは汚い汚いはきれい、私益は公益公益は私益―――永田町は一寸先が闇の暗黒街である。明治時代に「三百代言」という言葉があった。弁護士を罵るときに使われた。高村氏は弁護士でもある。
(2016.10.20 花崎泰雄)