5月20日、G7広島サミットに、ウクライナのゼレンスキー大統領が姿を現した。ビデオ・メッセージではなく、ご本人が広島まで旅をして、生身の参加である。参加国・招待国・関係機関が賑やかに議論をしているはずの首脳会議としてはどちらかというと沈滞気味だったプログラムの進行がこれでにわかに活気づいた。
G7のメンバーは北米のアメリカ合衆国とカナダ、欧州のフランス、ドイツ、イタリア、イギリスと極東の日本である――別の言い方をすると、NATO構成国と極東の日本の7か国である。ウクライナ問題を語り合うには国連安保保障理事会よりもこの方が便利だ。ロシア・中国という2つの常任理事国が、国連安保理を機能不全にしている。国連では早急な解決方法が見いだせないだろうから、ロシアと中国がいないG7で、開始から1年がたつロシアによるウクライナ侵攻問題の解決の道筋を相談しようとした。
ウクライナ侵攻に関連するエネルギー価格高騰や農産物危機をめぐる経済安全保障、開催地を広島にした理由でもある核兵器廃絶問題、この2つも今回のG7の主要テーマだった。その割には新聞・テレビが伝えるG7ニュースにはニュースらしいものが少なかった。首脳が原爆資料館を訪れたとき、彼らが何を見て、どんな感想を漏らしたか伝えられなかった。アメリカ・イギリス・フランスといった核兵器保有国の首脳は核兵器をめぐる倫理・人道問題を語りたくない。核問題というテーマは開催地・広島へのオマージュに過ぎない。
日本のメディアを見たり読んだりしている人の記憶に残っているのは、厳島神社の鳥居を背景にした首脳たちの記念撮影や、神社を見て歩く姿だけであった。
ゼレンスキー大統領はフランス政府機で広島空港に到着した。軍事侵攻を続けるロシアに対し、反転攻勢への意欲を示すウクライナ。ゼレンスキー大統領はヨーロッパ4ヵ国を訪れたばかりだった。13日には、イタリアでメローニ首相と会談した。14日にはドイツを訪れてショルツ首相会談。その日のうちにフランスでマクロン大統領と会談。15日はイギリスでスナク首相と会談。この時にフランスが政府専用機をゼレンスキー氏の広島行きに提供することで話がまとまった。そのあと、ゼレンスキー大統領夫人のオレナ・ゼレンスカ氏が大統領特使として訪韓。ユン大統領と会った。
反転攻勢が近づいた今、大統領夫妻が各国の支援や、G7の主要国からの武器援助の督促を強めている。米国はNATOのF16の供与で譲歩し、ヨーロッパの国がF16をウクライナに提供することを認め、イロットの訓練の提供を明言した。
NATOは日本に連絡所を開設の予定で日本政府と協議を進めている。米国とその仲間は、北大西洋側ではNATOを使い、西太平洋側ではQUAD・日米安保・日韓協力・核の傘提供国である米国の軍事力を使ってロシア・中国をはさみうちにする新・封じ込め作戦を本格的に展開するようである。
日本の岸田首相は宮島の「必勝しゃもじ」を担いで甲子園ではなく、ウクライナを訪れてゼレンスキー大統領にしゃもじを贈り、G7への参加を促した。宮島しゃもじは冗談ではなく支援の約束ではなかったのかいと、ゼレンスキー氏に迫られたとき、岸田氏は防衛装備移転三原則の縛りのひもを緩めなければならなくなる。
(2023.5.21 花崎泰雄)