ひところのハリウッド映画には(今なおそうかもしれないが)、きまって男どもが入り乱れてバーで殴り合いをする集団乱闘シーンがあった。
まずは、1対1の殴り合いではじまり、喧嘩を止めに入った男が、助っ人に立った男に殴られ、止め男がなぐりかえし、それをきっかけ手のつけようのない集団乱闘に至る。誰が味方で、誰が敵か。それはどうでもいいことで、要は、観客に喜んでもらうためのにぎやかな乱闘シーンである。
シリアも似たような状況になってきた。もっか最大の難民輩出(排出?)国シリアでは、アサド政権と反アサド勢力、加えてISとクルド人勢力が国内を4分割している。
アメリカ合衆国は2014年秋からIS空爆を開始した。これにサウジアラビア、アラブ首長国連邦、ヨルダン、バーレーン、カタールが参加。まもなくフランス、オランダ、ベルギー、デンマーク、イギリスも参加。オーストラリアもはるか遠くから空爆に駆けつけた。
一方で、アサド政権を擁護するロシアは反アサド勢力を空爆してきた。しかし、ロシアの旅客機がISの一味に爆破されたことで、ISに対する空爆も始めた。ロシアは反アサド勢力とISの双方を空爆するようになったのだ。
トルコは米国のIS空爆には参加せず、米軍機の基地使用だけを認めた。アメリカはISと地上戦を繰り広げているクルド人勢力を支援しているが、内政上の理由からクルド人の勢力伸長を望まないトルコは、クルド人民兵組織を攻撃してきた。そのトルコも最近になってIS空爆に踏み切った。アメリカがトルコのクルド人民兵組織を攻撃することに目をつむるのと引き換えの、トルコのIS空爆開始とされている。したがって、トルコはISとクルド人民兵組織の双方を空爆し、ISと反アサド勢力の双方を空爆するロシアと似たような複雑な動きをしている。
シリア空爆に向かうロシア空軍機のトルコ国境侵犯に、トルコはかねがね神経をとがらせいたが、最近、ついにトルコの戦闘機がロシアの爆撃機を撃ち落としてしまった。いきり立つロシアとトルコの間に、まあまあと割って入ったのがアメリカとフランスで、いまのところ、これが新しい露土紛争に拡大する気配はない。
シリア上空で派手な立ち回りをしている各国の空爆対象は反アサド勢力とISと、基本的にはシリア内戦には中立的なクルド勢力3者であり、結果として、みんなでアサド政権の延命を助けているかのごとく見える。
何やってんだか、というハリウッド製のばかばかしいアクション映画の乱闘シーンに似ている。
(2015.11.25 花崎泰雄)