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news commentary

ためこみ

2016-01-31 23:02:37 | Weblog

日本銀行がマイナス金利を採用した。市中銀行が日銀に預けている大量の円を引き取らせるためである。引き取った金を市中銀行が企業に融資し、企業がその金を設備投資に回すよう誘導することで、景気回復をねらおうという腹である――とメディアが解説していた。息切れしているアベノミックスへの何度目かのカンフル剤であるが、効き目は多分、当座しのぎだろう。安倍政権としては、この夏の参議院選挙までもてばよいとの腹であろうが。

2016年1月12日の英紙・フィナンシャル・タイムズのチーフ・エコノミクス・コメンテイター、マーティン・ウルフ氏の記事を、同紙を買収した日経新聞が転載した。

ウルフ氏の記事によると、①アベノミクスの3本の矢は日本経済の再生につながらない②日本経済の不振の原因が何であるかをアベノミクスの推進者たちは理解できていない③ 真の問題は民間需要の弱さにある。その表れが民間部門の巨額の資金余剰、すなわち民間投資に対する民間貯蓄の超過だ、という。

従って、ウルフ氏によれば、やるべきことは、民間部門の慢性的な貯蓄過剰に真正面から切り込み、日本企業の過剰な内部留保を賃金と税に移していくことが、最終的に、構造的な貯蓄過剰の解消につながる、という見立てである。

要するに「供給でなく需要が重要なのだ、愚か者」ということだ――とウルフ氏は記事で言う。

経済見通しは十人十色、人によって言うことが異なるので、別の新聞では別の経済評論家や経済学者が別の意見を述べていることだろう。

だが、金はある所にはあまりあるほどあり、ないところには、逆さにしても鼻血も出ないほどないことは、よく知られたことだ。

最近、オクスファム(Oxfam)が発表した資料 "An Economy For The 1%" によると、①世界の人口の1パーセントの金持が残り99パーセントの人々の富を合計したより多くの富をためこんでいる②金持が世界中のタックス・ヘイブンに隠している金が7.6兆ドルに達する③金持上位62人の富が人類の底辺にいる36億人の富に匹敵する。2010年には388人だった④62人の富は過去5年間で45パーセント増えた⑤底辺の人々の民は38パーセント減った。

「収入と富は、トリクル・ダウン(trickle down)どころではなく、危機的な速度で上部に吸い上げられている(sucked upwards)」とオクスファムの資料は言う。

アメリカの大統領選挙で、民主党候補選びでヒラリー・クリントン氏に肉薄しているバーニー・サンダース上院議員はアメリカの上位0.1パーセントの人々が、下位90パーセントの人々の富を合わせた額に相当する富を所有していることは、どこかに重大な誤りがあり、このシステムをかえなければならない、と主張して45歳以下の民主党支持者からクリントン氏に倍する支持を取りつけている。

日本も世界も状況は同じ。「企業の内部留保を賃金と税金に」とウルフ氏は助言するが、日本の誰が、いつ、どうやってそれをやるのか、という話になると、実現性に乏しい。

『ヌガラ――19世紀バリの劇場国家』で有名な文化人類学者クリフォード・ギアツによれば、バリの王族は死後、盛大な火葬をお祭りのように行うのがならいだった。金に糸目をつけず葬儀を行うことで王の権威を誇示した。一方で、盛大な火葬はその葬儀費用の支払いという形で、王家に貯まった資産を人民に還流させることになるという、副次的な経済効果をともなった。貯めるだけでなく使うことが重要なのだ、愚か者。

(2016.1.31 花崎泰雄)

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牛刀割鶏

2016-01-24 22:59:43 | Weblog

1月16日の台湾総統選挙で、民進党の蔡英文が国民党の朱立倫を圧倒的な大差で破った。また、立法院選挙でも民進党が過半数を占めた。台湾は今年5月、親中国路線を進めてきた馬英九・国民党政権から8年ぶりに、独立志向の強い蔡英文・民進党政権に移る。

蔡英文と民進党の勝利を受けて、中国の国営テレビが1月20日、台湾攻撃準備をにおわすような人民解放軍の演習のニュースを流し、台湾は一時、緊張に包まれた。だが間もなく、台湾国防部が放映された映像を分析、ニュースは過去の軍事演習の映像を編集し直して放映したものであると説明した。

中国は台湾総統選と立法院選挙の結果を歓迎しないが、新たに軍事演習をすることもせず、古い映像資料をつなぎ合わせて、台湾の新政権の独立への動きに予防線を張って見せた。

中国は台湾の総統選挙を民進党が有利に進めていることで、選挙前からいらだっていた。

韓国で活躍する台湾出身の16歳の少女タレント周子瑜が台湾の青天白日旗を持っている姿が昨年テレビで流れた。そのことで、中国で批判の声が高まり、周子瑜が総統選挙の直前の1月13日、「中国は一つしかなく、海峡両岸は一つであり、私は中国人であることをいつも誇りに思っています」と謝罪した。このシーンはyoutubeで見ることができる。

これを受けて、今度は台湾で、周子瑜は中国の圧力で必要のない謝罪をさせられたと怒りの声が上がり、民進党の蔡英文主席はもちろん、国民党の馬英九主席や国民党の総統選候補者・朱立倫も、謝罪などする必要はなかったと語った。

台湾のメディアはこの事件で、親中国路線を進めてきた国民党への批判が強まり、相当数の票が民進党に流れたと分析している。

     <台湾総統選確定得票>

   当選  蔡英文(民進党)   6,894,744(56.12%)
       朱立倫(国民党)   3,813,365(31.04%)
       宋楚瑜(親民党)   1,576,861(12.84%)

米国の政権は中国を刺激しないように対中協調的な姿勢をとり、台湾に対しては独立の動きをけん制してきた。米国のこのような姿勢の下で、馬英九・国民党政権の中国接近政策が進んだ。だが、2014年の、馬政権の対中国のめり込みを批判する学生たちの立法院占拠を機に、台湾人の国民党政権に対する不満がたかまった。同時に、南シナ海をはじめとする中国の海洋進出で、アメリカの台中警戒心もまた高まり、米国は台湾に対してミサイル搭載フリゲート艦4隻の売却を決めた。

米国は「台湾関係法」(Taiwan Relations Act)によって、 米国が中国を承認したのちも、米国と台湾の関係は外交関係消滅前と同じように続く、としている。したがって、中国の台湾に対する態度しだいによって、米国の台湾派が動きを強める。それと呼応して台湾の独立派が米国との関係をそこなわないで、独立志向の動きを強める余地が生じてくる。

蔡英文民進党主席は台湾独立については慎重な言葉遣いをしているが、国共内戦に敗れた蒋介石・国民党が台湾に逃れてきて来たのが1949年末のことで、あれから60年余がたつ。

今の台湾人のアイデンティティーは、中国との一体化よりも、台湾の独自性に重きを置いている。若者ほどその傾向が強い。やがて大陸に郷愁を感じる世代は消え去り、台湾人の中国観は、人種的には中国系が圧倒的多数を占めるシンガポールと同じような中国観へと移行するだろう。

(2016.1.24 花崎泰雄)

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インドネシアのイスラム武闘派

2016-01-18 23:18:03 | Weblog


インドネシアの首都ジャカルタの中心部で発生した1月14日の爆弾テロ事件は、ISが犯行声明を出した。ISがそのテロ活動の場を中東・欧州からアジア太平洋地域に拡大させたものだとして、大きな関心が寄せられている。

ただ、よくわからない部分も多く、ISがいったい何の目的で世界最大のイスラム人口を擁するインドネシアを攻撃の対象に選んだか、という点がその1つである。米国が主導する有志連合軍はイラクとシリアのIS拠点を空爆してきた。有志連合には英米仏の外、いくつかのヨーロッパの国やアラブのイスラム国、オーストラリアが参加している。インドネシア軍はIS空爆に参加していない。逆に、インドネシアの民間人のイスラム教徒がIS支援のために個人的にシリアに渡っている。

この種の事件がインドネシアの代わりにオーストラリアで起きたのであれば、オーストラリア軍によるIS攻撃に対する報復テロという解釈が成り立ち、話は分かりやすくなる。だが、ISがジャカルタを攻撃し、世界最大のイスラム人口を抱える東南アジアの大国インドネシアの世論を敵に回そうとする意図がわかりにくい。北朝鮮の支離滅裂な冒険主義の真意と同じ程度に読み解くのが難しい。

インドネシアからのニュースによれば、シリアに入ったインドネシア人、バハルン・ナイムが攻撃のための資金を提供したという説も出ている。もし、事実だとすれば、それは次のことを意味する。目的は不明であるが、テロ攻撃を繰り広げることを目的とする凶暴な団体ISに、インドネシア建国以来の、インドネシア現代史の中の宿痾ともいえるインドネシアの武闘派イスラム組織が共鳴して、再び活発に動き始めた、ということである。

2010年以降しばらくの間、インドネシアの武闘派イスラム組織は鳴りを潜めてきたが、それ以前は活発なテロ活動を続けていた。2009年にはジャカルタのマリオットとリッツ・カールトンの2つのホテルで自爆テロ事件がおき、7人が死んだ。2005年にはバリ島で自爆テロが起き、23人が死んだ。2004年にはジャカルタのオーストラリア大使館前で爆弾テロがあり9人が死んでいる。その1年前の2003年にはジャカルタのマリオット・ホテルで爆弾事件があり、12人が死んだ。2002年にはバリ島で爆弾事件があり、202人が死んだ。2000年にはインドネシア各地で教会が攻撃され19人の死者が出ている。

これらの事件はインドネシアから大勢の若者がアフガニスタンにわたり、タリバンとアルカイダの影響を受けて帰国していたころに起きた。この時期のインドネシアの武闘派イスラムは、インドネシア・イスラム国家の樹立を夢想していた。

インドネシア・イスラム国家樹立はインドネシアの過激派イスラムにとって見果てぬ夢なのである。インドネシア共和国の指導者たちは、独立にあたって、イスラム国家とするべきか、世俗国家で行くか、激しい論争を繰り広げた。最終的には、多数派のイスラム教徒が譲ることで、イスラム以外の宗教を信じる人たちの離反をさけ、共和国内にとどまることができるようにするため、イスラム国家を退け、世俗政治の国家を選択した。以来、インドネシアは世界最大のイスラム人を抱える国でありながら、イスラム教は国教ではなく、プロテスタント、カトリック、ヒンドゥー、仏教とともに公認5宗教の1つであるにすぎない。

インドネシアが旧宗主国オランダと独立戦争を戦っていたころから、イスラム国家樹立を目指すダルルイスラムの運動が激しくなり、オランダ撤退後は、共和国に対して武装闘争を始めた。小規模とはいえ、インドネシアは共和国樹立当初からイスラム神政主義者による分離運動を、ジャワ島とスラウェシ島で経験している。

ダルルイスラム運動を指導したカルトスイルヨは1962年にジャワ島で共和国軍にとらえられ、軍法会議の判決で死刑になった。以後、カルトスイルヨはイスラム国家自立を夢見る戦闘的イスラムのヒーローになった。

スハルト時代のインドネシアはイスラム教徒の政治活動の抑圧を続け、カルトスイルヨの流れをくむイスラム国家樹立イデオローグは隣国のマレーシアなどに逃れていた。1998年のスハルト大統領退陣以後、イスラム過激派の動きが活発になった。2002年の202人が死んだバリの爆弾事件を起こした武闘派組織ジェマー・イスラミアを指導したと疑われたアブバカル・バアシルもカルトスイルヨのイスラム国家の考えを引き継いでいる。バアシルはスハルト政権のイスラム弾圧でマレーシアに逃れ、スハルト退陣でインドネシアにもどってきた。

2002年のバリ島爆弾事件を始め、21世紀初めの10年ほどの間のインドネシアの爆弾事件は、思想的にはカルトスイルヨのイスラム国家運動の流れが、アフガニスタンのタリバンとアルカイダの武装闘争と共鳴することで生み出されたものである。したがって、タリバンやアルカイダがその活動範囲をインドネシアに広げたとは解されなかった。

今回またインドネシアでは、ダルルイスラム運動の記憶という古い革袋に、ISという新しい酒が盛られたのである。

(2016.1.18  花崎泰雄)
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ISとの戦い

2016-01-09 23:58:59 | Weblog
[1月9日 ベルギッシュ・グラットバッハ(ドイツ): 小野フェラー雅美]

クリスマス前にあったある時事ディスカッション・クラスで、50代のドイツ人の同僚が、甥を送る不安を述べる長い詩を披露した。一昨年アフガニスタンから戻った彼の34歳の甥(職業軍人)は、この1月6日にシリアに派遣された。

2011年に徴兵制を廃止して5年。ドイツ連邦軍は女性も含む18万人弱の職業軍人からなる兵力を持つ。第三次メルケル政権下、2013年の組閣以来、メルケル首相のキリスト教民主同盟の副党首でもあるウルズラ・フォン・デア・ライエンが国防相として連邦軍の軍政を取り仕切る。彼女は元医師の政治家で3人の子を育てた。

連邦軍派遣はコソボ、アフガン後これで三度目。昨年12月4日の議会で「1200人の部隊の派遣を445対146票で可決し、軍用偵察機のトルコでの待機と、フランス空母シャルル・ドゴールを守る一艦隊と給油機一機の出動を決めた」(スイス紙『ノイエ・チュリヒャー・ツァイトゥング』12月4日電子版)。

これは、去年11月13日の「IS(イスラム過激派組織)によるパリでのテロに対するフランスの決議をサポートするためのドイツ連邦議会の議決結果であり、共同体の安全のための組織枠内での国外出動であれば基本法を侵害するものではない、という1994年の連邦憲法裁判所の決定を踏まえている」(前出スイス紙)。ここで「共同体」とは、NATO(北大西洋条約機構)を指す。

ドイツの大連立与党は、①難民が押し寄せる現状の根源を断つため、また、②ヨーロッパ(パリ)までテロの焦点を移したアグレッシヴなISに対抗し、共同体の安全を守るための隣国サポートという形で基本法を侵害しない範囲でのシリア空爆参加を促した。野党は、空爆ではIS以外の住民を巻き込んでしまい、却って難民を増やす結果となることなどを理由に反対し、議会は大きく揉めた。

12月の決議後、巷で様々な職業をもつ知人・友人たちとディスカッションの機会があったが、一般国民はパリで起こった複数のテロ事件を隣国のこととしておれず、EUが団結して事に当たるべきとして、野党の反論にも一理あることを認めながらも、ISを増長させ勢力範囲が拡大の一途にある状況を手をこまねいて見ていることはできないと、基本法の範囲内での派兵を是認しているようだ。

「イギリスは、下院が圧倒的に」アメリカのIS掃討作戦への「参加を決めるや、数時間後には」「キプロス島のアクロチリ基地から」「シリアへの最初の空爆を始めた」(英紙『ザ・ガーディアン』2015年12月3日)。397対235票(約63%)なので、ドイツ連邦議会(75%)と比べると「圧倒的」とも言えない気がするが、戦闘機は議決されるや早くも数時間後には実際の空爆に発って行った。

二次大戦後のNATOでは危機の度に各国それぞれの対処をしており、イラク戦に参加しなかった仏独は、直接アフガニスタン南部を攻撃した英米に対し、NATO軍指揮の下、国際治安支援部隊(International Security Assistance Force, ISAF)として参加。当時シュレーダー政権(社民党と緑の党の連立)がアフガニスタン派遣を決めた。イラク戦で弱ったアメリカがアフガニスタン駐留兵力の削減を始めたあとも、両国はアフガニスタンの「地方再興チーム(Provincial Reconstruction Team)」を組み、戦闘のなかった北部の復興を2014年までサポートした。しかし、きちんとした政権も確立できないアフガニスタンでの「復興」はままならず、戦闘状況が増加していたこともあり、匙を投げた形で連邦議会の議決後共同撤退した近い過去がある。

大衆紙『ビルト』(ドイツ)は、2016年1月5日に「今朝9時30分にドイツ戦闘偵察機それぞれ2機がシュレスビヒ・ホルシュタインとラインラント・プファルツを発ちトルコに向かった」と報じ、『フォーカス・オンライン』(ドイツ)は1月8日、「トルコのインジルリクに配備されたドイツ戦闘機2機は金曜(1月8日)、シリアとイラク上空の最初の偵察飛行を3時間弱行った」「連邦軍のシリア出動はこの偵察機2機の他、空中の戦闘機給油用エアバス1機と仏空母を守るための艦隊とからなり、これは11月半ばのパリに於けるテロ事件後にフランス政府の要望によるものだった」と報じた。先月初めの参戦議決後ドイツ空軍はフランス領海でフランス艦隊との共同演習を行っていた。

ロシアも対IS空爆を実際に行っているのだが、「ロシア政府の言に反し、IS拠点というよりも、反アサド勢力の拠点をターゲットとした空爆が行われている、とシリアの活動家が警鐘を鳴らしている」(前出『フォーカス』)。秋のアサド大統領のロシア訪問の際プーチンが取り交わした約束(アサド援助)が取り沙汰されている。シリアの人権擁護ネットワークの集計によると、2015年に一般人民を最も多く(16000人程の内の75%)殺害したのがアサド政権という(前出『ビルト』)。

トルコは、IS勢力に包囲されたトルコ国境近く(北シリア)のクルド人の町を救うためとして戦車部隊を含む陸軍を出動させたが、トルコ国内で禁止されているクルディスタン労働者党の拠点を攻撃していると、トルコ国内のクルド人のみでなく、ドイツ国内でもエルドアン大統領の反対勢力鎮圧のための空爆が批判されている。「NATO事務総長のイェンス・ストルテンベルクは、トルコ首相のアフメト・ダウトオールに、クルディスタン労働者党拠点の空爆は、クルド人との平和へのプロセスを危険に晒すことになる、と忠告した」(前出『フォーカス』)。

ドイツ国内で1ヶ月前の議決時に聞かれた、空爆では対象をIS勢力に特定できない、的を絞ってIS勢力を抑えるためには、トルコとの共同作戦による地上戦を考えるべき、というディベートは、内政を反映したトルコ参戦背景と基本法を鑑みた故か、今はまったく聞こえなくなっている。

もともと難民の元凶を断つための対IS戦だが、このように多くの政治的思惑が絡み、難民受け入れ側のドイツでも、今まで通りの受け入れは行いきれない事態が発生している。

大晦日のケルン中央駅前広場で難民を含むアラブ系・北アフリカ系らしい若い男たち千人ほどの内の、多数がドイツ女性に性的暴行と現金や携帯電話の強奪を大掛かりに行ったこと(現届出数120件以上)が明るみに出、新年の3日以降のニュースは、この件に関する政治家・警察・市民運動家による難民政策への批判で埋まり、メルケル首相の難民受け入れ態勢への考え直しが大きく問われることとなった。ケルンでの事件が一番大きかったのだが、ケルンの件数ほどではなくても、ハンブルクやシュトットガルトからも似た現象と届出が報じられ、この件に関して大手各紙(紙面と電子版)は正月以来連日一面で大きく取り上げている。ケルン駅前で大規模な反イスラムデモとそれに対抗するデモが行われている。

たまたま私たちの娘は大晦日をケルンで祝った。深夜過ぎにケルンからデュッセルドルフに戻る電車が警察の大掛かりな手入れにより1時間以上止まった。彼女が現場を目撃していることから、私たちは大変近いところから事態の成り行きを見守っているところだ。



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アメリカの初夢

2016-01-05 14:24:32 | Weblog

オバマ米大統領が2016年の年頭演説で、米国社会に蔓延する銃をつかった暴力の問題の解決に、大統領の行政権限を使って取り組むことを表明した。

オバマ大統領は2期目の大統領就任を前にした2013年1月16日に「いまがその時だ――銃による暴力を減らして子どもとコミュニティーを守る大統領計画」を発表していた。①銃が危険な人物の手に渡るのを防ぐために、流通の抜けを塞ぐ②軍隊式の攻撃用銃や、高性能弾倉を一般社会に流通させることを禁じ、銃による暴力を減らすための他の常識的な手段(common-sense steps)を用いる③学校を安全にし④メンタル・ヘルス・サービスを利用しやすくする――といった内容だった。

しかし、オバマ大統領の計画はその後3年たっても議会の支持を得ることができなかった。その間、米国社会では銃乱射事件が絶えることがなかった。

今年が大統領としての任期の最後の1年になるオバマ氏は大統領の行政権限を使って、一方的行動(unilateral action)をとることも辞さない覚悟を表明した。

下馬評では共和党の次期大統領候補争いで先頭を走っているといわれるドナルド・トランプ氏が、さっそくオバマ演説に咬みついた。「憲法修正2条を変更するようなことはよろしくない。銃を責める者がいるが、引き金を引くのは銃ではないのだ。アメリカの銃乱射は銃のせいではなく、アメリカ人の重篤なメンタル・ヘルスに関わる問題なのだ」

トランプ氏のような物言いは、科学的根拠などくそ食らえ、アメリカ式のやり方が世界中でベストなのだと考えるアメリカの大衆社会に受けが良い。科学的根拠は、大衆社会では受け入れられず、せいぜい高級紙の社説あたりで、細々と論じられるだけだ。

「2001年から2010年までの銃による殺人事件では、そのわずか5パーセント弱が精神を病んだ人物の犯行であるにすぎなかった、と2015年に発表された公衆衛生の研究にある」(2015年12月15日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説=電子版)。

一方、テキサス州では州法の改正で、一般市民でも許可を得ればピストルを腰のホルスターにぶち込んで、堂々と街中を歩けるようになった。ワイルド・ウエストの時代への逆戻りだ。

外から見ればメンタル・ヘルスに問題があるのは、アメリカ社会そのものであることは一目瞭然だ。多かれ少なかれ、どこの国の社会もその国特有のメンタル・ヘルスの問題を抱えている。諸外国からながめれば、日本の保守層の「選択的夫婦別姓制度を導入すれば家族の一体感が損なわれる」という主張は、メンタル・ヘルスの問題に見えるだろう。

ところで、オバマ大統領は大統領1期目の2009年、プラハを訪れたさい核兵器廃絶を目指す演説をした。それを理由に、その年のノーベル平和賞を受けることになった。

もし大統領権限による米国社会の銃規制が成功すれば、「オバマ大統領の2度目のノーベル平和賞受賞は確実だね。フフフ……」と、米国の大学院で学んだことのある知り合いの社会学者が言った。アメリカに土地勘のある人だけに、おしまいの「フフフ……」が何ともいわくありげだ。

(2016.1.6 花崎泰雄)

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