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news commentary

イチロー・オザワと大手メディア

2012-06-21 10:16:36 | Weblog

政治資金をめぐる裁判で無罪判決を受けた小沢一郎だが、ひといきつく暇もなく、今度は身内の妻から、政治生命を絶たれかねないような離婚話を暴露された。小沢一郎に隠し子がいたことは我慢してきたが、小沢一郎は福島原発の放射能汚染を恐れてしばらくの間は選挙区の岩手県にも寄りつかず、東京からさえも逃げだそうとし、ミネラルウオーターで洗濯するよう命じたともいう。妻はこのような自分のことだけしか考えない情けない男に失望して離婚を決意した。妻はこの暴露話を長い手紙にかいて、小沢の選挙区の支持者たちに送った。

概略以上のような6月13日発売の『週刊文春』(6月21日号)の記事を、追いかけた新聞はほんの少数だ。

6月15日に韓国の『朝鮮日報』が「小沢一郎氏、夫人の暴露で窮地に 週刊文春、離婚について暴露する夫人の手紙を公開 『隠し子について聞いても我慢したが、震災後の行動見て離婚を決意』」と、『週刊文春』の記事をフォローした。日本では、『ジャパン・タイムズ』が同じ6月15日付で「Wife writes of divorcing radiation-scared Ozawa」という記事を載せた。テレビ局とその他の大手新聞はしばし沈黙。

その沈黙を破ったのが6月18日付の『毎日新聞』で、コラム「風知草」で『週刊文春』の記事を追いかけた。「文春の記事は、基本的にはプライバシーの暴露である。新聞を含む他の大半のマスコミが追随に慎重な理由の一端もそこにある。だが、暴かれた私信の内容は単に「私事」で片づけられるものではない。日本で最も有名な政治家が震災直後に何を考え、どう動いたかという公的な情報が詰まっている」という理由からである。

コラム「風知草」はまた、「文春編集部は、発売寸前、東京のほぼすべての民放テレビの取材に応じていた。ところが、オンエアされない。調べてみると、小沢系の国会議員からプレッシャーがかかったらしいことが分かった。『取り上げるなら、もうオタクの番組には出ませんよ』と」。ニュースの娯楽番組化で視聴率を稼いでいるテレビがだんまりを決めているのは、小沢の妻の暴露話に食いつくことの損得勘定を慎重に見極めようとしているからだろう。

小沢一郎は田中角栄の弟子で、離婚に関わる暴露話を手紙に書いた夫人とは角栄の紹介で結婚している。その田中角栄は金脈事件で政治生命を絶たれた。

発端は1974年10月発売の『文芸春秋』(1974年11月号)に立花隆が「田中角栄研究――その金脈と人脈」だったが、発売後しばらくの間は、日本の大手メディは『文芸春秋』の記事を無視した。ところが、10月22日、東京の外国特派員クラブが田中角栄を招いて、田中角栄に直接、金脈スキャンダルをただした。

その翌日の10月23日の朝刊で日本の新聞が外国特派員クラブのメンバーと田中角栄の質疑を報じた。田中金脈スキャンダルで田中角栄は1か月ほどののち、首相の座を降りた。情けないことに日本の大手メディアは田中の権力を怖がり、自ら田中角栄に金脈についてただす勇気がなかったのだ。

筆者はスハルト時代のインドネシアの印刷メディアと政治の関係について調査したことがある。スハルト大統領が絶対的な権力を掌握していた時代、スハルトの怒りを招くような報道をしたメディアは容赦なく発禁処分にされた。そこで、インドネシアのメディアは大統領の不興を買いそうなネタは、まず、海外メディにネタを渡して報道させ、そのあとで、「海外のメディアの報道によると……」と記事にした。

小沢一郎をめぐる夫人の暴露手記の一件に対する日本の大手メディアの沈黙が、上記のような情けない話の繰り返しでないことを願っている。

(2012.6.21  花崎泰雄)




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