Podium

news commentary

福笑い

2025-01-14 01:10:13 | 国際

旅の修行僧とこんにゃく屋六兵衛がふんする和尚の問答。

修行僧が「法界に魚あり、尾もなく頭もなく、中の鰭骨を保つ。大和尚、この義はいかに」と問うが六兵衛和尚は無言。ほほう、無言の行だなと勘違いした旅の僧が、手で○をつくると、六兵衛和尚が両手で大きな○をつくって応じる。修行僧が十本の指を突き出すと、六兵衛が片手で五本の指を出す。修行僧が三本の指を出すと六兵衛があかんべえ。修行僧が恐れ入ったと退散する。

〇をつくって「天地の間は」としかけたところ「大海のごとし」と大きな〇。「十方世界は」には「五戒で保つ」と指五本。「三尊の弥陀は」には「目の下にあり」。恐れ入りましたと修業僧が述懐する。

六兵衛は憤慨して毒づく。お前が売っているこんにゃくはこんなに小さいとぬかすから、それはちがうこんなに大きいと答えてやった。十個でいくらかと聞いたので、五百だと言った。すると、三百にまけろという。だからあんべえだ。

昔の正月はテレビでこんな落語を聴いて笑っていた。いまテレビはニュースしか見ない。昨年から今年の正月にかけてドナルド・トランプの独演会が切れ目なく続いている。もうすぐかれの就任式だ。

NATO諸国は防衛費をGDP5パーセントに増やせ。もし私が大統領だったら、ロシアとウクライナの戦争は起きなかっただろう。あの戦争は24時間でやめさせることができる。アメリカの安全保障のためにグリーンランドが必要だ。カナダを51番目合衆国の州にしよう。メキシコ湾をアメリカ湾と改名しよう。パナマ運河を取り戻そう……などなど。

ニュース解説ではジャーナリストや外交専門家、政治学者らがトランプ発言の端々をとらえては、面白おかしく解説をしてくれる。笑門来福の福笑いのゲームさながらだ。

ドナルド・トランプというご仁は、何かの目標を実現するために権力を握ったのではなく、権力がもたらす快感に酔うために権力を握ったのだ。トランプ発言からゴシップ的要素を取り去ると、そのあとに彼の世界観が見えてくるか――存在しない世界観など見ようがないではないか。それが世界中を不安に陥れているのだ。

まもなく大統領の座につくドナルド・トランプ氏は、中国関連の展望を語らない。台湾をめぐる事態への基本的な対応についてだんまりを決め込んでいる。大統領周辺にはいくつかのオプションを持った専門家がいるだろうが、最終的な選択は大統領にゆだねられる。それが世界の初笑いを凍りつせているのだ。

(2025.1.14 花崎泰雄)

 

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