ペンシル・ストライプの紺のスーツを着て、浅緑色のリュックを背負い、何かを詰め込んだプラスチック・バッグと新聞を左手にぶら下げた30代らしい男性がエレベータにーかけこんできた。
行き先階のボタンを押しながら、ため息のような低い声で、やりきれない思いを込めたようにつぶやいた。
「あちー」
そりゃそうだよ。そんな我慢大会のような格好しているんだから。
東京の7-8月の最高気温は平均で30度前後、最低気温は24度前後だ。背広発祥の地ロンドンのそれは、最高が25度、最低が15度ほど。夏に背広を着るのなら、ロンドンが南限だ。
兼好法師の昔から「家の造りようは夏をむねとすべし、暑いころ悪い家は耐え難いことだ」といわれてきたのに、いまでは多くの住まいがコンクリートの箱になってしまった。昼間たっぷり夏の熱を蓄積し、夜になっても箱の中は暑い。
考えてみると日本の気候は、正直なところ、よくない。日本の大部分が春雨、梅雨、夕立、秋雨、時雨と、雨ばかり降る湿潤なところで、夏はその湿潤に暑さが加わる。夏はシンガポールのほうが涼しい。
夏炉日本冬扇こそは恋しけれ火焔山消すかの芭蕉扇
閑散人
(2009.8.1 花崎泰雄)
行き先階のボタンを押しながら、ため息のような低い声で、やりきれない思いを込めたようにつぶやいた。
「あちー」
そりゃそうだよ。そんな我慢大会のような格好しているんだから。
東京の7-8月の最高気温は平均で30度前後、最低気温は24度前後だ。背広発祥の地ロンドンのそれは、最高が25度、最低が15度ほど。夏に背広を着るのなら、ロンドンが南限だ。
兼好法師の昔から「家の造りようは夏をむねとすべし、暑いころ悪い家は耐え難いことだ」といわれてきたのに、いまでは多くの住まいがコンクリートの箱になってしまった。昼間たっぷり夏の熱を蓄積し、夜になっても箱の中は暑い。
考えてみると日本の気候は、正直なところ、よくない。日本の大部分が春雨、梅雨、夕立、秋雨、時雨と、雨ばかり降る湿潤なところで、夏はその湿潤に暑さが加わる。夏はシンガポールのほうが涼しい。
夏炉日本冬扇こそは恋しけれ火焔山消すかの芭蕉扇
閑散人
(2009.8.1 花崎泰雄)