注射してはいけない、飲んではいけない。医者も公務員もメーカーも、アメリカ中が大騒ぎしている。民主党の大統領選候補予定者であるバイデン氏は「どうか漂白剤を飲まないで下さい」とツイッターに書き込み、ペロシ下院議長は「共和党員の科学拒否の表れ」と批判した。
もとはと言えば、皆様ご存じのアメリカはホワイトハウスの主の無知な発言から。ホワイトハウスのブリーフィングで、国土安全保障省の科学担当次官補代理が、ウイルスはアルコールや漂白剤に弱い可能性があると説明したのをうけて、アメリカ大統領であるトランプ氏が、消毒剤を人体に注入すればウイルスをやっつけることができるかもしれない、と発言した。
こ発言に全米、全世界が驚愕した。
翌日の記者会見でトランプ氏は、記者諸君に皮肉を込めて言った冗談であると、記者からの追及をかわそうとした。会見に立ち会っていた新型コロナウイルス感染症のホワイトハウス責任者であるペンス副大統領はすぐさま記者会見を打ち切った。
“You are fake news.” 以来、むしゃくしゃすると記者たちに八つ当たりするのがトランプ氏の流儀。それがトランプ支持層に受ける。トランプ氏も彼の支持層の多くも、デモクラシーとコモン・センスを守る番犬役がジャーナリズムの使命であるとする、一部のアメリカのメディアを嫌っている。インテリのスノバクラシーで、鼻持ちならないとして。
トランプ氏に親い日本の安倍首相も、この間、記者会見で質問に立った新聞記者を揶揄した。朝日新聞の記者が不評のアベノマスクについて質問したところ「御社のネットでも布マスクを3300円で販売しておられた。つまり需要も十分ある中で配布した」と、暗にマスク不足で暴利をむさぼっているかのような発言だった。よく言った。あのお高く気取った朝日新聞に強烈なパンチを送ったと、留飲を下げた人たちもいた。
そのあとメディアが、そのマスクが繊維製品の産地である泉佐野市と商工会議所が企画して、老舗の繊維会社が造った手作りの高性能マスクであると報じた。2枚一組の定価が3300であることも明らかにした。黙っていられなくなった泉佐野市長が首相官邸を訪れる事態に発展した。
首相に代わって応対した首相補佐官に、泉佐野市長がこのマスクを使ってみてくれと2組を渡した。補佐官は代価6600円を泉佐野市長に支払った。首相本人ではないが、補佐官が6600円を支払ったということは、それだけの値打ちがあると首相官邸が認めたということである。
ものにはピンとキリがある。酒もそうだし、マスクもそうだし、政治家もまた。
(2020.4.26 花崎泰雄)