日本と韓国の間で繰り広げてきた従軍慰安婦をめぐるいさかいを、ここらでもうやめようと、日本の岸田文雄外相と韓国のユン・ビョンセ外相が、2015年12月28日、要旨次のような共同記者発表を行った。
日本の岸田外相は①慰安婦問題には当時の日本軍が関与しており、日本政府は責任を痛感している②安倍首相も、心からおわびと反省の気持ちを表明している③日本政府は、日本政府韓国政府が設立する財団に日本政府の予算で資金を拠出し、日韓両政府が協力し元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復などの事業を行う④日本政府はこれらの措置を着実に実施するとの前提で、今回、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。あわせて、日韓両国政府は、今後、国連等国際社会において、慰安婦問題について互いに非難・批判することは控える⑤日本政府の拠出金は、10億円程度である、と表明。
韓国のユン外相は①日本政府が表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する②韓国政府は、在韓国日本大使館前の少女像について、可能な対応方向について関連団体と話し合いを行い、適切なかたちで解決するよう努力する③韓国政府は、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、慰安婦問題について互いに批判することを控える、と表明した。
慰安婦問題に、①旧日本軍が関与していたことを日本政府が認めてその責任を痛感し、日本国首相が心から反省とおわびをしたことで、日韓関係は1993年の河野談話のころと同じ状態に戻ったことになる。ただし、日本政府が表明した事柄を着実に実施することが「最終的かつ不可逆的解決」の前提になるので、韓国政府が日本政府の態度を約束違反だと解するような事態になれば、当然、解決は最終的でもなく不可逆的でもなくなる。
日韓の相互嫌悪がここまで悪化し、米国政府が東アジアの安全保障環境の観点から、腰を上げて日韓関係の修復に乗り出すまでになったのは、一つには、1993年の河野談話を安倍政権が見直そうとしたことにその原因がある。米国が言うところの安倍晋三首相および日本の歴史修正主義者たちの言動と、韓国の内政と外交のリンケージによる対日強硬路線との、その相互作用による関係悪化だった。
安倍晋三首相もパク・クネ大統領も関係悪化に大いに一役買ったが、その両者が今回、和解の手打ちをやったわけである。米国から相当に強烈な説得があったのか、日韓において背景にどんな政治事情があったのか、メディアが徹底的に掘り下げてくれるのを楽しみにしている。
日韓政府間の手打ちはすんだが、日韓両政府と韓国の元慰安婦やその支援組織とのあいだのわだかまりや、安倍政権やパク政権に煽られて、嫌韓・嫌日で気分を高揚させてきた両国の街の人たちの近親憎悪のメンタル・ケアをどうするか、残る課題は少なくない。
日本政府が拠出する10億円はソウルの日本大使館前におかれている少女像の撤去が前提になっている、と日本の複数の新聞が伝えた。朝日新聞は12月30日付朝刊1面で次のように書いている
「『合意されたことは、しっかりフォローアップしないと』。安倍晋三首相は日韓両国が慰安婦問題で合意した翌29日、滞在先の東京都内のホテルで帰国報告した岸田文雄外相にこう告げた。首相の念頭には、ソウルの日本大使館前にある「少女像」の移転問題があったと見られる」
「首相は、岸田氏に24日、年内訪韓を指示した直後、自民党の派閥領袖と電話した。少女像の移転問題について、『そこはもちろんやらせなければなりません。大丈夫です』と語ったという。
「見られる」「という」という朝日新聞の伝聞体の報道が事実であれば、日本の愛国保守政権は、10億円は少女像の撤去費用である、ととれる物言いをしており、次の日韓亀裂線拡大の原因になりうる。
Much Ado About Nothing はシェイクスピアの喜劇だが、このたびの日韓和解は、1960年代に流行語になった、元代議士田中彰治の「マッチポンプ」がピタリの寸劇だった。パク・安倍の2人が火をつけて炎上させ、その2人が歴史的和解を演出した。
(2016.1.1 花崎泰雄)