結局は隠れ家を突き止められて米軍の兵隊に殺されてしまったのだが、オサマ・ビン・ラデンはパキスタンのアボタバードに隠れ住んで以来、携帯電話もインターネットもeメールも使わなかった。連絡は出入りする連絡係に口頭で伝えた。世界最大のスパイ機関である米国のNSA(国家安全保障局)に盗み見・盗み聞きされることを恐れたからだ。
イギリスの秘密情報機関MI5やMI6にならって、米国は第2次大戦後にCIAやNSAをつくり、秘密情報に聞き耳を立てた。CIAの方は米国のアフガニスタン攻撃の時のように実際の戦闘に参加することもあるが、NSAの方は数万人規模の人員を使って世界中のシギント(信号情報)を見張っている。世界に張り巡らせたエシュロンという盗聴ネットワークを取り仕切っているのもNSAである。
戦前、日本の外交暗号電報は米国側に解読されていた。米国政府による外国の政府の暗号電報傍受が米国内法には抵触しないように、外国情報の盗聴・収集も法に触れない。ニクソン元大統領がウォータゲートの盗聴事件やホワイトハウス内の盗聴録音機問題で失脚したように、米国内で米国人を対象にした盗聴は、裁判所のしかるべき令状がない限り、違法であった。
それが、9.11事件を機に、ブッシュ政権が令状なしの国内盗聴をNSAに行わせた。国内からの批判でやめたことになっていたのだが、それがまだ続いていることをエドワード・スノウデンという男性がガーディアン紙とワシントン・ポスト紙に暴露し話題になっている。
オバマ大統領は議会や裁判所から了解をとっていると弁明しているが、裁判所が政府からの盗聴申請を拒否したのは全体のわずか0.3パーセントにすぎない(ウォールストリート・ジャーナル紙)。
興味津々な点は、インターネット関連の通信企業がどの程度NSAに協力していたかだ。中国本土に進出したグーグルが中国政府のインターネット監視政策と折り合いがつかず、拠点を香港に移したことがあった。アメリカの企業は米国政府のインターネット監視とどう折り合いをつけるのだろうか?
(2013.6.11 花崎泰雄)