日韓の竹島/独島の領有権問題をめぐって韓国の聯合ニュースがこんな記事を流した。(2012.8.26)。
「日本政府は韓国との通貨交換(スワップ)協定拡大の見直しや、国債購入の見送りなど経済面での『報復措置』を示唆したが、韓国証券市場に影響は出なかった。外交消息筋は『日本が以前とは変わってしまった存在感を自覚する契機になったかもしれない』と指摘する」
つまりは日本に対して身の程を知れというところまで韓国が自身の実力と存在感を高めたということであろう。慶賀の至りである。
その韓国ではこの12月に大統領選挙がある。有力候補のパク・クネが父親である故パク・チョンヒ元大統領の過去の言動を他の候補からあれこれ持ち出されて選挙キャンペーンの足を引っ張られている。
その一つが1965年の日韓基本条約準備の段階で、条約締結の実現にむけてのどに刺さった骨になっていた竹島・独島の領有権争いについて、島を爆破してしまいたいとパク・チョンヒが言った記録が米国の外交記録に残っているという古い話のむし返しだ。パク・チョンヒより以前にパク元大統領の側近だったKCIAのキム・ジョンピルもそのことを口にしていたという話もある。あのころは、韓国の指導者は独島を爆破してでも日本からの協力が欲しかったし、そうすることが愛国の行動だったと信じていたということだろう。
韓国はイオド(離於島)/蘇岩島という東シナ海の暗礁をめぐって中国と領有権争いをしている。ソウルの東亜日報の日本語版サイトには、中国は韓国の離於島などアジア周辺国と領有権争いをしている地域に、2015年までに無人機監視・モニタリングシステムを構築することを決めた、という記事をのせた(2012.9.25)。「これは、中国が一方的に管轄権を行使するということを意味し、実行過程で対立が予想される。主な領有権争い地域には、離於島(中国名・蘇岩島)、尖閣諸島(中国名・釣魚島)、そしてフィリピンが実効支配しているスカボロー礁(中国名・黄巌島)が含まれる」と東亜日報は書いている。
スカボロー礁の領有権争いで「中国の旅行社はフィリピンへの旅行を取りやめ、中国当局はフィリピンが輸出したコンテナ1500ケース分のバナナを検疫上問題があるとして上陸させなかった。傲慢にも中国の主権を侵そうとしているフィリピンを罰すべきだと中国の国営メディアは論調を張り、中国の軍高官はフィリピンに対する軍事行動さえ口にした」(『マニラ・タイムズ』2012.9.2)。中国は南シナ海の西沙諸島の島の領有権をめぐってベトナムと砲火を交えているだけに、中国が軍事行動を口にすればフィリピンにとっては大変な衝撃であろう。フィリピンは米国に応援を要請した。
太平洋の対岸のアメリカ合衆国からは東アジアの動静はどのように見えるのだろうか。その一例とし『クリスチャン・サイエンス・モニター』がつぎのような面白い論評を掲載した(2012.9.5)。
今の中国の行動は1920年代から30年代にかけての日本のそれによく似ている。日本はむき出しの軍事力を使って満州国をつくり、中国に侵入した。朝鮮半島・台湾・中国を越えて大東亜共栄圏を構想し、西洋の影響下にない日本が主導する地域つくろうとした。中国は建国後、北朝鮮の韓国への侵攻を支援し、チベットと東トルキスタンを併合した。インドやソ連と国境線をめぐって軍事衝突した。ベトナムが中国の盟友だったポル・ポトのカンボジアに侵攻したとき、中国はベトナム北部に攻め入った。そしていまや増強した軍事力を背景に黄海、東シナ海、台湾海峡、南シナ海に手を広げ、海南島の海軍基地はインド洋さへもにらんでいる。
したがって、「新・大東亜共栄圏」を推し進めようとする冒険主義の中国を、アメリカは周辺諸国と協力して押しとどめなければならない――というのが話の結論である。
中国と領有権争いをしているインドの新聞『タイムズ・オブ・インディア』がこんな記事を掲載した(2012.9.20)。尖閣問題で中国と対立している日本と手を組んで、インドがアジア太平洋地域に影響力を拡大しようとする中国を阻止する動きに出るのではないかと、中国側は心配していると報道した。中国包囲網をつくろうと提案しているのだ。
上記のような最近の記事は、膨張主義の中国に対する不安をあおる。だが半面、中国はいまなお脆弱な国でもある。中国は毎年2000万人という途方もない求職者に対して職を用意しなくてはならない。これに失敗すると共産党政権の命取りになる。共産党政権の崩壊後には何が起きるか。一例がソ連邦の解体・分裂である。経済拡大でこれを防いでも、もうそう長くは続かない。早晩、中国の人口は減少に向かい始める。停滞する経済のもとで急増する高齢者を養わなければならなくなる。今の日本と同じ状況が襲ってくるのだ。壮年期の意気盛んな中国もやがては年金が話題の中心になる老年期の中国に変わっているだろう。
それまで間、日本は尖閣周辺の領海に中国の船が入ってきたら、そのたびに警告し、退去を願うことでお茶を濁し続けるしかないだろう。もともと、「尖閣問題は棚上げ」が日中間の当初の暗黙の了解だったのだから。
(2012.9.25 花崎泰雄)