特定の党や候補者が有利になるように選挙区の区割りをすることをゲリマンダーと呼びならわしてきた。
百科事典を見るとこんなことが書いてある。19世紀初めの米国で、エルブリッジ・ゲリー(ジェリーともいう)マサチューセッツ州知事が行なった州議会議員選挙の選挙区の区割りで、自派に有利になるように行った選挙区の形が伝説の怪獣サラマンダー に似ていたことから、ゲリマンダーと風刺の的になった。日本では、1950年代に鳩山一郎内閣が憲法改正に必要な衆議院議席確保をめざして、小選挙区法案を提出したことがある。小選挙区案の中に奇妙な形をしたものがあり、ゲリマンダーをもじってハトマンダーと揶揄された。
最高裁の違憲状態判決を受けて、衆議院小選挙区の是正が求められている。このところの報道によると、安倍首相は0増6減案でお茶を濁し、抜本改正を2020年以降に先送りする意向を示している。
2月29日の朝日新聞夕刊によると、民主党の岡田克也代表が、2010年の国勢調査をもとにアダムズ方式で都道府県ごとの定数配分を見直し、2015年調査をもとに都道府県内の選挙区区割りも変えるべきだ、と主張した。
これに対し、安倍首相は「5年ごとに県の人数が変わるのを導入してしまえば、毎回毎回、大きな議論をしなくてはならない」「あと4年すれば、新たな国勢調査が出てくる。そこでやるのが当たり前ではないか」と応じた。
安倍政権にとって、いまの小選挙区区割りを温存する方が有利だ。したがって、抜本見直しは先送りにし、最高裁が次回も「違憲状態」と判断してくれる程度の修正を加えるだけで現状維持したほうがよかろう、と判断したまでであろう。
「5年ごとに県の人数が変わるのを導入してしまえば、毎回毎回、大きな議論をしなくてはならない」という安倍発言が事の真相をよく表している。人口の増減を的確、速やかに選挙区の構成に反映するのが、「一票の平等」の基本である。とくに小選挙区制にあっては、こまめな選挙区の見直しが必須だ。5年ごとでも、選挙ごとでも、区割りを修正・変更すればいいはずなのだ。それが「大きな議論になる」のは、国会議員たちのそれぞれが、それぞれのゲリマンダーを持ちだして、ああでもない、こうでもないと争うからだ。
土俵を丸くするか、四角にするか、そこで相撲を取る力士自身が判断しようとするから、大きな議論になってしまう。選挙区の区割りの件は、国会議員でなく、完全第三者の委員会にゆだね、人口変動に基づく、政治的算術抜きの判断をしてもらえばすむことである。
現職の議員は選挙区区割りに口出しできるが、新顔は今そこにある選挙区で立候補するしかない。現職と新顔でちょっとした有利・不利の差が出てくる。有権者が平等な1票の権利を与えられ、立候補者全員が平等な機会を与えられる選挙区を用意するには、選挙区の設定から議員を排除する必要がある――と主張しても、トランプ氏ほどの暴言にはあたるまい。
(2016.2.29 花崎泰雄)