子どもの頃、農繁期は大人も子供も関係なく駆り出された。学校も農繁期のための休みの日までもうけられてうぃた。現在もように何から何まで機械じゃない時代。1から10まで人間の手が要った。 田植えもそうだった。苗代でモミから育てた苗を抜き束ね、代掻きした田んぼに運んで、大勢の手で植えこんだ。小学生だったわたしは、苗代で苗を用意する手助けだった。満々とたまった水に入って気の遠くなる作業の繰り返しだった。(あれ?)足元を何気なく見やったわたしは黒い異様な物体を発見した。素足になった脛の裏側にへばりついている。隣にいた兄に救いを求めた。「兄ちゃん、これ、なんや?」「うわー!ヒルやんか。血吸うてるぞー!」もうパニックでだ。「とって!取って!はよ取ってー!」泣き叫ぶわたし。一つ違いの兄だって、やはり怖かったのだ。「ア、アホ!そんな触ったら天!」騒ぎに気付いた母がコツンと私の頭をこずいた。「うるさい。ヒルぐらいでギャーギャーいうんじゃないの!」慌てず騒がず母は足にくっついていたヒルをひっぱり取った。赤い血がその跡ににじんだ。「ぎゃー!血やー!」気絶しそうになった。すると、また頭にコツン!「大げさな声出してないで、はよ苗くくらんかいな」母は言葉とは裏腹に、私の頭をそーっと撫でてくれた。それから何度もヒルにくっつかれたが、、いつしか壁になっていた。しばらく血をすわせて眺める余裕すらあった。とはいえ、ヒルとの初遭遇は恐怖そのものだったなあ。
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