老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

6;家族模様2 子を想う気持ちは 死ぬまで変わらない

2017-04-10 05:01:34 | 老いの光影
桃子さんは 息子から「この人」と呼ばれ 冷たくされても

そんなことは気にせずにいる

86歳の齢を重ね 老いた親の身であっても

子を想う気持ちは 死ぬまで変わることはない

自分と同じ教員の道を継いだ息子は 

母親にとって誇りであり自慢の子でもある

夫の介護疲れも手伝い

腰痛、高血圧、喘息などの病を抱えていた

服薬はまったくできておらず

飲まなかったり飲んだりで

押入れには残薬が数えきれないほど無造作に置かれてあった

眠剤も2種類処方され

同じ薬のシートだけが破られ袋に入ってあった

頭が痛いということで 一度に眠剤を数錠服薬したことが原因で

意識朦朧(いしきもうろう)とされ

息子の車で総合病院に3回も搬送された(最近、9か月間のなかで)



歩行器がなければ家の中は歩けずトイレまで這って移動

何よりも三度の食事は摂っていなく

生命を維持する基礎代謝量は不足していたからなのか

いつも原因不明の熱発が続いていた

長男夫婦が同じ屋根の下に住んでいても

生活は別々であり

食事作りの他に洗濯も立つことはままならず

なされていなかった



部屋は南向きで陽は当たるが

足の踏み場もないほど

ゴミなのか必要なものなのか

本人でなければわからない状態で散乱

黒とトラ模様の猫が座布団の上で寝ていた

トラ猫は大きな腹をしていて まもなく子どもが産まれる

と 彼女は話してくれた

(このような状態にあっても彼女は要支援2のままであった)

担当ケアマネジャーに

「要支援の状態ではない」と話しても

「要介護になっても使うサービスは要支援と変わりないから必要ない」と。



デイサービスに来るときは 着替えも持たず

醤油で煮詰めたような色のタオル一本

下着はボロボロで 脱ぐと砂や小さなゴミが床に落ちてゆく

37.0℃台の熱があっても

週2回の「デイサービスには行く」と彼女は必至で訴える

普通ならば熱で体は怠いはず

それには理由があった

家には食べるものもない

老親が熱があることも知らない息子

お腹はかなり空いていた

「デイサービスに来てやっと(食に)ありつけた」と呟く彼女



午後2時過ぎ 熱は上昇

心配になったデイサービスの管理者 菜々は

ケアマネジャーと息子に電話をかけ

菜々が彼女のかかりつけのクリニックに付き添って行った

中村医師から重大なことを告げられた




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5;家族模様1 母親を「この人」と呼ぶ

2017-04-10 01:23:48 | 老いの光影
誰しもまだ人間関係が希薄な段階のなかで

「在宅訪問」という名のもとに

居間まで上がり、話をされるのは

本当は「有難迷惑(ありがためいわく)」である」と思う

でも 連れ合いまたは親の介護のことで

相談に乗ってくれるというので

仕方がないと諦める

家の中を掃除して待つか

それとも「ありのまま」の散らかった状態で迎いれるか

人 さまざまである

介護の状況や生活の様子の一コマを見れるので

掃除をしないで「ありのまま」のほうがいい



大きな家に6人が住む教師家族 

ばあさんと長男夫婦、長男の子ども3人

じいさんは 数年前ばあさんの手厚い介護を受け

あの世に行った

じいさんもばあさんも 元教師

長男と長男嫁も小学校の教師

朝早く長男夫婦は学校へ出勤するので

ばあさんの朝食は用意されておらず

長男はばあさんのことを母親であるにもかかわらず

「この人」と呼ぶ



ばあさん お母さん 桃子さん の何れの名で呼ぶことはない

「この人」と呼ばれたばあさんは、怒ることもなく「・・・・」である

初対面で私、「この人と付き合うかも」「この人と結婚するかも」

そういうときの「この人」は瞬間的な出会いや運命を感じる

しかし、介護を受けるほど身体が弱ってきている母親には

「この人」と呼ぶ言葉はどういう気持ちででるのだろうか

一時の在宅訪問だけで

親子関係の隙間を窺い知ることはできない

他人の前では恥ずかしいというか 照れくさくて

「この人」と呼んでいるのかな、と思ってもみたが

デイサービス利用の日に桃子さんに聞いてみた

息子は周りに誰が居なくても

私のことを「この人」と呼んでいる

 
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