少し前の話になります。篠山の森公園で,サル博士こと河合雅雄先生の講演会が開かれました。わたしと妻は,河合先生の生い立ちや,業績,それに語り口にずっと関心をもち,惹かれてきているという理由があって,今回も拝聴させていただきました。“今回も”というのは,毎年ということなのです。
今回の演題は『争うことのきらいなサルたち』。90歳の先生に,なお衰えることにないひたむきな研究心,研究の蓄積のあれこれが具体的に刻まれていることに驚きを禁じえません。こんなことをいうと失礼かとも思うのですが,年齢を考えさせないほどに,サル研究から人間のあり方を考える視点がじつにくっきりしているのです。生涯をサル研究に注いでこられた情熱が,この歳になってぐっと熟してきているなあと感じました。
カビが生えてすっかり色褪せたスライド。河合先生には第一級品なのでしょう。争うことの好きな霊長類の代表はチンパンジー,嫌いな代表例は手長ヒヒ,ボノボ。争うがないというころは言い換えれば順位,優劣が存在しないということ。この巧妙なしくみをつくり上げているヒヒの実態に迫るために,アフリカのとんでもない奥地を訪れ,研究された経緯を語られました。
自ら争うことを国是とするような人間のあり方は,サルの研究成果からは途方もなく外れているのだとか。それを「愚かな行動」と言い表して説明されました。英知が傲慢さにすっかりすり替わっている人間の行動というものが,軌道修正する時代が来るのでしょうか。霊長類研究の深さが,またずしーんと迫ってきました。
汲めども汲めども汲み尽くせぬ追求心が,河合先生を揺り動かし続けるエネルギーです。「お聴きできて,あー,よかった!」と大満足。お蔭さまで,今回も知的な刺激をいただきました。
敷地内を散策していると,目に入ったのがクリンソウ群落。傾斜地の一帯にクリンソウが咲き誇って,ハチが訪れていました。すてきな一日になりました。