ヒガンバナが咲き始めました。彼岸の頃,各地で一斉に咲くとはふしぎな生態の持ち主です。ヒガンバナの体内時計が,気温の変化と日照時間とを感じるのだそうです。気温の変化は地方によって著しくちがっていますので平均気温といった感じではなく,気温が高い方から低い方への相対的な変化,そして昼と夜の時間がほぼ同じ時期,そんなことにとても敏感に反応しているというわけです。
このヒガンバナは,昔から人間の生活と強く結びついてきました。ヒガンバナにちなんだ話題なら,事欠かないほどです。
しかし,これを紙にするという話はふつう耳にしないでしょう。紙を目にすることもないはず。なんでも紙にしてみるという視点で,ヒガンバナ紙づくりにチャレンジしてみましょう。結論からいえば,とても簡単です。ちょっと気遣うのは,この時期は気温が下がり,日差しが弱くなるので,湿紙が乾きにくいという点です。何日も乾かないと,カビが生えてくる場合があります。
それを念頭に,よい天気が続きそうな期間を選んで試すことにします。
ヒガンバナからは,キツネノカミソリと似た紙ができます。紙づくりの全過程をとおして,同じヒガンバナ科植物であることがよく理解できるでしょう。
花茎の根元から折って,両手で握れるぐらい集めます。それを水洗いし,容器に入る長さに折ってから容器に入れ,煮始めます。煮る時間は沸騰してから30分で十分です。もちろんアルカリ剤を入れます。
花茎はフニャッとした感じで,とても柔らかくなります。まるでうどんです。
これをふるいに入れて,蛇口で水を流しながら揉み洗いします。花茎の断面は円いのですが,それを潰してペチャンコにします。円いままのものが残っていても大丈夫。
きれいに洗ったあと取り出せたものがセルロース繊維をはじめとした,からだの構成物質です。これが紙料になります。ミキサーにかけようと思えば,それでよし,そのまま使ってもよし,です。
あとは,漉き枠に流し込むだけです。流し込んだときの厚みが大きければ乾きが悪くなります。小さいと,2,3日で乾きます。この紙を葉書に使いたいなら厚く漉くほかありませんが,乾燥は天気次第。成否はひとえに晴天が続くかどうかにかかっています。
乾燥後の紙は透明感あり,独特の表情あり,といったまことに風合いのある作品に仕上がります。
目を近づけて観察すると,繊維がどっさり。
この紙に出合える季節は,今しかありません。