ヒガンバナ紙にはゆかいな表情があると思います。繊細な繊維なので際立った特徴が現れるのでしょう。
先日つくった花紙は,生の花を使ったもので,しかも子房の膨らみ部分も相当量入ったものでした。
ところで,ヒガンバナは1週間程度咲いた後,花が水分を失ってすっかり縮れてきます。ちりちりっとした感じで,茎の先端に付いたまま。「あんな強烈な印象を残す花が枯れたら,こんなふうになるのだなあ」と感慨深くなります。そのちりちりっとしたものは,花弁と蕊(おしべ・めしべ)です。それらだけを集めて紙をつくったら,どんな色の,どんな風流な紙ができるのか,ついつい確かめてみたくなりました。
さっそく紙づくりです。子房のところはまだ緑色をしています。それを除いて,花弁と蕊とを根気よく集めていきました。30分もすればどっさり採集できました。
それを煮ること30分。この30分は,湯が沸騰してからの時間です。これでもとのかたちが崩れて,繊維の集合体のようになりました。色は濃い焦げ茶色。有毒成分を含んだヒガンバナの個性を感じさせます。
繊維を揉みながら水で洗っていきます。廃液が無色になったらOK。これで紙料が取り出せたのです。やはり濃い焦げ茶色をしています。
これを漉き枠に入れると,湿紙の出来上がりです。このあとは,直射日光にしっかり当ててできるだけ早く水切り,乾燥を行います。終盤は,風通しのよい日陰で乾かします。
幸い秋晴れの日だったので,翌日にはしっかり乾きました。これまでに見たことのない色! 驚くような焦げ茶です。やってみなくちゃわからないものです。
わたしたちの身の回りには,このようにまだまだわからないこと,試されていないことがたくさんある気がします。今の自然の見え方って,ほんとうにたくさんの人がふしぎを解き明かそうとして蓄積してきた,とりあえず現時点での知の集大成にすぎません。わたしはわたしなりに,感じたふしぎをそのままにしておかないで,できるだけ真理に近づく努力をしたいと願っています。何歳になろうとも。