アカタテハの幼虫は1枚,あるいは2,3枚の葉を寄せ集めて,筒状の巣を作り,しばらくその中で過ごします。食餌は葉の先を食べ,脱皮は巣の中で行います。大きくなるにつれ,巣を作り直します。終齢期までに何枚の葉を使うのか,わかりません。
この生態を考えると,安全面についてとても注意深いなあという感じがします。
ところがこんなに注意深くても,棲息数全体としては現状維持なのです。つまり,2匹のオス・メスから同じ数の子が無事に生き残るだけ。これはせいぜい全体の1,2%程度に過ぎません。
ある調査結果(『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』(保育社刊,アカタテハの項))によると,337卵中羽化にまで至ったのは4個体。その調査では,幼虫期の死亡率は95.0%だったといいます。死亡の原因は自然災害や落下もありますが,天敵もあります。巣の中にいるから完全に安全とは限らないことがわかります。
たまたま,巣を見ていくうちに妙な光景に出くわしました。どうもクモの脚らしいものが巣の中にあって,動いているようです。幼虫が何ものかに襲われているだなと直感。見ていると,巣の向こう側で動いているのが,巣の隙間を通して見えたのでした。
やがて正体がはっきりしてきました。クモではなく,ハチがハンティングをしているのでした。どうやらキボシアシナガバチのようです。ハチは獲物にした幼虫をずたずたにして,巣の上に持ち上げました。幼虫は無惨な姿に成り果てていました。
わたしは,一連の動きを持っていたデジカメを接写モードにして写しました。ハチは筋肉の一部を肉団子にして丸めていきました。ほんとうは,それを巣に持ち帰り,またここに来て,たっぷりごちそうにしたかったのでしょうが,ある拍子に幼虫のからだが落下してしまいました。
ハンターは丁寧に団子を丸めて,やがて飛び去ったのです。一部始終を観察してずいぶん驚きました。
ハチはカラムシ群落で,アカタテハの幼虫を見つける知恵を備えているのです。けっして偶然の出来事なのではありません。ということは,明らかな天敵だと断定できます。しかし,前述の図鑑にはこの名は天敵の項には書かれていません。
繰り返しになりますが,単純計算では,生き残る2匹の裏で死亡していく98匹が必ず存在するのです。今回の目撃で,1,2%の生存率という数値が示唆する自然の厳しさを垣間見る思いがしました。