自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

アカタテハの成長を追う(2)

2014-06-24 | アカタテハ

アカタテハの幼虫は1枚,あるいは2,3枚の葉を寄せ集めて,筒状の巣を作り,しばらくその中で過ごします。食餌は葉の先を食べ,脱皮は巣の中で行います。大きくなるにつれ,巣を作り直します。終齢期までに何枚の葉を使うのか,わかりません。

この生態を考えると,安全面についてとても注意深いなあという感じがします。

ところがこんなに注意深くても,棲息数全体としては現状維持なのです。つまり,2匹のオス・メスから同じ数の子が無事に生き残るだけ。これはせいぜい全体の1,2%程度に過ぎません。

ある調査結果(『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅱ)』(保育社刊,アカタテハの項))によると,337卵中羽化にまで至ったのは4個体。その調査では,幼虫期の死亡率は95.0%だったといいます。死亡の原因は自然災害や落下もありますが,天敵もあります。巣の中にいるから完全に安全とは限らないことがわかります。

たまたま,巣を見ていくうちに妙な光景に出くわしました。どうもクモの脚らしいものが巣の中にあって,動いているようです。幼虫が何ものかに襲われているだなと直感。見ていると,巣の向こう側で動いているのが,巣の隙間を通して見えたのでした。

やがて正体がはっきりしてきました。クモではなく,ハチがハンティングをしているのでした。どうやらキボシアシナガバチのようです。ハチは獲物にした幼虫をずたずたにして,巣の上に持ち上げました。幼虫は無惨な姿に成り果てていました。

 
わたしは,一連の動きを持っていたデジカメを接写モードにして写しました。ハチは筋肉の一部を肉団子にして丸めていきました。ほんとうは,それを巣に持ち帰り,またここに来て,たっぷりごちそうにしたかったのでしょうが,ある拍子に幼虫のからだが落下してしまいました。 

 

 
ハンターは丁寧に団子を丸めて,やがて飛び去ったのです。一部始終を観察してずいぶん驚きました。

ハチはカラムシ群落で,アカタテハの幼虫を見つける知恵を備えているのです。けっして偶然の出来事なのではありません。ということは,明らかな天敵だと断定できます。しかし,前述の図鑑にはこの名は天敵の項には書かれていません。

繰り返しになりますが,単純計算では,生き残る2匹の裏で死亡していく98匹が必ず存在するのです。今回の目撃で,1,2%の生存率という数値が示唆する自然の厳しさを垣間見る思いがしました。

 


ツマグロヒョウモン,地面で羽化

2014-06-23 | ツマグロヒョウモン

このほど,スミレの葉の裏にぶら下がり蛹化したツマグロヒョウモンの個体の羽化を写真に収めました。今回のように,一部始終きちんと観察しながら撮影できる機会はそうあるものではありません。幸運だったと感じています。

蛹化したとき,スミレの葉は緑色をして元気だったのですが,その後,枯れていきました。それで,蛹は地面に倒れるようなかたちになったのです。

継続観察をしていると,翅が透き通って見え始めました。羽化近しの兆候です。翅の紋様はオスであることを示しています。

 


何度か個体の変化を観察しているうちに,ゆっくり殻に裂け目が入りかけました。 

 

 
裂け目が大きくなり,やがて複眼が見えてきました。

 



脚で殻を押し開き,触覚が現れました。 

 


殻からからだが出たとき,翅はとても軟らかい感じです。 

 

 
翅を広げなくてはならないので,個体は近くの高いところを目指しました。その位置に着くと,肛門から体液を排泄しました。それがスミレの果実に付着しました。

 

 
この位置で静かにしているうちに,やがて翅が広がっていきました。

こうして無事に成虫が誕生しました。いつも,大変化は観察者の目を引き付けます。理屈抜きに感動的です。今回もそうでした。タイミングのよさに改めて感謝。

 


アカタテハの成長を追う(1)

2014-06-23 | アカタテハ

アカタテハの幼虫の食草はカラムシ。カラムシの群落を探すと,幼虫の所在がちゃんとわかります。幼虫は吐糸で葉を綴って筒状の棲みかをつくり,しばらく中で暮らします。

小さな幼虫は,頂芽に近い小さめの柔らかな葉を,大きな幼虫は大きめの葉を使います。筒状になっているのは,葉が裏返しになっていることでわかります。離れていても,すぐに目に付きます。

 

 
申し訳ないと思いつつ,中にいる幼虫を観察してみました。脱皮して脱ぎ捨てた皮が残っていました。幼虫は見当たりませんでした。葉をほとんど食べたので,場所を移動していったのです。

 


別の葉を見てみました。小さな葉に,小さな幼虫がいました。2齢幼虫ぐらいでしょう。 

 

また別の葉で,3齢程度の幼虫を見かけました。それを新しい葉においてみました。幼虫は激しく動き回りました。日光が災いしたようです。しかしそこから逃げる様子はなく,ウロウロしていました。

 


おもしろいことに,幼虫はその葉を棲みかにしようと決めたようで,葉の端を寄せてきて絹糸で筒を作り始めたのです。その動きの,なんとすばやいこと!  早く隠れ家を作らなくてはという焦りが見えたように思われました。

 


筒が完成すると,元の位置に戻って静止しました。 

 


このあとの動きを,観察しようと思っています。食事行動,脱皮行動が見られるかもしれません。 

 


ジャガイモ畑の地表イモ

2014-06-23 | ジャガイモ

ジャガイモは,その第1節からストロンを四方八方に伸ばして塊茎を形成します。どの程度伸びるか,あるいは伸びないかはジャガイモが決定する生理的な選択なので,予測不能です。

なかには,まったく伸ばすこともなく,主茎に直接塊茎がくっ付いたような状態になる例があります。これは,無駄なエネルギーを省いて手っ取り早く養分を貯め込む作戦です。しかし,複数の塊茎が同じ地点で肥大化するのは,物理的に困難なわけで,すこしはストロンを伸ばして塊茎が散らばっているのが理想的です。

畑での栽培なら,ふつうは人手で根元に土寄せをし,塊茎ができやすい状態をつくります。 ところが,葉が生い茂ったり,密植状態だったりすると,土寄せをしなくても根元が暗くなっています。そうした環境は地中とほとんど変わりません。そのために,地表スレスレに塊茎ができることもあるのです。

下写真は,我が家の畑でつい先日撮った写真です。3例ありました。

 


これらの現象は,種子から栽培している平床育苗箱のジャガイモとそっくりです。 

 


ついに孵化の撮影に成功!

2014-06-22 | ベニシジミ

とうとう孵化を目撃! この瞬間を待っていたのです。わくわくして変化を観察でき,写真の撮れて最高の気分です。 経過は以下のようにたどりました。

タイミングよく,卵(直径6mm)の上部に黒っぽい穴を発見。これまでに見ていた卵なので,確かに変化が起こり始めたと確信しました。

 
見ていると,穴が次第に大きくなってきました。それにともない,黒い頭が動くのが見えてきました。ここまでで,40分ほど経過。

 
からだが出始めるまでには,もうすこし時間がかかるのではないかと思っていると,突然頭が飛び出しました。いよいよ出てきそうです。

 


頭をはっきり外に突き出して,グーッという感じで出てきました。薄い黄色のからだが初々しく見えます。 

 


トリミングしてみましょう。

 
あとは,スルスルッという感じで,じつに滑らかに出終わりました。長い毛が後ろに向かって寝ているので,殻に引っ掛かることもありません。出ると,その毛が長々と立ちました。毛並みのなんと立派なこと。

 


観察者の目では,ほんとうは左側に向かって直進してほしかったのですが,個体は向こう側に遠ざかっていきました。殻にはまったく見向きもせずに。 

 

 
殻をそのまま放置するというのがこの幼虫の習性のようです。

卵の表面にある規則正しい紋様はでこぼこしています。凹んでいる部分は,殻が薄いのです。凹凸面の境の線で,きれいに穴が開きます。開く箇所はどこでもいいわけではなく,幼虫から見ると頭上の天井側ときまっているわけです。そこはちゃんと仕掛けがあって,うまく出口が開く計算です。これには納得。

追い求めていると,いずれはチャンスが巡ってくるようです。今回もまた,その幸運に恵まれました。あとは,羽化場面の撮影を残すだけです。幼虫がそこまでに成長するにはまだまだ。気長に,先のたのしみにとっておきます。 

 


ジャガイモの真正種子栽培,本実験(その14)

2014-06-22 | ジャガイモ

ストロンを切り取ったポット株の,その後について書いておきましょう。すこし古いのですが,6月10日時点の様子です。

根元の土を取り去って成長が変化が観察しやすいようにしています。

第1節からはストロンをたくさん派生させようとしますが,けっして伸びません。主茎の周りにあるストロンの先が腋芽のように直接膨らんできました。色は赤みかかっています。これは日光が当たっているためだと思われます。

 


このままにしておけば,膨らんだ塊茎はもっと大きくなるでしょう。そして,第2節から上の腋芽も同じように膨らみ始めると思われます。

この実験をしていて,ふと思い付いたことがあります。ポットをこの状態で放置しておくのではなく,もっと積極的に覆いをして頂芽から下辺りを暗くしてみるというものです。第2節から第4節あたりは暗くなるので,そこに付いた腋芽も太りやすくなるように思うのです。

それで,さっそく,植木鉢を被せ,穴から頂芽を出しておきました。下写真がそれです。

 


おもしろ実験の幅が広がってきました。これも観察の魅力です。


昆虫生態写真展(前)

2014-06-21 | 随想

ごく限られた範囲なのですが昆虫の生態に関心をもち,これまでに撮り溜めた写真が数限りなくあります。平凡な風景,とくべつな風景,二度と撮れない風景,あれこれ溜まりました。なかでも,ジャコウアゲハの生態を追った記録写真はわたしの宝中の宝といってもいいものです。

そのなかから,何枚か厳選して写真展示することにしました。会場は市立科学館です。科学館事業に協力するかたちでの展示になります。あくまでわたし個人の写真展ではなく,昆虫の生態をご紹介する写真展示の体裁をとります。展示スペースの関係で,前期・後期の2回に分け,それぞれ2週間という期間です。興味と関心が湧いてきましたら,お訪ねください。ただ,入館するには料金がいります。その点はまことに申し訳ございません。


前期は産卵風景から前蛹までを,後期は蛹化から成虫までと知られざるからだや生態についてご紹介する予定です。ふつうの写真展では写真ごとにタイトルが付してあるだけですが,今回は生態のご紹介なので解説文を付けています。

たとえば,産卵シーン。排卵孔から卵が出てきている,まさにその瞬間をアップでとらえています。たとえば,その場面を『虫の目レンズ』で撮ったコマ。たとえば,卵が数段に積み重なったコマ。なぜこんなに重なってしまったのか,ふしぎを覚える一枚です。それら一枚一枚について解説しています。それも参考にしながらふしぎを嗅ぎ取っていただければと存じます。

なお,わたしは不定期にしか行けませんので,お越しになられてもお出会いできないだろうと思います。もしご観賞いただいた方がありましたら,後日お出会いしたときにご感想をひとことお願いいたします。

【付記】写真は本文とは関係ありません。 

 


ベニシジミ,あれこれ

2014-06-21 | ベニシジミ

ベニシジミの幼虫が孵化する場面を見たくって,卵をいくつか採集してきています。どんなふうに穴が開いて,どんなにして卵から出てくるのか,それに要する時間はどれほどなのか,たとえばヤマトシジミやアゲハ類の例を参考に想像はできるのですが,実際はどうなのかさっぱりわかりません。

それで,不定期に虫メガネで変化を観察しています。そんな中で見かけた特徴ある場面を写真でご紹介しましょう。

まず,孵化後数分と思われる幼虫を見つけたときのもの。卵の上部にぽっかり穴が開いて,近くに幼虫がじっとしていました。体長は1.3mm。あとでわかったのですが,この場所で食餌をしたものですから,溝ができていました。 


次は,二つ並んだ卵の例。一つのものはもう孵化していました。残念! 


次は,上写真の卵から孵った幼虫らしい個体です。葉の裏を歩いていました。 


別の葉には,別の幼虫がいました。生まれて間もないからだつきです。 


おしまいの例です。卵にダニが付いて,興味を示していました。餌にしたいのでしょうか。しかし,ダニの力では食べるには至りませんでした。 

 

 
こんな調子で卵を継続して見ていくうちに,孵化場面に遭遇できるかもしれません。できたら気分はいいでしょうね。 

 


集落のモリアオガエル

2014-06-20 | 生物

つい先日,職場の同僚が「モリアオガエルって天然記念物ですよね」 と聞いて,とても珍しいような話をし始めました。そこから話が弾んだのですが,内容はさておき,モリアオガエルはあまり見かけないカエルですが,種そのものが天然記念物に指定されているわけではありません。

生態の珍しさや数の少なさから,棲息環境を守ろうとする試みが発展して棲息地自体が地元自治体などから保護区域に指定されている例はかなりあります。

わたしの住む市でも,相当数棲息地が点在します。静寂な池の周り,山間部にある里山と水田の境界などです。どの地域も保護区域にはなっていません。

さて,同僚と話した翌日の話。畑で仕事をしていると,ヨッさんから電話が入りました。「所有林に行ったら,谷川の水溜まりの上にモリアオガエルの卵の塊りが2つ付いとるんや。案内するで」という内容でした。

さっそく,そこに案内してもらいました。集落内の山中です。谷川に砂防ダムがあり,そこに小さな水溜りができています。その上,3mほどのところにある木の枝に卵塊が二つありました。よく探すと,離れたところにも一つ。


今の時期,谷川が増水すると,水溜りにいたオタマジャクシは流されていくでしょう。棲息環境としてはもう一つかなという感じです。ただ,ヘビのような天敵には狙われにくいよさがあるのかもしれません。

ヨッさんは,オタマジャクシが落ちるのを見たことがないとおっしゃったので,「それなら,持ち帰って観察してください」といいました。結果,下に水甕を置いて見てみようという話に落ち着きました。


それはともかくとして,集落内にモリアオガエルがいることがわかり,このカエルがまだなんとか生きていける環境が残っていることが確認できたのでした。 

 


どうやら孵化したような

2014-06-19 | ベニシジミ

ベニシジミが孵化するとき,卵の上部にぽっかり穴を開けて,そうして出てくるようです。というのは,その殻をいくつか見つけたからです。幼虫は,殻から出た後,そのままその場を立ち去るみたいです。どうやら殻には関心を示さないように思われます。


 

せっかくなので,そんなことを思いながら,幼虫を探してみました。小さいため,肉眼ではなかなか見つかりません。わたしのように老眼が進みかけると,いよいよ見つけにくくなります。それでも探していると,そのうちにとうとう見つかりました。こういうときは「ヤッター!」という気持ちですね。なんとも小さい,小さい幼虫。体長は1.3mm。

 


からだには毛がたくさん。特有の姿です。これは間違いなくベニシジミの初齢幼虫でしょう。生まれ出た後のことですから,ほっと一息入れているのかもしれません。

10時間後のこと。葉を食べて,排泄物をポロポロ落としていました。ファインダーをとおすと,口の動きが生々しく伝わってきました。もりもり,ぐいぐい食べているといった感じなのです。動いた跡形が窪んでいるのは,そこが食されたからです。


しばらく見ていると,からだを起こして動く気配がしました。


この写真をトリミングしてみましょう。

 


この幼虫,なにを思ったか,その場所を離れて歩き始めました。その動きの速いこと! この移動の目的はなにでしょうか。満腹してただブラブラ? 逃げる行動?


じつのところ,これからわたしがなんとか見たいと思っているのは孵化している,まさにその瞬間です。そんなにタイミングよく見られるかどうかわかりません。無理な感じがしているのですが,卵が複数あるので,見られる確率はいくぶんあります。羽化時とちがって,孵化には時間がかかりますから,そこにすこし期待しておこうと思うのです。