WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

IgA腎症と私⑮

2022年04月12日 | IgA腎症と私
扁桃摘出7か月目の私
 昨日は通院日だった。およそ扁桃摘出7か月目になる。
 eGFRは41.66、クレアチニン1.40、タンパクは-、尿潜血は1+、赤血球1/スウだった。担当医の話では、検査結果は前回とほとんど変わらないが赤血球がほとんどでていないので、腎炎はほとんど治っていると考えられるということで、何もなければ、腎機能が下がることはないだろうとのことだった。腎機能が今後向上するかどうかはわからないが、現在の腎臓の力はこの程度なのかもしれず、このまま横ばいかもしれないといわれた。ここ数か月eGFRの値は横ばいなので、このあたりで現状維持をめざすということになるのかもしれない。
 服薬するステロイド(ブレトニン錠5mg)は、隔日1錠となった。また、最近血圧が高いことを伝えると、イルベサルタン錠(100mg)が朝夕2回の服用となった。他に、フェブリック錠(10mg)、オメプラゾール(10mg)は、これまで通り一日1回、ボナロン経口ゼリー(35mg)もこれまで通り毎週火曜日服用である。
 次回の通院は6月中旬、それ以降はステロイドの服用はなくなるとのことだった。

梅も咲き、白鳥も飛び立った

2022年04月02日 | 今日の一枚(C-D)
◎今日の一枚 575◎
Charlie Haden & Jim Hall
 
 今年は、庭の梅の花がなかなか咲かなかったが(→こちら)、私の住む街にもやっと春の足音が聞こえはじめたようだ。数個のみだが、庭の梅の花も咲きはじめた。つぼみももう少しで咲きそうな気配だ。冬にはたくさんの白鳥が見られた近くの菖蒲沢池も、今朝行ったところもう白鳥は一羽もおらず、数羽の鴨が泳いでいるのみだった。未だ風は冷たいが、日差しは柔らかになってきている。
 最後の一年が始まる。この一年で定年退職だ。自分が定年退職だなんて信じられない。気力が充実していれば再任用制度を利用するかもしれないが、最後の一年は丁寧にしっかりやろうと思う。
 今日の一枚は、『チャーリー・ヘイデン&ジム・ホール 』である。1990年のモントリオール・ジャズ・フェスティヴァル でのライブ録音盤である。
 考えてみれば、2人ともデュオの名手である。チャーリー・ヘイデンは、キース・ジャレットやハンク・ジョーンズ、パット・メセニーなどと、 ジム・ホールはビル・エヴァンスをはじめ、ロン・カーター、パット・メセニー などと名盤として名高い作品を残している。悪い作品であるわけがない。ベースとギターのデュオということで、低域から中域がサウンドスペースを占め、安定した柔らかく優しいトーンになっている。
 窓から見える青い空と春の訪れを感じさせる風景を見ながら、この作品を聴いている。心が穏やかになってくるのがわかる。

後妻(うわなり)打ち

2022年03月30日 | 今日の一枚(G-H)
◎今日の一枚 574◎
日向敏文
夏の猫 Chat 'd Ete
 『鎌倉殿の13人』の話題である。
 先週の放送で、北条政子が、源頼朝の愛妾の亀の前が住む屋敷を襲わせた場面があった。亀の前が預けられている伏見広綱の屋敷を襲撃させたのだ。《後妻(うわなり)打ちである。《後妻打ち》は、平安中期から江戸前期にかけて実在した慣習であり、女友達を大勢呼び集めて、夫を奪った憎い女の家を襲撃して徹底的に破壊する行為だ。ときには相手の女の命を奪うこともあったようだ。興味深い風習である。「うわなり」とは、古語で前妻を意味する「こなみ」に対する後妻、あるいは第二夫人・妾を意味する言葉だ。清水克行『室町は今日もハードボイルド~日本中世のアナーキーな世界~』は、いくつかの事例をあげて《後妻打ち》について詳述しており、やはり広く実在した慣習のようだ。
 清水氏は、後妻打ち》は中世の女性に当たり前に許されている行為だったとして、この妾襲撃事件が政子の嫉妬深さや男まさりな性格を際立たせる材料として使われることに不満の意を表している。もっとも、『鎌倉殿の13人』では、政子はそんなに派手にやるつもりはなかったものの、源義経が勝手に大規模な破壊活動を行ったものとして描かれている。後妻打ち》という、中世に広く実在した慣習に配慮したのかもしれない。
 いずれにしても、大河ドラマでこういった中世の慣習が描かれるのは興味深いことである。

 今日の一枚は、日向敏文の1986年作品、『夏の猫』である。若い頃、日向敏文の作品をよく聴いた時期があった。きっかけは、大貫妙子の作品に日向敏文が参加していたことだったように記憶しているが、貸しレコード屋で借りたレコードを録音したカセットテープでずっと聴いていた。たまたま、apple music で発見し、外付けUSB-DACを通して聴いている。懐かしい音楽の響きである。昨日からちょっとイライラしていたが、おかげで心が穏やかになってきた。狂おしくも美しい④ 孤独なピアノや、印象的な⑥異国の女たちは出色である。

イチローズ・モルト

2022年03月26日 | 今日の一枚(M-N)
◎今日の一枚 573◎
Thelonious Monk
Monk's Music
 昨年の秋、思いもかけず大学時代の友人から『イチローズ・モルト』が届いた。数年前に、その友人が東北地方を旅行した際、一関に立ち寄ってもらい、ともに飲んだのだが、その時お土産として『イチローズ・モルト』をもらった。赤い葉っぱのラベルのものだった。もちろん、美味しかった。また手に入ったら送るよとのことだったが、今回のは黒いラベルのものだった。
 イチローズモルトは、「株式会社ベンチャーウイスキー」が造る、ジャパニーズウイスキーで、埼玉県の「秩父蒸溜所」にて、2007年11月より生産されているとのことだ。世界中から高評価を受け、入手困難のものが多数存在する、絶大な人気を誇るウイスキーであり、定価で入手するのが難しいらしい。「イチローズ・モルト」の名前は、創業者の「肥土伊知郎(あくといちろう)」氏からきているようだ。

 貴重なウイスキーということで、ずっと飲まずにしまっておいたが、4月からの異動が決まり、今の職場での仕事に一段落ついたことから、数日前に一杯だけ飲んでみた。美味い。やはり美味い。最高だ。独特のバニラのようなまろやかな味わいに、思わず笑みを浮かべ、唸ってしまった。

 今日の一枚は、セロニアス・モンクの1957年録音盤『モンクス・ミュージック』である。②ウェル・ユー・ニードントや⑤エピストロフィーで打ち合わせ不足による勘違いのプレーがあるが、そんなことが気にならないほど充実した作品だ。ホーン入りの作品ということで、ピアノソロの時の奇妙に歪んだ独特の世界観は若干違うが、演奏全体にモンクの影響が漂っているのがよくわかる。
 何となく郷愁を感じる、①アバイド・ウィズ・ミーが好きだ。こういう音楽を聴くと、今夜も貴重な「イチローズ・モルト」が飲みたくなってしまう。

梅はまだか

2022年03月21日 | 今日の一枚(A-B)
◎今日の一枚 572◎
Alan Gorrie
Sleepless Night
 庭の梅がまだ咲かない。いつもならもう咲いている頃だ。私の住む宮城県気仙沼市は、風はまだ冷たいが、それでも日差しはだいぶ暖かくなってきた。梅にはやっと小さなつぼみができたが、まだまだ硬いようだ。咲くまでには、もう2週間以上はかかりそうだ。梅だけではない。花桃も花海棠もハナミズキも、今年はまだまだかかりそうだ。
 庭が色付かないと寂しい。春が来た感じがしない。
 今日の一枚は(といっても3枚目だが)、アラン・ゴリーのデビュー作、1985年作品の『スリープレス・ナイト』である。レコード棚を整理していて発見した一枚である。その存在は知っていたし、何度か聴いたことも覚えている。しかし、どんな経緯で買ったのか、全く思い出せない。アラン・ゴリーがどんな人なのかも知らない。このアルバムがリリースされた1985年前後は、私がAORを聴きはじめた時期なので、その流れでどこかで知ったのだろう。webで検索すると、アラン・ゴリーという人は、スコットランドのミュージシャンで、ソウル、ファンク系バンド「アヴェレージ・ホワイト・バンド」の中心メンバーの一人ようだ。 ②Diary of A Fool は佳曲である。この曲を聴いて、当時の情景が何となく蘇ってきた。

八重姫

2022年03月21日 | 今日の一枚(O-P)
◎今日の一枚 571◎
Peter Allen
Bi-Coastal
 『鎌倉殿の13人』の話題である。
 ガッキー演じる八重姫のことが気にかかっている。八重姫は伊東祐親の三女とされるが、wikipediaによれば、延慶本『平家物語』、『源平盛衰記』、『源平闘諍録』、『曽我物語』などの物語類にのみ登場し、古記録などの同時代史料や『吾妻鏡』などの編纂史料には見えないという。 源頼朝の最初の妻であり千鶴丸を生んだとされるが、史実かどうかはわからない。大河ドラマの脚本はそれら物語類に立脚したもののようだ。
 ドラマでは、頼朝の最初の妻だった八重姫に、小栗旬演じる北条義時が思いを寄せる筋書きとなっているが、中世史家の坂井孝一氏は、八重姫が北条義時と再婚して、北条泰時を産んだのではないかとの仮説を提示している。北条泰時の母は、出自不明で「御所の女房」とのみ記される人物であり、ありうることかもしれない。『鎌倉殿の13人』の時代考証を務めているのは坂井氏その人であり、ストーリーはそういった方向に進むのだろう。

 今日の一枚は、ハリー・アレンの1980年作品、『バイ・コースタル』である。先日、「ひまわり」のテーマの入ったレコードを探そうと、レコード棚を物色中に目にとまった。買ったことは憶えており、その存在も認識していたが、思い起こすと聴いた記憶はほとんどない。
 帯には、「ピーター・アレンは、洗練されたアメリカン・ポップ感覚の持ち主であるとともに、私の最も好きなソングライターの1人です。今回はデヴィッド・フォスターをプロデューサーに迎え、まさしくバイ・コースタルな雰囲気で一杯の素敵なアルバムを作ってくれました。」という竹内まりやの推薦文が載っており、参加ミュージシャンにも有名どころのミュージシャンが名を連ねている。
デヴィッド・フォスター(key)
ジェイ・グレイドン(g)
スティーヴ・ルカサー(g)
ジェフ・ポーカロ(ds)
マイク・ポーカロ(b)
 悪くない。なかなかいいアルバムだ。特に、②Fly away は印象深い佳曲である。2回繰り返して聴いているうちに、何だかサウンドに同化してきた。同時代に聴いていたら、お気に入りの一枚になったかもしれない。


ひまわり

2022年03月21日 | 今日の一枚(E-F)
◎今日の一枚 570◎
Best Of Screen 
 ~Love Theme
 ロシアによるウクライナ侵攻事件が起きてから、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが共演した映画『ひまわり』のことが時折頭をよぎっていた。好きな映画の一つだったのだ。『ひまわり』の再上映が広がっているというニュースにも接し、もう一度見たいという思いが高まった。ところがである。探してみてもnetflixにはなく、近隣のレンタル店にもなかったのだ。仕方なく通販で廉価版のDVDでも購入しようかと考えていた矢先に、この間の地震があった。
 家には被害がなかったが、私の書斎は例のごとく棚から本やCDが落ち、メチャメチャになってしまった。数日間放置して、片付けに取りかかったのは土曜日である。ところが、落下物の中から『ひまわり』のDVDを発見したのだ。昔、TVで放映されたものを録画したもののようだ。ちょっとした幸運である。
 しばらくぶりに見た『ひまわり』は新鮮だった。ストーリーは大体知っているので、ディテールに目が行ったのだ。ひまわりは現在ウクライナの国花らしいが、花言葉は《あなただけを見つめる》だ。映画のソフィア・ローレンのようだ。あの印象的なウクライナのひまわり畑の下には、ロシア兵やドイツ兵やイタリア兵が眠っているという話が出てくる。映画の最後には、一本のひまわりがアップで撮られ、そこからカメラは引いていき、広大な領域に広がる無数のひまわりが映し出される。恐らくは、最初の一本のひまわりはソフィア・ローレンとその悲しい物語の象徴なのであり、広大なひまわり畑はそのような悲しい物語が無数に存在することを表しているのだろう。陽気で明るいイメージのひまわりに悲しい物語を投影することで、その対比によって深い悲しみが静かに広がっていくのだ。

 今日の一枚は、『愛の映画音楽全曲集』である。演奏者はThe Film Symphonic Orchestra とあるが、どのようなオーケストラなのかわからない。企画物なのであろう。レコード棚にあった古いLPである。『ひまわり』のテーマが聴きたくて取り出してみた。いつ買ったのか全く記憶にない。自分で買ったことは憶えている。『ラスト・コンサート』のテーマ曲を聴きたくて買ったのだ。ロックやジャズしか聴いてこなかった自分が、ある時点で映画音楽のレコードを買っていたことはちょっとした驚きだ。
 『ひまわり』のテーマはいい曲だ。映画のいたるところに効果的に配され、強く印象に残る曲だ。映画を見た後に聴いた所為だろうか。ここ数日、耳にこびりついて離れない。

ウルトラセブン最終回(後編)

2022年03月06日 | 今日の一枚(C-D)
◎今日の一枚 569◎
Dinu Lipatti
Robert Schumann Piano Concertp,OP54

 ウルトラセブン最終回(後編)がNHK-BSPで放映された。
 ダンがアンヌにウルトラセブンであることを告白する場面は,今見てもなかなか印象深いものであった。突然、画面が影絵になり,シューマンの協奏曲が流れるシーンは,子ども番組にはふさわしくないと思えるほどにシリアスだった。 
(ダン)「アンヌ..僕は..僕はね..人間じゃ無いんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!!」
(ダン)「ビックリしただろ?」 
(アンヌ)「..ううん。人間であろうと宇宙人であろうとダンはダンで変わり無いじゃないの。例えウルトラセブンでも」
(ダン)「有難うアンヌ」
(ダン)「今話した通り、僕はM78星雲に帰らなければならないんだ!西の空に明けの明星が輝く頃1つの光が宇宙へ飛んでいく。それが僕なんだよ」
(ダン)「さよならアンヌ!」
(アンヌ)「待って!ダン!行かないで!!」
(ダン)「アマギ隊員がピンチなんだよ!」 
 「西の空に明けの明星が輝く頃」については、webをみると様々な解釈や憶測があるようだ。《明けの明星》は東の空に見えるものだからだ。何かの言い間違えであるとする説や《西の空》は《輝く頃1つの光が宇宙へ飛んでいく》にかかるとする説、脚本は違う言葉だったが撮影編集の過程でそうなったのだとする説、今となってはわからない。
 この言葉は確かに印象的なものだったが、私にとってはその後のアンヌ隊員の涙が深く心を打つシーンだった。恐らくは当時の少年たちも同じだったのではなかろうか、と勝手に思っている。

 今日の一枚は、カラヤン,フィルハーモニア管弦楽団&ディヌ・リパッティの1958年録音作『シューマンピアノ協奏曲イ短調作品54』である。アップル・ミュージックで聴いている。ウルトラセブン最終回のあの名シーンで流れるピアノである。クラシック音楽には詳しくない。演奏家もそんなに知らない。カラヤンはもちろん名前は知っておりいくつか作品を聴いたことはあるが、ディヌ・リパッティという人は全く知らなかった。ウルトラセブンとのかかわりでクラシック音楽を知り、ピアニストを知る。そんな聴き方も赦されるだろう。

ウルトラセブン最終回(前編)

2022年02月27日 | 今日の一枚(G-H)
◎今日の一枚 568◎
Harold Mabern Trio
Kiss Of Fire
 今日の朝、NHK BSPでウルトラセブンの最終回「史上最大の侵略」(全編)が放映された。4Kリマスター版である。後編は来週日曜の3月6日に放映される。
 ウルトラセブンの最終回といえば、伝説として語り継がれる感動の名編である。番組終了後、日本中の子どもたちが戸外に飛び出して空を見上げた、といわれるいわくつきのものだ。かくいう私もその一人だった。今考えると、ダンは「明けの明星が輝くころ」といっているので、番組終了後すぐに戸外に飛び出しても仕方なかったのだが・・・。
 今日の前編では、これまでの数々の戦いに疲弊して満身創痍のモロボシダン(ウルトラセブン)の姿が描かれた。これ以上戦うことは生命にかかわると告げられM78星雲に帰還することが勧告されるが、責任感の強いダンはそれでも地球のために戦い続けようとする。そして、バンドンとの戦いで重傷を負うのである。
 来週はいよいよ美しい映像と音楽、そして感動のあのセリフが登場する後編である。楽しみだ。

 今、聴いているのは、ハロルド・メイバーン・トリオの2001年録音盤『キス・オブ・ファイヤー』である。テナー・サックスにエリック・アレキサンダーを迎えた作品である。寺島靖国氏はその推薦文で、「ハロルド・メイバーンが65年の生涯で噴出させた最高の傑作」であるといい、「ハロルド・メイバーンらしさが最も著しく強くでている」「メイバーンらしさとはなにか。《のり》である」まで記している。
 悪い作品ではない。《のり》もいい。机上のブックシェルではなく、メインのスピーカーで聴くとなおいい。だが、今一つサウンドに同化できない私がる。エリック・アレキサンダーのテナーが流麗すぎるのだ。流麗だが強烈な個性のようなものを感じない。何かよどみのようなものが欲しいと思ってしまう。個性というものは、ある種の欠点のようなところから生じているのかもしれない。

ジョン・レノンのコード・フォーム

2022年02月26日 | 今日の一枚(A-B)
◎今日の一枚 567◎
The Beatles
Help
 ジョン・レノンのコード・フォーム(コードの押さえ方)が独特のものであることはファンの間では有名だ。最近、エレガットでビートルズ・ナンバーをソロ演奏をするとき、そのことをいつも思い出す。『ギターマガジン』のwebページによれば、それらのコードフォームの中には、ジョージ・ハリスンやポール・マッカートニーにも共通するものもあるらしい。少年時代からの付き合いの中で、押さえ方を共有してきたのかもしれない。これらのコード・フォームは、3度や5度の音を強調し、あるいは6thや7th、テンションノートを強調することで、ビートルズのサウンドに独特の響きをもたらしている。エレガットでソロのアレンジをする場合も、そのことを頭に入れておくと絶妙のニュアンスを再現できることが多く、うれしい。

 今日の一枚は、ザ・ビートルズの1965年作品『ヘルプ』である。ビートルズボックスで通して聴くと、ダンスバンドとして出発したビートルズが一作ごとに成長し、この『ヘルプ』からは秀逸なポップバンドの風貌を呈するようになることがよくわかる。
 名曲"Yesterday"のアコースティック・ギターは、すべての弦を一音下げて演奏されるが、例えばイントロのGコードは普通のものではなく、上記のGコードから1弦をミュートしたフォームで奏でられる。2弦の、ルートの5度の音が独特の響きとニュアンスをもたらし、普通のGでは表すことのできない、不安定で揺れる感じを表出する。それが心の震えを表現しているのだ。

がんばれ町田瑠唯

2022年02月20日 | 今日の一枚(I-J)
◎今日の一枚 566◎
Jeff Beck Group
 バスケットボールの話である。女子バスケットボール富士通レッドウェーヴの町田瑠偉選手がWNBAに挑戦するらしい。ワシントン・ミスティクスと契約したというのだ。頑張ってほしい。
 町田選手はいいガードだ。ビジョンが広く、パスセンスがいい。最近では積極的に自ら得点を取るようにもなった。東京オリンピックで歴代最多の18アシストを記録したのは記憶に新しいところだ。
 ただちょっと心配している。身長162cm。サイズがないのが気にかかる。日本代表では、スリーポイントやバックカットを多用し、積極的に速攻を仕掛けるチームのシステムの中で機能していた。パワー勝負のWNBAで、町田選手の長所が輝き、同じように機能するかどうかは未知数だ。
 心配が杞憂に終わればいいと思う。

 今聴いているのは、第二期ジェフ・ベック・グループの1972年作品、通称『(オレンジ)』である。ブルース・ロック路線だった第一期ジェフ・ベック・グループから、ファンク・ミュージックの影響を受けたサウンドにシフトしたところがすごい。多くのロック・グループがブルース・ロック一色だった時代、ジェフ・ベックの選択した道は、特筆すべきものだ。今考えると、この延長線上に後のクロスオーバー作品が生まれることが理解できる。
 高校生の頃、かっこいいなと思って聴いていた。

菖蒲沢ため池

2022年02月13日 | 今日の一枚(W-X)
◎今日の一枚 565◎
Walter Lang Trio
Romantische StraBe

 気仙沼市の階上地区に菖蒲沢ため池がある。大正5年に編纂された『階上村誌』によれば、天文16(1547)年につくられたものらしい。その後、改修・増築され、今日にいたっている。
 菖蒲沢ため池は自宅から徒歩で20分程度、散策も含めて往復90分程度のウォーキングコースである。数基ある広大なため池には、冬ともなれば白鳥やカモが飛来し、土曜日曜にはそれらにパンをちぎって餌をやる市民が断続的に訪れている。最近では、それらの餌を横取りしようとトンビやカラスが集まり、餌をやる時は注意が必要だ。今日も訪れたが、至近距離までトンビやカラスが接近し危険だった。
 近くに三陸道の岩井崎ICや大谷ICもあり、静かで雰囲気もいい。気仙沼市が駐車場や遊歩道をもう少し整備してくれれば、ウォーキングや散策の市民の憩いの場となるだろう。

 今聴いているのは、ウォルター・ラング・トリオの2007年録音盤『ロマンチック街道の彼方』である。気障なタイトルである。風貌もイケメンである。サウンドもスタイリッシュで美しい。気に入らない。そう言いたいところだが、ずっと以前に取り上げた『サウンド・オブ・レインボー』のところでも記したように(→こちら)、甘い感じはせず、硬質なリリシズムを感じさせる作品である。きれいなサウンドだが、きれい系ジャズにあらず。一聴に値する作品である。
 こういう作品は風呂場でゆっくりと寛ぎながら聴きたい。そう、ピアノトリオが流れる銭湯、「友の湯」のように(→こちら)。そういえば、最近行っていないのだが、コロナ禍の中で「友の湯」大丈夫なのだろうか。来週の休日にでも行ってみようか。

坂東武者の世をつくる

2022年02月11日 | 今日の一枚(C-D)
◎今日の一枚 564◎
Cream
Disraeli Gears
 『鎌倉殿の13人』の話題である。
 先週の放送で北条義時の兄、宗時が死んだ。石橋山の戦いで敗死したのである。宗時が死んだあと、宗時が義時に語りかける形で、その思いを吐露するシーンがあった。
平家とか源氏とか、そんなことどうでもいいんだ。俺はこの坂東を俺たちだけのものにしたいんだ。西から来た奴らの顔色をうかがって暮らすのはまっぴらだ。坂東武者の世をつくる。その天辺に北条が立つ。そのためには源氏の力がいるんだ。頼朝の力がどうしてもな。
 鎌倉幕府の本質である。鎌倉幕府は源頼朝がつくったというが、それは構造的な本質ではない。頼朝は一介の流人に過ぎず、家来などほとんどいなかった。彼が成功したのは、東国武士の協力があったからである。東国武士が頼朝に与したのは、もちろん彼らの利益のためである。西の政権の抑圧や収奪を排除し、自分たちの世界を作るためである。
 鎌倉幕府の本質は、東国武士団による連合政権なのである。事実、源氏は頼朝・頼家・実朝の三代で滅ぶが、鎌倉幕府はその後も続いていくのだ。北条氏は幕府の中で大きな権力を握ることになるが、政治の手続きとしては《合議制》の形式を続けていくことになる。こうした歴史認識は、当然の帰結として「東国国家論」を要請することになるだろう。これからの『鎌倉殿の13人』が楽しみである。

 今聴いているのは、クリームの1967年リリース盤『フレッシュ・クリーム』である。クリームは好きだ。そして、以前記したように(→こちら)、真のスーパーバンドだと考えている。あの分厚いサウンドを3人で作り上げていたこと、30分にも及ぶことのあったインタープレイ。今考えても、唯一無二ロック・バンドである。しばらくぶりに聴く『フレッシュ・クリーム』は佳曲揃いでなかなか聴きごたえがある。もう二周目になってしまった。

 多くのギター少年たちと同じように、エリック・クラプトンは、私のギター・ヒーローの一人だった。ギター小僧だった頃、『エリック・クラプトン奏法』という本でその奏法を勉強したものだ。けれども、本当にすごかったのは、仲が悪かったといわれるジャック・ブルースのベースとジンジャー・ベイカーのドラムが作りあげる、分厚くうねるようなリズムのドライブ感だったのだと、今は思う。エリック・クラプトンのギターは、もちろん悪くはないが、今という時点から見ると、ひどく凡庸なものに聞こえてしまう。もちろん、歴史性を排除して現在から過去を断罪するのはフェアなやり方ではないが、エリック・クラプトンの演奏に比して、ジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーが織りなすサウンドは、現在という地点から見ても革新的な輝きを放っているように思える。

 youtubeで見ることができる2005年の再結成ライブは、なかなか凄いものだった。ジャック・ブルースは2014年に、ジンジャー・ベイカー2019年に亡くなっており、健在なのはエリック・クラプトンのみである。

ゆずるの里

2022年02月08日 | 今日の一枚(Q-R)
◎今日の一枚 563◎
Richie Beirach
No Borders
 登米市中田町浅水に「ゆずるの里」というそば処がある。《ゆずる》とは、フィギュアスケートの羽生結弦選手のことだ。羽生選手の父方のおじいさんがこの周辺の出身ということから、命名された店名のようだ。実際、羽生選手も幼少期に登米市に住んだことがあるとも聞く。羽生選手のおじいさんは、元同僚の羽生先生である。もう30年近く前に、M工業高校に勤務していた時の話だ。羽生先生は自動車科の先生で、当時、総務部長をされていた。残念ながら、羽生先生は退職後しばらくして亡くなられたとのことだ。
 先日、「ゆずるの里」をローカルのニュース番組が取り上げていた。羽生先生と同級生で元同僚という老紳士がインタビューを受けていた。一目でわかった。同じ社会科でお世話になったK先生である。おそらくはもう90歳近いと思うが、お元気そうに見えた。その穏やかで温かい語り口に、懐かしさがこみ上げ、ほっこりした気持ちになった。

 今日の一枚は、リッチー・バイラークの2002年録音盤『哀歌』である。venus盤である。リッチー・バイラークがクラシック曲を奏でるという企画盤である。リッチー・バイラークは好きなピアニストだが、この作品は今一つピンとこず、聴くことが少なかった。今朝、何気なく棚から取り出し、本当にしばらくぶりにCDデッキのトレイにのせてみた。悪くはない。気品のあるタッチである。ピアノの響きも美しい。しかし、やはり何かが違うんだよな、と思ってしまう。アドリブ演奏を展開しながらも構成的な趣の音楽に、ちょっと、考えすぎじゃないかという気がしてしまうのだ。

 私がM工業に勤務していたのは、このアルバムがリリースされるよりずっと以前のことだ。当時、羽生先生やK先生は大ベテランで、私は若手だった。
 時の流れの速さに立ち尽くすのみである。

白いあなた・・・・青春の太田裕美(29)

2022年02月05日 | 青春の太田裕美
 
 久々の、9年ぶりの《青春の太田裕美》である。
 1976年にリリースされた太田裕美4枚目のアルバム、『手作りの画集』収録の「白いあなた」である。太田裕美その人が作詞・作曲した曲だ。しかし、極私的名盤『手作りの画集』の中では影の薄い曲である。大変申し訳ないが、凡庸で退屈な曲だと思っていた。
 昨日、ギターを弾いていた。ちょっと前に購入したLagのエレガットである。和音の響きを確かめ、味わいながら、アドリブでソロ演奏をしていた。なかなかいい響きだと、自画自賛、自己満足で悦に入りながら弾いていた。ふと気づいた。聞き覚えのあるメロディーである。C△7からF△7への続くその響きは、どこかで聞いたことのあるものだった。凡庸で退屈な曲だと思っていた太田裕美の「白いあなた」だった。書斎の書棚から古い太田裕美のコード譜を引っ張り出して、コードの流れをもとにメロディーをつけ、アレンジしてみた。う~ん、なかなかいい。自画自賛と自己満足の嵐である。凡庸で退屈だと思っていた曲がソロギターで蘇った。休日の午前中にコーヒーでも飲みながら楽しむのに最適な響きである。新しい太田裕美の楽しみ方である。
 今日は、朝食後から、壊れたレコードのように、何度も「白いあなた」のソロギターを弾いて悦に浸っている有様である。