WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

スタン・ゲッツのボサ&バラード~ロスト・セッション

2006年09月07日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 40●

Stan Getz   

Bossas And Ballads : The Lost Sessions

Scan10007_9  晩年のゲッツの演奏だ。親友ハーブ・アルバートのプロデュースのもと、ゲッツの亡くなる2年前の1989年にA&Mレーベルに吹き込んだ幻の音源といわれる作品だ。

 ゲッツのテナーは、抑制された内省的な音だ。けれども決して小難しい演奏ではない。音はスムーズにつながり、アドリブはまるでひとつの曲のようにメロディアスだ。ケニー・バロンのピアノもぴったりと彼に寄り添い、美しい旋律を奏でる。ジョージ・ムラーツのベースも時に重厚な音を出し、時にまるで歌うように飛び跳ねながら、きちんとゲッツをサポートする。選曲も良い。録音も良い。未発表音源にこのような素晴らしいものが残っているとは驚きだ。

 ゲッツが肝臓癌という病に侵され、その痛みと戦いながら演奏していることが信じられないほど、素晴らしい演奏だ。とはいえ、このころのゲッツはようやく酒を止め、中毒から立ち直りつつあった時期のようだ。かつてズート・シムズが「スタンは素敵な奴らさ」といったような、移り気で二重人格的な部分は影をひそめ、誠実な人柄が前面にでていたことが当時のゲッツを知る人々によって証言されている。ゲッツは、化学療法も放射線治療も拒否して、有機野菜や漢方薬による自然療法によって生き抜き、音楽に取り組む意思を持っていたようだ。そのことを示すかのように、ゲッツの音はやさしく、そして深い。

 プロデューサーのハープ・アルバートは次のように語っている。

彼はその生涯を通じて、プロとしての目標に到達したけれど、人生の終わりには、精神面での目標にも到達した。彼は心の平静を味わっていたからね。彼の音楽と同様、彼の精神もまた、天空に舞い上がっていたんだ。」


ソニー・クリスのゴー・マン

2006年08月15日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 31●

Sonny Criss     Go Man !

Scan10013  数日前、インターネットで注文したCDが今日届いた。そのうちの一枚 Sonny CrissGo Man ! を早速聴いてみた。1956年の録音であることを感じさせないいい音だ。モノラル録音であることを忘れてしまいそうだ。どうも最近はやりの24bit デジタル・リマスタリングのようだ。

 とても艶やかなアルトの音色だ。音はどこまでも明るく、どこまでも伸びやかだ。アドリブもメロディアスで歌心に満ちたものだ。しかし、この饒舌さはなんだろう。音数が多く、休むまもなく次の音がでてくる。手もとにある『ジャズ喫茶マスター、こだわりの名盤』(講談社+α文庫)は、「初期の音数が多めなのも、歌おう歌おうとする彼の思いからすれば仕方のないことだと思う」と好意的だが、この饒舌さは尋常ではない。何かにせかされるように、あるいは静寂を恐れるかのように、彼は吹き続けるのだ。それは、うるさいというより、神経症的である。

 ソニー・クリスは、このアルバムから約20年後の1977年、ピストル自殺という衝撃的な人生の結末を迎えるのだが、もちろんこのアルバムとは無関係であろう。しかし、この作品から垣間見ることのできる、何かを求め続けずにはいられないような彼自身の神経症的な資質と後年の悲劇的な結末を関連づけずにはいられないのは、私だけではないかもしれない。


スタンリー・タレンタインのシュガー

2006年07月28日 | 今日の一枚(S-T)

●今日の一枚 18●

Stanley Turrentine     Sugar

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 エッチっぽいジャケットである。変なことを想像してしまいそうなジャケットである。今日は(も?)朝早くおきて仕事をした。気分転換に何か音楽を聴こうと思って何気なく取り出したのが、このCDだった。あまりにきわどいジャケット写真なので、ちょっと変な気分になりそうだった。

 テナー・サックス奏者スタンリー・タレンタインのシュガー。彼の代表作といわれる一枚だ。太く男っぽいテナーサックスを「ボス・テナー」というらしい。スタンリー・タレンタインはよく「ボス・テナー」の代表格として紹介される。彼の音色が男っぽいと思ったことはないが、太いとは思う。

 私は、「ボス・テナー」より何より兎に角かっこいいサウンドだと思う。ブルースを基調にしたソウルフルでファンキーなフレーズ。エレクトリックギターやエレクトリックベース、オルガンなど電気楽器を使った編成。よくスウィングするビート。私はこういうサウンドが大好きである。思わず踊りだしたくなってしまう。まったく、小気味良い音楽だ。電気楽器を多用している点で、アコースティック・ジャズとはいえないのかも知れないが、フュージョンではない立派なジャズである。いわゆるジャズ評論家の人たちが頻繁に紹介するジャズの巨人ではないのかも知れないが、とにかく爽快でかっこいいサウンドである。

 若い頃、車を運転する際、スタンリー・タレンタインのカセットテープをよく聴いたことを思い出す。そのカセットテープは、今も私の車の中にある。