●今日の一枚 417●
Billie Holiday
Strange Fruit
超有名盤である。ビリー・ホリデイの1939年及び1944年録音を収録した『奇妙な果実』である。私が持っているのは特別価格¥1,100のCDだが、オリジナルのアナログレコードと曲順がかなり違うようだ。なぜだろう。名盤であることは論を待たないであろう。CD帯にも、「ビリーの最高傑作」「ジャズ・ヴォーカルの不滅の金字塔」などの文言が並ぶ。
タイトル曲ばかりが有名だが、しばらくぶりにじっくり聴いてみると、全編にわたる質の高さに驚かされる。古い録音ながら、情感の豊かさと歌に対するフィーリングの素晴らしさが見事に伝わってくる。穏やかな心持になり、歌にじっと耳を傾け、所々で無意識に微笑んでしまう。
実業高校で世界史A(近現代史)を担当した時、タイトル曲の「奇妙な果実」を使った授業をつくった。歌詞を示しながら曲を聴かせ、何を歌っているのかを考えさせる授業である。第一次世界大戦後のアメリカの空前の繁栄の陰で、禁酒法や移民法の制定、共和党の大統領が続いたこと、マフィアの暗躍、そしてKKKの勢力拡大など、WASPの保守化が進んだことを考えさせるのがテーマだ。映像や写真を見せることもできるが、あえて音楽と言葉によってイメージを喚起させることを狙ったものだ。マイナーチェンジをしながら数年間続けたが、教壇の私はいつも演奏に聴き入ってしまう始末だった。ビリー・ホリデイの歌唱はもちろん素晴らしいが、前奏のピアノの静謐な響きが何ともいえずいい。シリアスで、悲惨な事柄を歌った曲だが、演奏のあまりの美しさ、見事さに魅了されてしまう。
今、音量をしぼって聴いている。教室で大きな音で聴くのもいいが、深夜ウイスキーをすすりながら一人小さな音で聴くビリー・ホリデイもまた格別である。暗闇の中から、ビリーの声がかすかにたちあがってくるのがたまらない。
今飲んでいるのは、ブラックニッカのリッチブレンドだ。高いウイスキーではないが、ロックで飲むとなかなかコクがあっていける。NHKドラマ「マッサン」の影響だろうか。最近は、元社長が東北を熊襲の地と侮蔑したサントリーよりも、ニッカのものを飲むことが多い。
南部の木には奇妙な果実がなる
葉には血が、根にも血を滴たらせ
南部の風に揺らいでいる黒い死体
ポプラの木に吊るされている奇妙な果実
美しい南部の田園に
飛び出した眼、苦痛に歪む口
マグノリアの甘く新鮮な香り
そして不意に 陽に灼ける肉の臭い
カラスに突つかれ
雨に打たれ 風に弄ばれ
太陽に腐り 落ちていく果実
奇妙で悲惨な果実
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