●今日の一枚 54●
Zoot Sims Soprano Sax
熱狂的にハマったことがあるわけでもないのに、何故かCDの数が増えてゆくミュージシャンがいる。
ズート・シムズは私にとってそんなプレーヤーだ。実際、名手であることは間違いないし、コンスタントに質の高い作品を発表するが、「深みがない」とか「鬼気迫るものがない」とかいうのが大方の評論家たちの意見のようだ。
にもかかわらず、私はズートの作品を買ってしまう。確かに彼は「呪われた部分」のミュージシャンではないかもしれないが、彼の音楽からはもっと身近な何かを感じるのだ。それはアット・ホームな何かであり、ウォームな何かだ。
1976年録音のこのプレイズ・ソプラノ・サックスは、そんなズートの資質をよく表している。同じソプラノ・サックスを使っても例えばコルトレーンとはまったく違って、温かくデリケートで優しい音が我々の心を包み込む。②のバーモントの月を聴いてもらいたい。優しく美しいこの曲の心を大切にしながら、ズートはリリカルで感銘深い演奏を繰り広げる。ソプラノ・サックスがか細く伸びる響きは、筆舌に尽くしがたいほど美しく、胸をしめつけられるようだ。
忙しかった一週間を終えた土曜日の夜、天窓から見える黄色い月を眺めながら、私はこのアルバムを聴く。バーモントの月はどんなものなのだろうかと考えながら……。
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