WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ジャズとしてのジョニ・ミッチェル

2009年01月22日 | 今日の一枚(I-J)

◎今日の一枚 221◎

Joni Mitchell

Mingus

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 ご存知、カナダ生まれのシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの1979年作品『ミンガス』。もともとはチャールス・ミンガスとの合作アルバムとして制作されていたが、途中でミンガスが亡くなり、結果的にジョニがミンガスに捧げる追悼アルバムとして発表されたというものである。

 昨年の秋からしばらくの間、なぜかジョニ・ミッチェルがマイブームだった。以前から持っていたいくつかのアルバムを聴きなおし、いくつかのアルバムを新たに購入して聴いてみた。このアルバムを知ったのは、後藤雅洋『ジャズ喫茶四谷「いーくる」の100枚』(集英社新書:2007)によってである。この中で後藤氏は、「《いーぐる》の客層はかなり柔軟で、ロックミュージシャンのアルバムをかけたからといって特に拒絶反応はなかった」と語り、「《いーぐる》の客層の音楽的レベルを象徴する名盤」として紹介されている。有名ジャズ喫茶で、ジャズ以外の曲が常時リクエストの上位だったという話を聴いて、一体どんなアルバムなのかと興味が高まったのだ。

 衝撃的ともいえる名盤である。ジョニ・ミッチェルの歌の表現力、ジャコ・パストリアス、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックといった参加プレーヤーの描き出す不安定で不思議な世界。深夜にひとり静かに聴いていると、暗闇の中から青白い炎が立ち上がってくるような、怪しく深遠なイメージが頭をよぎる。稀有なアルバムである。後藤氏は、ジョニについて「歌い方は別にジャズ的ではないのだが、これだけの歌手ともなるとそういったことはあまり問題にならなくなってくる」といっているが、私には非常にジャズ的な歌い方に思える。理論的なこと技巧的なことはよくわからないのだが、印象としては高度にジャズ的に思えるのだ。参加プレーヤーたちの演奏も含め、例えばマイルス・ディヴィスが『イン・ア・サイレント・ウェイ』以降のいくつかのアルバムで表出したような世界観との親近性を感じる。不安定で落ち着きが悪いのだが、どこか安らぎを感じるような世界観だ。そういった意味では、当時のジャズの方向性の中に位置づけられる正統的ジャズ作品と言えなくもない。そうだとすれば、《いーぐる》のお客さんたちについても、柔軟性がどうのこうのというより、いいものをきちんと評価できるセンスを持っていたということなのだろうと思う。


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