WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

宝酒造のタンクローリー

2021年03月29日 | 今日の一枚(Q-R)
◎今日の一枚 482◎
Richie Beirach
Elegy For Bill Evans

 震災のときのことでふと思い出すことがある。そのひとつが、宝酒造のタンクローリーのことだ。あの時は断水で大変だった。避難所のトイレを流すために、みんなでプールの水をバケツリレーしたりしたものだ。飲み水や調理に使う水のために給水車が来たが、毎回長蛇の列となり、並んだものの品切れで水にありつけなかったこともしばしばあった。そんなとき、避難所の階上中学校に宝酒造のタンクローリーがやってきたのだ。それまで見たことがないような大きな大きなタンクローリーだった。これなら大丈夫、と思った。いくら並んでも確実に水にありつける、と思った。いつもは酒類を運ぶためのタンクローリーだったのだろう。後で知ったことだが、あのタンクローリーで水を運ぶと特殊な清掃処理をしなければならないのだそうだ。そういう中で、来てくれた宝酒造のタンクローリーを、おそらくは一生忘れないだろう。

 今日の一枚は、リッチー・バイラークの1981年録音盤の『エレジー・フォー・ビル・エヴァンス』である。venus盤である。パーソネルは、Richie Beirach(p)、George Mraz(b)、Al Foster(ds)だ。前年に亡くなった。敬愛するピアニスト、ビル・エヴァンスへのトリビュート作品なのだろう。リッチー・バイラークは当時エヴァンス派と呼ばれていたが、エヴァンスに比べて音の輪郭が明瞭すぎる気がする。もちろん、それが個性というものなのだろうが、音の輪郭が明瞭すぎて攻撃的な印象を受けることもある。エヴァンスのピアノが墨絵のようなニュアンスだとしたら、リッチー・バイラークのそれは油絵のようだ。にもかかわらず、嫌いなアルバムではない。② Blue in Green や⑤Peace Piece で聴かれる叙情性に惹かれることがある。音の輪郭が明瞭すぎることは気になるが、それがECM的な硬質な抒情性となって現出する瞬間が好ましいのだ。


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