WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

トゥディ

2009年01月18日 | 今日の一枚(A-B)

◎今日の一枚 219◎

Art Pepper

Today

Scan10008

 今日は半日、障害者サークルの餅つき大会のボランティアをし、夕方からは次男と共に凧揚げをした。

 臼と杵で餅をついたのは本当にしばらくぶりだった。肉体的には疲れるが、餅をつく感触はやはりいいものだ。汗だくで一心不乱に餅をついていたら、昔読んだ中上健次の『枯木灘』の肉体労働の描写が思い出された。小説を読んであれほどリアルな鼓動を感じたことは今日までない。土を掘る主人公の息遣いが、心臓の鼓動が、額から流れ出る汗が、そしてつるはしが地面に突き刺さる衝撃が、文字という媒体を通して手に取るようにリアルに感じ取れる。本当に軌跡的な作品だ。文庫本を引っ張り出してみたが、その箇所がどこだかすぐには判明しなかった。

 洋凧は良くあがる。本当に簡単にあがってしまうのだ。今日も我が家特製のタコ糸で約200~300メートルはあがっただろうか。ただ、なぜか感動の度合いが低い。子どもの頃、熱中した日本凧とはやはりどこか違う。やはり、自分で骨組みを組んで紙を張り、あるいは市販のものでも新聞紙で長い足をつけ、何度も墜落して失敗し、試行錯誤しながら、凧を揚げることを考え続けることが重要なのかもしれない。日本凧に比べてスピード感に溢れ、遥かに豪快に、しかもずっと高く上がる洋凧だが、なぜか熱くなれない。どうも、凧というものは、あがる快感そのものよりも、そこに至る過程の方に真の魅力があるようだ。

   ※    ※   ※

 今日の一枚は、アート・ペッパーの1978年録音作品、『トゥディ』だ。復帰後の後期ペッパーは、コルトレーンの影響を受け、力強く、フリーキーなトーンも辞さない奏法へと変化した。本作でもリズムセクションに当時のウエストコーストの第一級の実力者たちが顔をそろえ、躍動感のあるダイナミックな演奏が展開される。しかし、私がひきつけられるのは、ペッパーのアルトの変わらぬ暖かい音色である。いや、音色の暖かさという点では、もしかしたら、後期ペッパーの方が一段優れているかもしれない。アルトの暖かい音色が優しく私を包み込んでくれ、私はその中で安堵の気持ちに浸る。時折顔を見せるペッパー節に細胞たちは同化し、心は解けていく。いろいろなJazzを聴いても、ときどき私はペッパーに帰っていく。その度に忘れていたものを思い出すような気持ちになり、あるいは自分がいるべき場所に帰ってきたような気持ちになる。

 本当に不思議なことだ。


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