●今日の一枚 315●
Zoot Sims
Zoot At Ease
私の住む三陸海岸は本来この季節となれば、かつおのシーズンの始まりであり、ホヤのシーズン真っ只中である。ところが、あの大津波の影響で、当然といえば当然なのだが、我々の地域からホヤが消えてしまった。どこの魚屋にいっても、スーパーに行っても、ホヤを見かけることはなくなってしまった。鰹や鮪は他の地域のものが若干入ってくるが、ホヤはほとんどこの地方でしかとれないものなので、きれいさっぱり店頭から消滅してしまったわけである。
もともと大のホヤ好きの私、無くなってみると、ホヤへの思いは益々つのるばかりだ。先日、出張帰りに隣街の魚屋に立ち寄ってみると、何とホヤがあるではないか。ただし冷凍ものではあるが……。冷凍ものではあるがパッケージには「刺身用」と記されており、私は生唾を飲み込む有様だった。今夜、ホヤを肴に日本酒で一杯……、という映像が頭の中に浮かんだ。当然のことのように、買っちゃおうと手に取ると、何と値段が980円……。気の弱い私は気おくれし、躊躇してしまった。生であれば、200~300円程度のものである。私の脳裏に、妻から小言をいわれている映像が浮かび、5分ほどもどうしようかと迷ったあと、家庭の平和のために泣く泣くあきらめることにした。ああ、ホヤが食べたい。あの日からホヤへの思いはつのるばかりである。
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今日の一枚は、ズート・シムズの1973年録音作品、『ズート・アット・イーズ』である。もともとテナー奏者のズートのソプラノ・サックスが聴ける一枚である。ずっと以前に取り上げた『プレイズ・ソプラノ・サックス』もそうなのであるが、ズートのソプラノは、例えばコルトレーンと比べて、音がふくよかであり、やさしい温かみがある。繊細でセンチメンタルな音の表情がたまらない。私はかなり好きな一枚だ。曲もなかなか魅惑的なものが並んでおり、ズートはその時々によってテナーとソプラノを使い分けている。
ああ、このアルバムを聴きながら、ホヤを肴に地元の日本酒で一杯やりたい。
ところでこのズートのアルバム、私も古くから愛聴盤です。特にソプラノで吹いた曲がいいですね。
「ホヤ」は初めて食べる人にはかなり抵抗があるようです。私自身、子どもの頃は苦手でした。ホヤ好きになったのは、日本酒を飲むようになってからです。ただ、初めての人でも海から取ったばかりのものを海水でささっと洗うと、意外と食べれると聞きます。まあ、大津波のおかげでそういう食べ方も当分はお預けですが……。
ズートの作品は概して好きです。ただ、熱狂的な感じでハマったことはありません。熱狂的にハマったこともないのに、なぜかLPやCDが増えてゆく不思議な存在です。