学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

図書館が使えず

2020-05-09 19:37:33 | その他
仕事柄、よく図書館を利用します。私の勤める美術館にも研究用の蔵書はありますが、どうしても美術書だけに限られてしまいます。その点、多岐の分野を網羅する図書館の存在はありがたい限り。しかも、無料で本を借りられるのですから、自宅での学びも支援してくれる。

新型肺炎のおかげで、現在は多くの図書館が休館しているようです。昨日の日経新聞の記事に、学生や研究者への調査結果として、図書館の休館が研究に影響していると回答した割合が9割にのぼるとありました。このことについては、私自身もこまっています。美術館が休館している間に、次回展覧会の準備を進めているのですが、とにかく調べものができない。調べものができないと、作家や作品に関する項目や解説が不十分になり、中途半端な状態で展覧会を開くことにしかならないのです。

しかし、今日の現状が続く限りはやむなし。私の場合、今後の課題は明確にしつつ、今は館内にある蔵書を使い、調べものをしている次第です。重ね重ね、早い収束を祈るばかりです。


美術の時間

2020-05-02 19:58:31 | その他
仕事を終えた夜、ときどき絵を描いています。描くといっても、鉛筆でラフに描いたり、色鉛筆でイラストを描いたり、要するに落書きに近いのです。誰にも見せるものではないですから、うまい、へたは関係なく楽しめるし、なにより手を動かしているあいだは無心になるので、気持ちがすっきりします。

学生時代、美術の授業はどうも苦手でした(たいていの授業がダメな私)。うまく描けないし、何をやっても不器用で、周りの人たちが上手な分、全然面白くなかったことを覚えています。また、それが点数として評価されるのにも、もやもやしたものを感じていました。それが払しょくされたのは、実は社会人になってからのこと。趣味で絵を描いているグループに顔を出したとき、みなさんが生き生きと絵を描いている姿を見て、私も急に絵を描いて見たくなったのです。そして、家で実際に絵を描き始めると楽しくてたまりませんでした。絵を他人と比べたり、点数を気にしていたのでは、やっぱり楽しめませんよね。

私は大人になってから、色々なことに気づきます。絵を描くことの楽しさもそのひとつ。いま、私は「母の日」の贈り物として、はがきにカーネーションの絵を描いています。母に感謝の気持ちが届き、どうか喜んでくれますように。

佐藤道信『<日本美術>誕生 近代日本の「ことば」と戦略』を読む

2020-05-01 18:57:51 | 読書感想
私にとって、美術関連の本の感想を書くというのはなかなかに難しい。というのは、それらを読む理由は、教養のため、というよりも、仕事のためであることが多く、あまり個別の感想を持たないからです。また、感想を書いて、私の浅学を改めてさらすのもどうかなあと思ったり。

佐藤道信さんの著書、『<日本美術>誕生 近代日本の「ことば」と戦略』(講談社、1996年)も感想としてはなかなか書きにくい本のひとつ。著者は「ことば」という部分に注目して、「日本美術」や「絵画」などの言葉はどのように作られてきたのか、「絵」と「画」の使い分け、そして、それらに関して、時の政府がどのように関わってきたのかを記します。

私が興味深いと感じたところは、そのあとの美術の階層に注目したところです。明治初期の日本画、洋画の作家たちには士族が多かったこと。さらに洋画に関しては、初期洋画は旧佐幕派、洋画新派の白馬会系は藩閥雄藩の出身という傾向がある。その作家がどこの藩出身であるのか、ということが美術において主流、非主流の大きな問題になっていたことがわかります。幕府はすでに瓦解したとはいえ、それぞれの立場からバチバチと火花を散らす、この時代の人たちの姿が浮かび上がってくるようです。

本の内容は専門的ですが、日本美術とは、近代美術とは何か、の根本を問い直す本として、先にご紹介した木下直之さんの『美術という見世物』(筑摩書房、1999年)と併せてぜひ読みたい一冊です。