学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

一日だけのスローライフ

2010-04-30 20:26:56 | その他
展覧会の仕事が一段落したので、今日はのんびりした休日を過すことにしました。ただ、バタバタした毎日が続いていたせいか、のんびり、というものに違和感を感じ、何かをやっていないと不安でしょうがない気持ちが湧き出てしまい…。どうも落ち着かない一日でしたが、午後から徐々にギアが落ちてきたような気がします。

いつもとは違うことをしたくて、暖かい午前中のうちに直売所で野菜、魚屋で鰊と明太子を買ってきました。お店の人とお話をしながら買い物する、いつもスーパーで買い物をする私にはとても新鮮でした。独り暮らしをしている私にとって、休日はなかなか人と会話する機会がありません。ですから、こうした世間話ができる、ということは幸せなこと。晩御飯に早速、野菜と鰊を頂きましたが、とても美味しかった!お気に入りのお店が出来ました!

午後は、日向に当たって読書。忙しいと必要ないところは読み飛ばしてしまう私ですが、今日は一ページ、一ページ、ゆっくりとかみしめながらの読書。買ってきたばかりの『藤田嗣治 手しごとの家』(林洋子著 集英社新書 2010年)を読みました。生活をデザインする、今でこそ良く言われることですが、明治19年生まれの藤田はすでに先駆けて実践していたのですね。とても斬新さを感じる、とともに、私もこんな家に住んでみたいものと思いました(笑)

スローライフ。いい言葉の響きです。そして日本でこれを実践するのはなかなかに困難です。一日だけのスローライフ。本当は一日だけでは意味が無いことなのですけれど(苦笑)。でも、とても楽しい休日でした!

テレビ取材の練習

2010-04-27 21:38:10 | 仕事
明日、テレビ取材を受けることになりました。これまで何度かテレビ取材を受けましたが、私は大の苦手です。カメラを向けられると、頭が真っ白になり、言葉につまり、オンエアされて映る私はとにかく話し方が下手…。よくNHKの「新日曜美術館」アートシーンで、すらすらと述べられる学芸員の方を見かけると、ああ巧く話せるようになりたいと願うばかりです。

ただ、いつまでも話し方が下手では何も始まらない。今日は帰宅してから、取材原稿を繰り返し読んで、テレビ取材の練習をしています。事前練習はやっておくのとやっておかないのでは、天と地の差、と私は思いますので…。言葉をはっきり、堂々と、展覧会の見所を説明する。すでに緊張気味ですが、しっかり話ができるよう、明日は頑張って参ります!

ふるさとは遠きにありて

2010-04-26 19:02:34 | その他
すっかりブログがご無沙汰になってしまいました。展覧会の仕事が一段落しましたので、久しぶりに実家へ帰省していました。帰る途中、車内の窓から見えるのは、一面の桜。東北は今が桜の見ごろなんですね。ちょっと得をした気分♪

休暇中は、暖かくなった仙台の街を散策!天気の良い日には散歩するのが一番です。足の赴くままに歩く。市内をぐるぐると回っておりましたら、「肴町」なる地名が!面白いなあと思って近くの看板を見てみると、案の定、かつて仙台藩の魚介類を扱うお店がまとめられた場所なのだそうです。今も続く魚屋さんがないものかとあたりを探してみましたが、さすがに見つからず。仙台は太平洋戦争時に空襲を受けていますので、もしかしたら戦前までは残っていたのかもしれないですね。

そんな空想にふけりつつ、仙台市博物館、宮城県美術館の前をぐるりと歩いて、澱橋へ。宮城県美術館から尚絅女学院高等学校方面へ渡り歩く手前、左側に朽ち果てた石の欄干があります。近代的なデザインですが、何だかさっぱりわからない。で、澱橋を渡りながら、ふとさきほどの欄干のほうを振り返ると、橋のたもとに赤レンガが見える。赤レンガ、とくれば近代の遺産ですね(笑)もしかしてこれは昔の澱橋の跡?と疑問に思いながらてくてく歩きました。(のちほど調べてみると、やはり澱橋跡とのこと。歩くと普段は見えないものが見えますね!)

とにかく歩いた一日でした。足が棒のようになるまで歩いたのは久しぶりです。心地よい疲れでしたが、とても楽しい時間を過すことができました。やはりふるさとはいいですね。明日からまた仕事です。最後の追い込み、頑張らねば!

論文が完成する

2010-04-20 22:16:37 | 仕事
今日、ようやく展覧会図録のための論文が完成しました。長かった…。ほっと一息です。ただ、文章を読み直してみると、最初のほうは意気揚々としているけれど、後半になるとちょっと質が落ちてくるような気がします。私の論文は、結論を最初にパッと出して、なぜならば…という理由を後から書いてゆくやり方です。だから落ちてくるのでしょうか…それは理由ではないですよね(苦笑)

ある作家について、今まであまり考察されていなかったことについて書きました。論文は芸術的奔放さで書け、と、この言葉は小説家の丸谷才一氏の言葉。芸術的奔放さ、といえるのかどうかはわかりませんが、私が疑問に思っていたこと、実はこうだったのではないかと根拠を持って、書くことが出来たのではないかと思います。まだまだ勉強が必要ですけれど。

もう一日中、パソコンで文章を入力していたので、かなり手が痛い(苦笑)今日はお酒が無くとも、ぐっすり眠れそう。明日は校正の仕事です。

桜花随想

2010-04-19 20:38:05 | その他

今日は花見には絶好の日和。近くの山を散策して、桜ふぶき舞う、ちょっとぜいたくなお花見をしてきました。お花見といっても、さすがにお酒は飲みませんけれど(笑)

もう春は始まって、桜は散り始めています。かるい風にも、木々がざわざわざわ。花びらが舞う。そうして、ふわりふわりと、そばのまるいお池に落ちる。池は桃色の水。色に酔いそう。

春は別れと出会いの季節。
今日はちょっと遅めの別れの日。
大変お世話になった方との別れの日。
それは桜吹雪の舞い散る日。

山の頂上にはちいさな鐘があって、誰でも鳴らしてよいことになっていますが、何べんたたいても鳴らない、その鐘。鳴らない鐘をたたきて何をするらん。遠くでタンチョウの鳴く声が聞こえる。

いくつになっても、この春の別れだけは嫌ですね。ああ、早く夏が来て欲しい。

Bunkamuraザ・ミュージアム「美しき挑発 レンピッカ展」

2010-04-17 22:51:19 | 展覧会感想
今朝、長いカーテンを開けると、外は雪国でした。この時期に雪が降るなんて、とても信じられないことです。肩を縮こませながら、久しぶりにコートを羽織っての出勤でした。

昨日のブログでも書きましたが、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「美しき挑発 レンピッカ展」を見てきました。いわゆるモネやルノワールなどと比較すると、あまりなじみのない画家ではないでしょうか。私の持っている世界美術史の本にもちょっとだけしか書いてありません。しかも、アール・デコを代表する画家、とだけ。余談ですが、アール・デコと聞くと、NHKで放送されていた(されている)「名探偵ポワロ」の世界が頭に浮かびます。これはミステリードラマですが、セットは1920年代のまさにアール・デコの時代。ああいう時代に活躍していたのかと思うと、レンピッカの背景が浮かんでくるようです。

レンピッカは1898年にワルシャワに生まれ、ロシアで思春期を過ごしています。師の一人はモーリス・ドニ。展覧会の始めに展示されている、絵を学び始めたころのレンピッカの絵はやはりドニのタッチに似ています。ただ《女占い師》、《本を読む赤毛の女》などはどうもモチーフを皮肉って描いたような感じがしました。《女占い師》のいやらしい表情や手に持つカードが札束のようにもみえて。何か社会や人間に対する不満、そんなものが見え隠れするようです。また、1924年頃に描かれた《ボヘミアン》は、のちの《緑の服の女》につながっていくような調子。

「狂乱の時代」と題された第1章では、《緑のヴェール》、女性の恐ろしいまでの上目遣いの表情が圧巻でした。レンピッカは斬新な作品を描いているようで、実は伝統的な技法をかなり学んでいたようです。この作品の地肌は、バロック絵画のようにはっきりとカシッと描かれていて計算されたような印象。1925年から1935年頃までの作品は非常に力のある作品ばかりです。《緑の服の女》、《イーラ・Pの肖像》などになると、これまでの作品にあまり見られなかった「動き」が表現されるようになってきています。レンピッカの奔放さが見えてくるよう。

その後の第2章「危機の時代」、第3章「新大陸」になると、レンピッカの精神的な疲れもあって、勢いという点では大人しくなってしまったかな、と思いました。ただ、そのなかでも《果物と絹の布のある静物》は質感が素晴らしく描けています。ものをはっきり捉える視点は健在ですので、この時期は人物画よりもかえって静物画のほうがしっかりしているようです。

さて、展覧会会場でメモしてきたことをざっとまとめてみました。所蔵先を見ると、海外の様々なところから借用してきているようなので、これだけまとまった数のレンピッカを見る機会はもうしばらくないと見ていいのではないでしょうか。私自身、実際の作品を見たことがなかった画家でしたので、とても興味深く見てきました。作品数は程よいくらいのですので、一点をジックリと見る余裕もあります。ぜひご覧下さい!

東京行き

2010-04-16 21:30:41 | その他
この時期にしては、信じられないような寒さ。戸外へ出て、息を吐くと、そのまま白い息が見えるのです。しかも…明日は雪が降るらしい。もう天気に呆れた一日でした。

昨日の予告どおり、東京へ出かけました。ただ、図書館での調べものに夢中になってしまい、楽しみにしていた展覧会はゆっくりと見られませんでした。

今日見てきた展示は、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催している「美しき挑発 レンピッカ展」です。パンフレットの女性像を見たときになんだかとげとげしくて変わった絵だなあ、と思いました。この女性像がどうも気になって頭から離れず、実物を見に行きたいと思っていましたが、念願かなってこの日を迎えました。展覧会はレンピッカの生涯を追っていく内容で、初期の作品から晩年までを幅広く紹介しています。私としては会場の始めに、作品リストと鉛筆が置いてあることがうれしい!これでメモを取りながら、作品を見られるからです。肝心の感想は、明日書きましょう。今夜は文章がまとまらなそうなので…。

今日はもう疲れ果てたので、もう寝ることにします。雨音をゆっくり聞きながら。

明日は東京行き

2010-04-15 21:49:44 | 仕事
今日で展覧会準備も何とか一区切り。明日はお休みをいただきました。久しぶりの平日休暇。平日にすることといったら、やはり美術館へ行くしかないですね(笑)

東京へ出かけてきます。天気は雨のようですけれど(泣)

見たい展覧会は、まだ迷っている段階です。府中市美術館の歌川国芳展、Bunkamuraミュージアムのレンピッカ展…あるいは神田神保町で古書巡りでもしようか、あまり東京に居られる時間もないので、効率良く見てまわらないといけないのがつらいところ。

明日はブログで展覧会の感想を書ければと思います。思う存分、見てきます!

一日で出来る限られたこと

2010-04-14 21:46:38 | 仕事
今日は晴れの日でしたが、風の強い一日でした。風で桜も散り始め、どうも今週末まではもたないよう。花びらが散ると、青葉になって、木々が若々しくなります。季節はぐるぐると回りますね。

ここ数日のブログでも書いていますが、担当する展覧会の開催準備でバタバタしています。
仕事は段取り八分という言葉がありますが、これは前から計画立てて粛々と取り組めば、しっかり出来るというもの。ただ、展覧会直前になると、どうしても忙しくなってしまいます。やることはたくさんあって、時間がないことは痛くわかっているのだけれど、体がついていかない(苦笑)一日で人間が出来ることはごく限られたこと、展覧会のたびに強く実感します。でも、バタバタした分、展覧会が開催すると充実感に満たされるんですね。

暖かくなったり、寒くなったりが交互に続く今日この頃。この時期、体調管理には気をつけて過ごしたいものですね!ゆっくり寝て、また明日です。明日は体がついていきますように!(苦笑)

『更級日記』を読む

2010-04-12 19:22:27 | 読書感想
一日、ずっと雨降り。気温もぐっと下がって、どこへ出かける気力もなし。こんな日は読書に限りますね(笑)

日本の古典を読みたくて『更級日記』を手に取りました。『更級日記』の筆を取った人は平安時代の女性、もう少し言えば菅原孝標の娘です。内容は彼女の日記、日記といっても今日は何々があったという逐一の記録ではなくて、どちらかといえば自叙伝に近いもの。読んでいくと、平安時代の一人間がどういうものを見て、何を思って生きていたのかを知ることができます。京都や奈良ならともかく、私たちの周りにあるもので、これは平安時代にあったもので…など言えるものはほとんどないですね。なかなか平安時代の息吹を感じるものが少ない。これはしかたのないことですけれども、せめて本を読んで、その世界に心を遊ばせてみるのも楽しいことではないでしょうか。

私が感心するのは、彼女のレトリック。つまりモノの例えなどを使って、文章表現を豊かにするための方法がすごい。

「にしとみといふ所の山、絵よくかきたらむ屏風をたてならべたらむやうなり」
(雪ある富士山を見て)「色濃き衣に、白き衵(あこめ)着たらむやうに見えて…」
「大井川といふ渡あり。水の、世に常ならず、すり粉などを、濃くして流したらむやうに…」

他にもたくさんありますが、どうも作者は読書好きな女性だったようで、相当な本を読み、そこからつかんだものなのでしょう。(余談ですが『枕草子』に出てくる、夜に牛車が川を渡ると、まるで水晶が割れているようだという表現、これ以上ない美しい表現だと思います)また、文章中に色々な本を読んだと書の表題も書かれてあるのですが、それは平成の現在までは伝わらないものもいくつかあるようです。これらの伝わらなかった本、どんな内容だったのか気になるところですが…。ただ平安時代に、それだけ読める本があったことが驚きです。

『更級日記』はもちろん古文ですけれども、比較的読みやすいものだと思います。オススメの1冊です。


●『更級日記』西下経一校注 岩波文庫 1963年