学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

筆のおもむくままに

2008-02-22 21:30:22 | 読書感想
多忙なときほど、本を読みたくなる。

最近は再び芥川の『歯車』を、併読でボードレールの『巴里の憂鬱』を読み始めた。

『歯車』は言うに及ばず。これはもはや私の相棒ともいうべき本であり、無人島に本を一冊持っていけるとしたら、迷うことなく手に取る。ところどころの伏された死のイメージ。ブランコ台が絞首台に見えるというすさまじさ。著した本人が自殺しているという事実。私の心が強く波動する。

ボードレールは『悪の華』。かつての館長が、美術をやるならボードレールを読めと私に盛んに勧めた。けれど、私は手に取らなかった。(館長の勧めで手に取ったのはチェーホフの『サハリン島』だけだ)『巴里の憂鬱』を手に取った理由は、私が好きな三好達治が訳を担当したからだ。きっかけなんてそんなもの。私もボードレールのように、空を愛したい。誰にもさえぎられることなく、夜になれば満天の星が輝くあの自由な空を。

金沢21世紀美術館

2008-02-19 21:02:12 | 読書感想
すっかり疲れて読書感想とまではいきませんが…。

美術館とはどうあるべきでしょう。その答えの1つを示してくれるのが、金沢21世紀美術館館長の蓑豊さんが書かれた「超・美術館革命」(角川oneテーマ21)です。

この本は新書であり、読みやすさもあいまって、美術が好きな人なら思わず手に取りたくなると思いますが、書かれている内容は不特定多数の人へ、と言うよりも学芸員を職としている人たちのために書いているように思えます。

肝心の内容は…子供をターゲットとして無料券を配布したり、イベント活動を活発に行う、魅力ある展示とはどのような展示なのか等、具体的にノウハウが述べられています。

私はまだ金沢21世紀美術館へは行ったことがありません。百聞は一見にしかず。今年は金沢へ行ってみようと思いました。

自己評価は厳しくあれ

2008-02-18 09:08:57 | 仕事
私は滅多にテレビを見ませんが、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」だけは毎週欠かさず見ています。

昨日、再放送があったけれども、取り上げられたプロフェッショナルは、メジャーリーガーであるイチロー。イチローが打ち立てている数多くの殊勲・感動は数え切れないけれど、ナレーションで述べられているように彼の仕事に対する姿勢はあまり取り上げられてこなかったように思います。

番組の中で、特に参考になったのが自分の確固たる考えを持つこと。さらに、その確固たる考えを押し通すには、自己評価を厳しく設定する必要があるということ。私はなかなか自分の考えを押し通すことが出来ず、例えば会議で議論になり、反対意見が出されると立ち向かうことができない人なのです。自己評価を厳しくし、結果を積み重ねていくことで、自分の確固たる考えが強くなる!なるほどな、と思いました。

どうでも良い話だけれど、イチローがメジャー年間最多安打を達成した日、私は牛乳味噌ラーメンなるものを食べていた(食べさせられていた)美術館スタッフであみだくじをひき、私が負けたのです(泣)店内のテレビでイチローの活躍が延々と流されるのを見ながら、牛乳味噌ラーメンをすする私は何だか妙に情けない気がしたのを昨日のように覚えています(笑)

そんな疲れた夜は

2008-02-15 23:01:15 | 仕事
人間、生きてゆくのに思いやりの心は持ちたいものです。今日の仕事は諸事情により散々でした。人間関係にはほとほと疲れます。仕事に疲れているのではなく、人間関係に疲れているのがくやしい!!

久しぶりに尾崎豊の「シェリー」を聞きながらブログを更新しています。今の私には涙が出てくるようなメッセージ…。詩を歌うことが音楽だと思っている私には、これほどしっくり来る曲はありません。ああ・・・。

音楽に心をゆだねるのもいいですね。尾崎豊、ありがとう。

レエン・コオトを着た男

2008-02-14 22:46:23 | 仕事
ここ数日、精神的なプレッシャーがきつくて、どうにもならない。仕事はたまる一方、山積みの課題をなんとか片付けようとするが何だか全く力が入らなくて、どうでもいいミスを連発する。それが時間のロスにつながって、また仕事がたまる。他のスタッフに指示して自分の山を少しずつ崩していく方法も考えたが、肝心の指揮系統の私が混乱していては、適切な指示もできない。これはまいった。

「レエン・コオトを着た男が一人僕らの向うへ来て腰をおろした。僕はちょっと不気味になり、何か前に聞いた幽霊の話をT君に話したい心もちを感じた。…」芥川龍之介『歯車』の一節である。芥川にとって、この「レエン・コオトを着た男」は死神の象徴だったのか。

実は今夜、仕事を終え、車に乗り込むと、美術館の駐車場に妙な人がいるのに気付いた。それは人?いや明らかに人だった。雨も降っていないのに、レエン・コオトを着て、右手に何かランプのような明かりを持っていた。私は不審者だと思った。だが、どうも様子がおかしい。まったく動きがない、生命力もない、じっと佇んでいるのである。私は眼鏡をかけて、もう一度見た。だが、男は確かにそこにいる。私はしばらくじっと見ていた。すると男が少し動きかけた。と思うと、男は目の前で消えてしまった。背中にぞくっとするものを感じた。私の幻覚だったのだろうか。思わず芥川の「レエン・コオトを着た男」を思い出した次第である。

私は疲れているのだろう。今日はもはや何をする気もない。また時間の流れに沿って生きる。とにかく、今日はもう疲れた。

本棚の掃除

2008-02-12 21:11:53 | その他
夕方、何気なく本棚を眺めていると、どうも体系的に本がまとめられていない気がして掃除をしてみることにした。私が掃除をする動機は、そんなひょんなことから生まれる。次の日は必ず掃除をしようと予定を立てたことはほとんどない。立てても守らないのが私の性分である。

本棚を整理すると、改めて気付くことだが展覧会カタログが山のほどあり、手のつけようがない。カタログは一点一点は素晴らしいデザインだが、形状がまちまちであるために、こうして並べてみると、どうも良くない。お互いアピールしすぎて、つぶしあっているように見える。さながら戦国時代の体である。

1時間程度で、ようやくまとまった。ある程度、キレイになっただろうか。部屋を汚すのは簡単だが、片付けるのは労力を要するものである。片付ける習慣を、きちんと持ちたいもの。明日から気をつけよう!(これを何度決意したことか:笑)

狩野永徳

2008-02-11 22:34:01 | 仕事
お昼休み、美術館事務室の本棚を眺めていたら、芸術新潮の11月号が目に入りました。特集は「狩野永徳」。いわずもがな、安土・桃山時代の巨匠です。芸術新潮には毎月目を通しているつもりでしたが、私の根がいい加減だから、ただの「つもり」だっただけで、永徳が特集されているとは、まったく気がつきませんでした。

狩野永徳とくれば、私は「唐獅子図屏風」が真っ先に思い浮かびます。あの無骨で、筋肉が隆々とみなぎり、威圧感がある獅子の姿は、彼が生きた戦国時代をそのまま表現しているかのように思えます。

芸術新潮の記事によれば、永徳は過労死だったのではないか?とのこと。実際、豊臣秀吉に命じられて、すさまじい忙しさだったらしい。他の依頼主へ絵画制作の遅れを陳謝する文面も残されている。平成の今は過労死による問題があふれていて、職場にカウンセラーを置く会社もありますが、永徳が過労死で死んだとすると、彼の姿が今の会社員たちの姿と少しダブって見える。

そんなハードスケジュールで、永徳は絵を楽しんで描いていたのかな?つらいつらいと嘆きながら、描いていなかったのかな?そんな他愛もない弱気な永徳を想像をしてみると、あの「唐獅子図屏風」の姿が、少し悲しく見えてくるから不思議なものです。

広重「江戸百」を読み始める

2008-02-09 21:58:54 | 読書感想
今日も疲労困憊の体である。心なしか、鏡を見ると、頬の当たりか少しこけた感がする。ダイエットをしていないのに、こけだしたのだから、やはり異常といわざる得ない。正月休みで体重が増加したが、これで標準(あるいは以下)になったということだろう。ただ病的なやせ方であるのが、多少気になる。

さて、「芭蕉 おくのほそ道」を読み始めたせいか、江戸時代の美術に興味関心がわいてきた。もちろん、学生時代に一通りの勉強はしているが、先日、書店で面白い本を見つけた。「謎解き 広重「江戸百」」と題した本である。歌川広重の江戸百景に秘められた謎を解き明かそうとするもの。昨年の秋だったろうか。私はとある美術館でちょうど広重の江戸百景を見ていた。これまでの浮世絵とは趣が異なり、大胆な構図に驚かされたものだ。そのときには、いわゆる「謎」などが隠されているとは到底考えもつかなかったが、この本によればどうも「謎」があるらしい。これから読みすすめていくので、どんな「謎」があるのか大変楽しみである。


ある種の衝撃

2008-02-08 17:34:17 | 展覧会感想
休暇を利用して、知り合いの方の個展を見に出かけました。正直な話、せっかくご案内をいただいたのだから、と半ば義理のようなかたちで出かけたわけですが、作品を見て、あっと驚かされました。

展示してある作品はどれも木版画です。画題は自分が暮らした横浜や京都、パリなどの風景。パステル調のとてもすばらしい絵でした。なんと申しますか、とても言葉に出来ない良さがそこにありました。私は趣味で木版画を作りますが、もっぱら静物画です。今年は風景画をやってみたいと考えていたときに、これらの絵を見たので、その衝撃は大きいものがありました。かつて油絵を学ぶために上京していた棟方志功は、川上澄生の《初夏の風》を見て、板画の道を志すようになったわけですが、棟方ほどではないにしろ、私にとってはそれくらいの衝撃があったのです。この方のような風景を描いてみたい!と。

とても有意義で素晴らしい休暇でした。

「芭蕉 おくのほそ道」を読み進める

2008-02-07 23:41:48 | 読書感想
先日から読んでいる「芭蕉 おくのほそ道」。学生時代は序章までしか習わなかったと思いますが、全体を通して読み進めていくと非常に面白いもの。まるで自分が旅をしているような気持ちになります。また、文章はしごく簡潔で無駄がないのが特徴。本当に必要なことだけを書き連ねた印象です。私のブログも、すこぶる簡潔に書くことが出来たら…と思います(笑)

この本には、日本の美しい自然がすばらしく描写されていますが、それは後ほど紹介することとして、私が思わず苦笑してしまった箇所をご紹介しましょう。それは芭蕉と共に旅を続けた曾良が「腹を病て」ダウンしてしまったこと。なぜ苦笑したか。単純に「曾良は病を得て」とでもすればよいのに、芭蕉はわざわざ「腹」を壊したと書いているのです。曾良自身、自分がお腹を壊したことを何百年も後の人たちにまで知れ渡るとは思いも寄らなかったでしょう。もしかすると、「とんだことを書いてくれたものだ!」と、あの世で嘆いているかもしれません。そんな空想もまた一興。

日付がもうすぐ変わろうとしていますね。
今日という日の別れに乾杯!