学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

ワイルド『ウインダミア卿夫人の扇』

2009-08-31 15:00:22 | 読書感想
大雨降りしきる休日。のんびり読書をして過ごしました。オスカー・ワイルド(1854~1900)の『ウィンダミア卿夫人の扇』です。

ウィンダミア卿と夫人は、結婚して2年になります。夫妻には子どもも生まれ、幸せな家庭を築いていました。ところが、夫人は二十一歳の誕生パーティーの夕方に恐ろしい噂話を聞かされます。夫がアーリンを言う謎の女の元へ入り浸っているというのです。夫への疑問を持ち始めた夫人。そこへ今度はこともあろうに、夫がパーティーにアーリンを招待したいと言い出して…。

これはワイルドを一躍有名にした戯曲だそうです。大変テンポ良く、物語は進んでいきます。夫と夫人の間はどうなるのか、そしてアーリンとは何者なのか?読者は二つの謎を追って、ページをめくっていくことになります。

もし、私が作家だったら、こういう戯曲を書きたいな(笑)いい心持になりたい方にオススメの一冊です。

●『ウインダミア卿夫人の扇』ワイルド作 厨川圭子訳 岩波文庫 1954年


伊藤若冲《雪中錦鶏図》

2009-08-30 07:54:53 | その他
今日は伊藤若冲《雪中錦鶏図》を紹介します。このブログでも以前書いた記憶がありますが、大学時代のゼミで初めてテーマを持って学んだのが、この作品。この絵から、私と美術の関わりが始まったのでした。

粘液のような雪、ドラマチックな枝の流れ、華麗に咲く淡い花々、そして繊細で美しい錦鶏。とても不思議な空間が作られており、言い知れぬ魅力があります。画集を見ていて、ここまで引き寄せられた経験はそうありません。

この絵を長く見ていると、絵自体が生きているような感覚にとらわれます。粘液状の雪がだらりと下に垂れ下がってくるようですし、よく見ると、ところどころに点々と雪を散らしたような表現箇所もあります。そして、やはり枝の流れですね。手前側からドラマチック、あるいはダイナミックといったほうがいいかもしれない。かなり勢いよく描かれています。錦鶏腹部の赤も見事です。全体的に暗い背景ですから、この赤は特に目を惹きますね。これがくすんだ赤でないからこそ、錦鶏に生命力を感じるのかもしれません。

作者の伊藤若冲(1716~1800)は、京都で青物問屋を営む家に生まれましたが、本人は商売に関心がなく、弟にさっさと店を譲って、ひたすら絵を描きました。いわばアマチュアの画家です。彼は自宅に鶏を飼い、飽きるまで眺め、その姿や動きを徹底的に観察したそうです。そのせいか、彼の描く鳥(殊にやはり鶏)は非常に繊細で美しい。なかでも動植綵絵と呼ばれる三十幅のシリーズが圧巻です。《雪中錦鶏図》もその1つ。鶏、鶴、孔雀のほか、昆虫や魚、貝類などがモチーフとして描かれた作品です。

私の夢は《雪中錦鶏図》を一目見ること。実は数年前に京都で公開されていたのですが、機を逸してしまい、見られず…。滅多に公開されないようですが、次の機会は逃さず、自分の目にしっかりと焼き付けて来たいです。

●伊藤若冲《雪中錦鶏図》 1765年頃

日本の美術「帯」

2009-08-29 20:26:39 | その他
『日本の美術 帯』を読みました。日常において、我々が着物姿の女性を見る機会はほとんどありません。でも、たまに見かけたときは、ああ、きれいだなあと思います。視線は着物、そして帯に目が行きますね。あるいは最初に帯に目が行く人もいるかもしれない。帯は着物に付随するものですが、なかなかデザインについて語られたことはありません。しかし、本書を読むと「帯」の奥深さに驚かされます。

私が興味を惹かれたことは、奈良時代の正倉院宝物に「紺玉帯」が所蔵されていること。これはバックル付きのベルトなんですね。すでに奈良時代にあったことに驚かされました。しかも、かの有名な《聖徳太子二王子画像》には、バックル付きのベルト(帯)を締めた聖徳太子がいる…まだまだ観察力が足りないですね、私…。

時代を経るごとに帯は大きくなり、江戸時代の肉筆浮世絵などには幅の広くて、素敵なデザインの帯が次々に登場します。着物と帯は動く絵画、などといいますが、とてもきれいです。明治、大正となると、油絵で南蛮船を描いたもの、アールデコを取り入れた帯なども登場してきたようです。奇抜すぎて、アールデコはちょっと違和感がありますけれども…。

著者の長崎巌氏は、現在「帯はきもの以上に存亡の危機に瀕している」と締めくくっています。日本人は着物や帯を見に付ける機会が本当に少なくなりましたが、時代の流れ、で片付けるのはとても悲しいですね…。

●『日本の美術 第514号 帯』長崎巌著 至文堂 2009年


学校での教育普及活動

2009-08-28 20:11:02 | 仕事
当館では毎年、今ぐらいの時期に市内の小学校へ出かけて教育普及活動を行っています。市内小学校に募集をかけ、希望のあった学校へ講師と学芸員で伺い、子供達に美術を楽しんでもらうという講座です。

今年も募集をかけたところ、募集校を上回る数の学校から要望がありました。全ての学校で開催したいのですが、日程や予算の関係で開催できず、大変申し訳なく数校はお断りさせていただきました。心苦しいです。来年度はもっと枠を拡大して募集するという課題が残りました。

これから小学校と講師、そして私で打合せを行い、具体的なスケジュールについて詰めていきます。子供達に絵を描くことの楽しみを感じて欲しい、と思っています。開催となりましたら、このブログでも活動内容をご紹介していきます!

ゴーゴリ『馬車』

2009-08-27 18:23:13 | 読書感想
『馬車』は、ロシアの作家ゴーゴリ(1809~1852)が27歳のときに書いた小品です。ゴーゴリといえば『鼻』、『外套』が知られていますね。私も以前読んだことがあり、再び読み直そうと本棚に向かったところが、見当たらず。どうも売ってしまったらしい…。

『馬車』は元騎兵連隊勤務のチェルトクーツキイが、連隊のお偉方に立派な馬車を見せること、午餐に招待することを約束します。約束の後、チェルトクーツキイはすぐに帰るつもりでしたが、場の流れでお酒をたらふく飲んでしまいます。酔っ払った彼…翌朝の約束は一体どうするのでしょう?というお話。

とても滑稽な小説です。難しい顔して、額にしわを寄せながら読むこと無しに、ただ純粋に笑いを提供してくれます。これはお酒を飲みすぎて失敗する話(そもそも約束自体が間違っていたのですが)でもありますが、お酒の飲みすぎにはご用心。そう、私(笑)

ちなみに、後に「新しいゴーゴリの誕生」と言われるドストエフスキーはこのとき14歳。ゴーゴリとは13歳の年齢差ですね。文学にしろ、芸術にしろ、皆こうしたつながりを持っているわけで、それを見てゆくことは私にとって楽しいことなのです。

●『肖像画・馬車』(平井肇訳 岩波文庫 1935年)

サックス以後

2009-08-26 19:22:00 | その他
サックスを購入して、早一週間。毎日は練習できませんが、ようやくドレミファソラシドが出るようになりました。それですら、きわめてたどたどしいのですが…(笑)

音が出るようになった代わりに、下唇が痛くなりました。サックスは下の歯に唇を巻いて吹くためですが、普通は痛くならないらしい。そえるだけが理想、のようです。これは経験を積まなければ、治らないのでしょうね。

何はともあれ、早く曲が弾けるように頑張りたいと思います。



ドストエフスキー『他人の妻とベッドの下の夫』

2009-08-24 19:56:28 | 読書感想
ドストエフスキーのユーモアあふれる初期作品です。かなりあやしいタイトルですね(笑)

この小説は、自分の妻が浮気をしていることに感づいた夫が、不倫現場を押さえようとやっきになる話。何かと邪魔が入ったり、感情的になって冷静さを欠いた夫が意味不明な行動や言動をしてしまうところに面白さがあります。

ドストエフスキーといえば、『罪と罰』、『カラマーゾフの兄弟』などの壮大な小説を残しましたが、こうしたユーモアが顕著に出ている小説もあります。

浮気と嫉妬。小説として、第三者的な立場で見るととても面白い。だから、喜劇の要素になる。けれども、現実世界での浮気と嫉妬は…笑えないですね…。計り知れないダメージがある。だからこそ、本小説の主人公が必死になる姿に、我々は滑稽さとともに同情の気持ちを多少なりとも感じるのかもしれない。

浮気と嫉妬、特に浮気は小説の世界だけであって欲しいものです。

●『鰐』ドストエフスキーユーモア小説集(沼野充義編 2007年 講談社文芸文庫)

歌川国芳《近江の国の勇婦お兼》

2009-08-23 21:58:30 | その他
江戸時代末期の浮世絵師に歌川国芳(1797~1861)が居ます。型やぶりな表現方法を得意としていますが、そのなかでも私が好きな《近江の国の勇婦お兼》について、ご紹介しましょう。

画像をご覧の通り、遊女お兼が馬の差縄を足で踏みつけています。馬は後ろ足を高く上げて荒れ狂っていますが、それでも動じないお兼。ピーンと細く張った差縄に緊張感が感じられますね。

さて、この浮世絵を語るときによく言われるのが馬の描き方。西欧の銅板画に影響を受けているとされます。浮世絵に銅板画の影響、と聞くと少し奇妙かもしれません。実はみなさまご存知の通り、江戸時代の日本は鎖国をしていました。ただ鎖国はしていたんですけれども、1720年に蘭学が解禁になるんですね。そこでオランダのものが入ってくる。銅板画もそのときに入ってきたものでしょう。国芳だけでなく、葛飾北斎にも銅板画の影響があると指摘されています。

銅板画の影響を受けた馬。具体的にどこがそうなんでしょう?リアルな馬の陰影、流れるように細い毛並み、躍動感あふれる馬の構図…色まで指摘できるかは難しいのですが、石像のように固そうな馬の地肌ですね。刀も鉄砲も効かないような…。

では比較となりますが、これまでの例えば絵巻や合戦図屏風に出てくる馬と比較すると、むろん筆と版の違いこそあれど、日本の馬は柔らかくて、かわいらしく(埴輪の馬もそうですね)、何より怖さをあまり感じさせないのです。

国芳は従来描かれてきた馬ではなく、こうしたリアルな銅板画の馬を取り入れることで、より主題に適した獰猛な馬を描こうとした。そして、この世のものとは思えない獰猛な馬ですら、足で押さえつけてしまうほどのお兼の勇敢さ、力強さが強調されて見るものに伝わってくる、そんな効果を狙ったのでしょう。

国芳の版画を見ていると、発想の豊かさに驚かされます。今後も、このブログで国芳の魅力を伝えていきたいと思います。

●《近江の国の勇婦お兼》 歌川国芳 1830~1944年頃 錦絵 

サックスデビュー!

2009-08-20 20:56:12 | その他
とうとう、サックスを買ってきてしまいました!飽きっぽい私が途中で断念してもくやしくならない程度のお値段で…(苦笑)

早速組み立てて、さあ音を奏でてみようと思いきや、いくら吹いても音はならない。まずは音がしっかり出せるように、というところから練習しないといけないようです(あたりまえな話です)

アパート暮しなので、なかなか豪快に吹くわけにはいきませんが、休日の日中でも少しずつ練習して曲を奏でられるように頑張りたいと思います。


山積みのメールと書類

2009-08-18 18:48:59 | 仕事
お盆休みが明け、出勤してみますと、予想通りに山積みの書類。まずはそれらの山を1つずつ崩していくところから仕事が開始です。書類がたまっておれば、メールもたまっているわけで、それも迷惑メールがごっそりと。完全にブロックすることができず、500件もたまっていました…。

午後からは次回展示の論文作成です。休日中も論文のキーワードや文章をメモしておいたので、それを元に組み立てる仕事。午後は仕事の能率が落ちるので、あまり論文の類は書かないほうが良いのだそうですが、そうも言っていられないので、集中して書いていきました。そうしてあっという間に、今日も終わりです。

休日明けはなかなか効率良くとは行きませんが、明日から少しずつエンジンをかけて、仕事に取り組んで参ります。