学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

ギャラリーへゆく

2018-11-30 18:44:00 | 展覧会感想
今日もたいへん良い天気。コート、マフラー、手ぶくろと寒さ対策万全で外出しましたが、日中は暖かくて必要ないくらいの陽気でした。

今日は休日を利用して、作家の個展を見にギャラリーへ出かけました。美術館には様々なギャラリーから展覧会の案内が届きます。今回も頂いたうちの1通のギャラリーにお邪魔した次第です。80年代から作家活動を始めた方の個展で、初期から近年の作品にいたるまで、およそ20点程度が展示されていました。限られた点数ではあったものの、作者の作風の変遷がよくわかる内容です。残念ながら、作家さんはいらっしゃいませんでしたが、御家族のお一人から、作品に関する様々なエピソードをお聞かせいただき、充実した時間となりました。

ギャラリーあるいは画廊というと、絵を売るところ、のイメージを持たれる方が多いと思います。実際にそれで生計を立てているわけですが、若手作家を発掘したり、育てたり、あるいは著名な作家の回顧展を開くなど、ギャラリーが果たしている役割は大きいものがあります。私も仕事柄、他の美術館はもちろんですが、こうしたギャラリーの動きにもアンテナをはって、気になったら足を運ぶことを意識しています。ときには作家さんとお会いすることができて、勉強させていただくことも多々あり、人と人との交流にもつながるのです。

今日も良い1日を過ごすことができました。また明日から仕事を頑張ります!

貝原益軒『養生訓』をよむ

2018-11-29 21:31:38 | 読書感想
昨日の曇天模様は持ち直し、今日はみごとに晴れました。空が明るいと、気持ちまで明るくなりますね。

背景に高齢社会があるせいなのかはわからないけれど、昨今、テレビ、新聞、雑誌、書籍などのいたるメディアで「健康」志向の情報を取り上げたものをよく見かけます。それだけ「健康」の言葉が紙面・誌面に踊るということは、健康でありたいと願っている人がたくさんいるということなのでしょう。かくいう私も、ストレスで自律神経を害したことから、こうしたメディアにはとてもお世話になりました。

さて、時代はさかのぼり、江戸時代の健康に関する本といえば、貝原益軒の『養生訓』が有名です。こないだ書店でぱらぱらとめくってみたら、面白そうだったので、買って読んでみました。まず、貝原益軒は福岡藩の藩医であり、同書が出版されたのが84歳のときというから、当時の医術の専門家であり、実際に長寿だった人が書いた本なのだから、内容は信じるに足るでしょう。益軒は養生するために何が必要なのか、例を挙げながら示し、さらに人間が不健康になるのは気が滞るからだと述べます。気が滞る、というのは、やはり東洋医学の発想ですよね。

彼の記したもののなかには、今でも十分に私たちの生活に活かせるものが散見します。


・運動して健康を増進しておくこと。
・怠らず労働をするのが養生の途(怠けた生活を送るなということ)
・道を楽しむものは命流し
・ゆるやかに呼吸せよ(深呼吸)
・飲食とも控えめにせよ


などなど。現在の健康情報と同じようなことを江戸時代に書いていたわけです。時代は変われど、人間は変わらない、のかもしれません。物事を悲観的に考えやすい人へのアドバイスもあります。過ちをおかしたら、一度は反省しても、あとはクヨクヨしないほうがいい、とも。心と身体のバランスをうまく取ることが健康を保つ秘訣であることを益軒はわかっていたのですね。

今でも生きている『養生訓』。手軽に読める本なので、興味のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。



館長による講座

2018-11-28 21:58:32 | 読書感想
今日は久しぶりに朝から曇天で、しばらくしてぽつりぽつりと雨。霧も一向に晴れなくて、街全体が白っぽくなっていました。

仕事の帰りがけに書店へ立ち寄ったら、気になる本を見かけました。草薙奈津子さんが書かれた『日本画の歴史』近代篇と現代篇(両方とも中公新書)です。ぱらぱらとめくったときに、カラー版の豊富な図版が入っていたのと、内容のポイントがわかりやすかったこと、です・ます調でやわらかい文章だったので、近代篇を買いました。日本近代美術は、絵師や作家が色々な流派に分かれたり、絵に対する考え方が多種多様で、なかなか体系的につかみづらいところがありましたので、知識の確認のために購入した次第です。

著者の草薙さんは平塚市美術館の館長で、私はお会いしたことはありませんが、お名前は様々なところで拝見します。今回の著作は、草薙さんが同館の館長講座でお話しされた内容を元にして執筆されたそう。

館長が美術館の表舞台に出てくることは少ない、というのは一昔前のはなしで、現在は館長講座やミュージアム・トークなどで、積極的に館長がお客様の前に出る時代になりました。ここ10年くらいで、館長の役割がずいぶん変わってきたのではないか、というのが私の実感です。かくいう私の勤務する美術館も、同じようなイベントを開催し、中には講座をきっかけに館長のファンになられた方もいらっしゃって、毎回好評をいただいています。館長によっては、要望があれば美術館を飛び出して、日本国中を渡り歩き、自身が勤務する美術館に関する講演会や講座をされる方とお会いしたこともありました。エネルギッシュですよね。

草薙さんのこの著書のような、美術研究の第一人者による館長講座シリーズのようなものが新書で継続して出版されると嬉しいです。淡い期待を抱いて、今夜は眠ることにしましょう。それでは、おやすみなさい。

作品を調査にいく

2018-11-27 20:57:19 | 仕事
今日も昨日に続いて晴天、気持ちの良い青空が続いています。

今日は展覧会の関係で、他の美術館へ作品の調査に伺わせていただきました。学芸員はちゃんとモノを見たうえで文書を書け、と新人のときに館長から教わった言葉が忘れられません。言わずもがな、実際に作品を見ないとわからないことがたくさんあります。例えば、作品のインパクト、色の感覚、細かな技法…など。これらは写真図版では絶対にわかりません。しっかり観察することは、その作品のことに詳しくなれるだけでなく、忘れがたい自分の知識にもなります。学芸員はそれを繰り返すことで、能力が研鑽されていくのかもしれません。忙しいなか、作品を調査させて下さった美術館の方に感謝です。

今夜も夜が更けました。また明日も元気に頑張りましょう!

今日は休日にて

2018-11-26 21:55:10 | その他
今日もいい日和。11月の割には日差しが強くて、とても暖かい1日でした。

仕事がおやすみの今日は、朝からゴミ出し、部屋に掃除機をかけたあとは、トイレの掃除をして、その後は庭の草むしり、と家の掃除をメインに動きました。各部屋がすっきりしましたし、戸外の天気も良かったので、なおさら心持ちが明るくなりました。私は休日をゴロゴロ過ごすのが苦手で、何かしら体を動かしていないとダメな性分。ですから、休みの日も仕事へ向かういつも通りの時間にきちんと起きて動き出します。

午後からは読書。実は最近、江戸時代後期の人物である二宮金次郎に興味を持っていて、彼に関する本を読んでいます。金次郎、いわゆる尊徳といえば、薪を背負いながら勉強する石像が有名ですよね。勤勉の象徴として、全国各地の小学校に設置されたようです。ただ、私が興味を持つ部分は、彼の勤勉さもさることながら、傾いた武家の家計を立て直したり、荒れ果てた農村を復興させるという彼のコンサルタントとしての実績です。現在の企業再生をテーマにした小説でも読むような感覚で楽しむことができるのです。

ただ、尊徳に関するちょっと変わった本を見つけました。それが歴史学者の奈良本辰也さんが書いた『二宮尊徳』(岩波新書)。大抵、尊徳に関する本は、彼の実績を褒め称えるものがほとんどですが、これはちょっと違う。二宮尊徳はそんなに大した奴じゃないんだ、というのが文章の節々からにじみ出ていて、実際「あとがき」には、私は尊徳をそんなに好きじゃない、というニュアンスのことが書いてある。著者はずいぶん正直な人なんだなあと。でも、決して文章の手を抜いているわけではなくて、きちんと数多くの参考文献を巻末に記して、文章中の根拠を明記しています。

前述した二宮尊徳自身の実績のほかにも、彼の意思を継いだ後継者たちの活躍(特に相馬中村藩)も調べてみるとなかなか面白いものです。


午前は掃除、午後は読書と、リフレッシュのできた1日でした。さて、明日からまた頑張りましょう!

アイディアを出し合って

2018-11-25 20:41:00 | 仕事
今日も素晴らしく良い天気、これで3連休はずっと快晴でした。私の勤務する美術館は、閉館間際の午後4時になってもお客様の入りが止まず、3連休はとてもたくさんのお客様に展覧会をお楽しみいただくことができました。ありがたいことです。

今年はうれしいことに、昨年度に比べて入館者数が多く、美術館がいつもお客様でにぎわっています。どうしたら、より多くのお客様にご来館いただくことができるか。実は今年から館長、学芸員、事務員さんの全員で、アイディアを出し合って、さまざまな試みをやってきました。失敗しても、また別な方法を試せばいい、と、いわばトライ&エラーの考えで進めています。その結果、実はちょっとしたことで入館者数が上がることがわかりました。たとえば、美術館の野外の庭に季節の花を植える、それだけで美術館の雰囲気が親しみやすいものになるようで、近くを散歩する方々が立ち寄られたり、花壇をスマホで撮影される方が入館されたりしてます。また、展覧会の解説パネルの文章を短文にして、かつ数を増加させる。お客様の満足度を上げようという試みです。

学芸員は博物館の機能、すなわち作品の調査・研究、収集、展示、保存・保管のために日常の業務がなされるべきですが、設置主体である市町村の財政事情として、それだけを頑なにするわけにはいかない時勢があり、学芸員もどれだけ入館者数を上げられるかを常に意識をしていかないといけない時代になりました。いわば民間企業のビジネスマンのような役割も担うわけです。こうした現状は、学芸員になるための勉強をしていた学生時代にはわからないことでした。これからの学芸員は、知識はもちろんのこと、どんどんアイディアを出して、それを実行できる人材が求められるのかもしれません。

明日はひさしぶりの休みです。来週の仕事に向けて、しっかりリフレッシュする予定です!

人と人とのつながり

2018-11-24 22:43:02 | 仕事
今日もたいへん気持ちの良い天気で、昨日に引き続き、たくさんのお客様にご来館いただくことができました。うれしいことが続きます。

今日は以前の職場でお世話になったお寺の方が展覧会を見に来てくださいました。当時、私はそのお寺が所蔵する鎌倉時代の像を修復する事務手続きを担当していました。管理上、一般公開されることがほとんどない文化財で、修復の搬出・搬入時に現場で立ち会ったのですが、その造形や装飾のあまりの素晴らしさに思わず手を合わせていました。私は彫刻に関して素人ですが、鎌倉時代の、いわゆるリアリズムの要素を含んだ像の迫力は未だに忘れられません。とてもよい勉強をさせていただきました。

ご来館して下さったお寺の方は、長年にわたり地域の歴史を調査し、古文書などの散逸を防ぐ活動をしていらっしゃいます。私が居た以前の職場では、専門の美術に関わる仕事の割合はそれほど多くはなかったのですが、その代わりにこうした地域で文化に関わる方々に数多く出会うことができました。人と人とのつながりをたくさん持つことができたことの喜びを改めて感じた次第です。久しぶりにお話ができ、とても楽しい一時を過ごすことができました。

明日も晴れてくれることを願って、今夜はそろそろ寝床につくことにします。それでは、おやすみなさい。

年譜づくり

2018-11-23 21:18:42 | 仕事
今日は快晴、3連休の初日は天気に恵まれました。おかげさまで、美術館はいつも以上のお客様でにぎわいました。ありがたいことです。

現在、私は来年度の展覧会に向けた仕事をしています。具体的には、ある作家の年譜づくり。作家の日記や書簡類を読み込んで、いつどこでなにをしていたのか、を年譜にして作り上げていくというもの。年譜は作家の足跡をたどることを目的に作るものですが、もうひとつ、社会や美術の歴史のなかで作家の存在や作品がどう位置づけられるかを考えるためにも用いられます。ここが重要なところで、ある作家をただ切り取って調べるのではなく、その時代も含めて調べてみるということが大切です。すると、これまで見えてこなかったことが案外見えてきたりするものなのです。

私が調べた例では、ある作家が一時期「かかし」に関する文章をやたらと書いていて、どうしてここまで「かかし」にこだわっていたのか、さっぱりわからなかったのですが、どうもその背景には民俗学の普及があったようで、実際に彼が「かかし」に興味を持ちだすのは、全国的に民俗学の体系的な研究が進み始めた時期と一致していたのでした。これまで見過ごされてきたものが新たに研究の対象となってくる、そこに興味を持った彼は身近な「かかし」で自分なりに調査を始めたのではないか、と。これは仮説ですが、周辺を調べていくと、こんなこともわかってきたりします。

ですから、皆さんも、博物館や美術館に行って年譜がありましたら、作家の生涯を知るためだけでなく、その作家が生きた社会の動きにも注目すると、きっともっと展覧会が楽しくなると思います。(年譜の一番下には大抵「社会や美術の動き」の欄が設けられていますから)

年譜づくりは、経験上、だんだんとかたちが見えてくると、ジグソーパズルをしているかのようにわくわくしてきます。わくわく仕事ができるなんて、とても幸せです。年譜づくりの完成を目指し、明日も頑張ります!

お客様との距離

2018-11-22 21:08:22 | 仕事
今日は朝から灰色の空模様で、日もほとんど照らずに寒い1日でした。

そんな日和であるにも関わらず、美術館に来てくださるお客様には本当に感謝です。特に事前の予定はなかったのですが、ご来館に感謝の気持ちで、作品をご覧になっている数人のお客様にお声をかけさせていただき、作品の解説をさせていただきました。お客様にはとても喜んでいただけて、私自身もうれしい気持ちでいっぱいになりました。

私はなるべくお客様との距離が近い学芸員でありたいと思っています。展覧会をご覧になったお客様の反応はいつも気になっていて、作品解説はもちろんですが、ときどき受付にも立って、お客様とのコミュニケーションを大切にしています。お客様が展覧会をご覧になって感じたことを直にうかがい、その改善点を次回の展覧会に活かすようにしています。ですから、私はお客様に育てられているといってもいいのかもしれません。展覧会は、学芸員の自己表現の場ではなく、調査・研究の成果をお客様にお楽しみいただくためのもの。この部分は常に肝に銘じて仕事をしています。

明日から暦のうえでは3連休ですね。どうか、たくさんのお客様が美術館に足を運んで下さいますように。

茨城県陶芸美術館「欲しいがみつかるうつわ」展

2018-11-21 22:32:24 | 展覧会感想
今日も気持ちの良い晴天でした。往来を車で通りがかったとき、銀杏の並木が見事な黄に染まり、秋空に映えて、とても素敵でした。

秋といえば、芸術の秋ですね。このあいだ、茨城県笠間市にある茨城県陶芸美術館で「欲しいがみつかるうつわ」展を観て来ました。陶芸のまち笠間と、おとなり栃木県益子町の若手作家55名を紹介する展覧会です。趣旨に「作家自身が思い描いたことが産地の伝統的なスタイルや材料などにとらわれることなくストレートに表現されており、多くのものが高いデザイン性を備えています」とある通り、いずれも前衛的で、陶芸の新たな可能性を追求した作品が一堂に展示されています。とはいえ、まったく奇をてらった作品が並んでいるわけではなく、「用の美」ともいえる実用性の部分へのバランスも保ち得ているのです。

展示会場は、なんと写真撮影が認められていて、私も気になる作家さんの名前や、その作品をいくつか写真に取らせていただきました。ちなみに、私が好きなった作品の作家さんは久保田健司さん、えきのり子さん、本橋里美さんです。ずっと眺めていて、とても良い心持ちにさせていただきました。

また、以前のブログにも書きましたが、茨城県陶芸美術館ではミュージアムショップで作家さんの作品をリーズナブルなお値段で販売しています。今回の展覧会でも55人全員ではないようでしたが、一部の作家さんの作品を購入して応援することができます。すごくいい試みをしているなあと感じ、とても勉強になります。

この展覧会は12月9日まで開催しています。笠間周辺にいらっしゃることがあれば、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう!