学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『まほろ駅前番外地』を読む

2016-02-25 21:05:40 | 読書感想
人の集合によって街は生まれる。ゆえに街の歴史は人の歴史であるともいえるだろう。

三浦しをんさんの『まほろ駅前番外地』は、街を1冊の本にしたような小説である。「まほろ市」という架空の街が舞台。多田便利屋を営む多田とパートナーの行天(ぎょうてん)を中心に物語が進み、全7章で構成されている。

この小説の面白いところは、彼ら2人が中心ではあるものの、主人公というほど主体的な存在感がないところである。むしろ、主体的であるのは各章のゲストであって、多田と行天はゲストの人生をうまく回すための潤滑油のような役割を担っている。ゲストたちは、みな「まほろ市」に住み、それぞれの人生を歩んでいる。例えば、大人びた小学生や嫉妬にかられた若い女性、危ない橋を渡る若い男性、夫婦倦怠期を迎えた中年の女性などがいて、街というものが、こうした人々の構成によって成り立っていることを気づかせてくれる。しかし、彼らは多かれ少なかれ悩み(というほどの深刻なものでもないが)を抱えていて、ギアの動きが悪くなり始めた時に、多田と行天の存在が潤滑油となってくれるわけである。では、肝心の主人公は一体誰なのか。私はこうした人間模様を織り成す「まほろ市」という街が主人公であるような気がしてならない。

どこかの小説家が、登場人物の性格を魅力的に書けている小説ほど面白いのだ、と言っていた。だとすれば、『まほろ駅前番外地』がまさにそうした小説ではないかと私は思う。そうして、街というものが人の集合によって生まれたものであることを教えてくれる小説でもある。

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展示作業はおてのもの

2016-02-23 21:00:42 | 仕事
今日は久し振りに展示作業をしました。展示といっても現物ではなく、動植物の写真パネルの展示です。美術館での数々の経験から、こうした展示はおてのもの。

まず壁面に糸を張って、写真パネルの高さを決める。次に写真パネルを床に仮置きして、パネル間の寸法を調整し、壁面に展示した時に綺麗に見えるようにパネル同士のバランスを取ります。あとは配置を決めたとおりに、両面テープや釘で壁面へパネルを貼り付けて完成です。

上記の方法で、今日の仕事はさくさくと効率よく進み、想定よりも早い時間で終わらせることができました。美術館に勤めていたときはこういう展示が随分あったのですが、今の職場にはそうした機会があまりなくて、久し振りの展示作業に楽しみながら仕事ができました。また近いうちに展示作業がないかな…と期待している私なのでした。
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言葉の強さ

2016-02-21 20:40:42 | 読書感想
古本で『現代詩手帖』2011年5月号を手に入れました。特集は「東日本大震災と向き合うために」。発行日は5月1日とありますから、震災が起こってから約2ヶ月後に発行されたことになります。

2011年5月、私は故郷が被災したショックと、自分のいる場所が何事もなく進んでいく日常のギャップに頭を抱えていた覚えがあります。当然、私は本を読む余裕などなく、モヤモヤした気持ちを抱えながら生活をしていました。

詩人たちが、あの震災とどう向き合ったのか。1ページ、1ページと読んでいくうちに、あのときの記憶が蘇ってくるとともに、言葉の持つ力が伝わってきます。特に和合亮一さんの「詩の磔 2011.3.16-4.9」は、井戸から水があふれるように、言葉があふれて止まらない感じでした。それらは、これまでに見たどんな映像よりも、心に訴えてくるものがあり、改めて言葉の力の強さを思いました。
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もう花粉症??

2016-02-18 21:38:24 | 仕事
今日は一日中、式典の手伝いのために駐車場係を担当していました。寒いなかではありましたが、幸い、天気には恵まれて春の陽気を感じながらの仕事となりました。近頃、外を歩いていると梅が花を咲かせているのをよく見かけます。昨年、茨城県の水戸市にある偕楽園で梅を楽しんできたのを思い出しました。ついこの間のような気がしましたが、もう1年経つとは驚きです。

仕事が終わり、晩のおかずを買い物していた時に、くしゃみが2回。そういえば、花粉症の季節が近づいていますね。まさかもう花粉症にかかってしまったのかな…と不安になりました。不思議な事に、私はアロエヨーグルトを食べると、まったく花粉症の症状が出なくなります。これはいい食材を見つけたと思って、職場のみんなにアロエヨーグルトの効用を説いてまわったのですが、効いたのはなぜか私だけだったようで、あとでみんなから全く効かなかったと言われたのは…いい思い出です(笑)

花粉症になるとお酒が飲めなくなるのがちょっとつらいのですが、早く暖かい日が来て欲しいものです。
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装丁の仕事

2016-02-17 20:24:25 | その他
久しぶりに始めた読書の書名は、夏目漱石の『吾輩は猫である』です。なんとなく、読んだことのある小説が良いかなと(笑)長い長い小説ではありますが、踊るようなホップ感のあるストーリー展開を楽しんでいます。

このブログで書いたことがあったと思いますが、私はイラストレーターのわたせせいぞうさんが好きです。一時期、角川文庫から出版されている夏目漱石の装丁を、わたせせいぞうさんが手がけたことがあって、それが私のお気に入り。わたせさんの装丁が終わったあとも、古本屋を歩きまわって全て揃えました(笑)

さて、私に限らず装丁の素晴らしさに本を手に取る方はきっと多いことでしょう。今、千代田区立日比谷図書文化館で特別展「祖父江慎+コズフィッシュ展」が開催されています。祖父江慎さんといえば、日本を代表するデザイナーのひとりで、これまで数々のブックデザインを手がけていらっしゃいます。装丁の仕事は、本に魔法をかけるような仕事ですよね。私がいま、ぜひ見てみたい展覧会です。3月23日まで開催とのことなので、ぜひ行ってみたいですね。
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黒田清輝の《昼寝》

2016-02-16 19:16:15 | その他
昨夜、どうも眠れなかったので、本棚に向かって闇雲に本を掴んだら、それは黒田清輝の画集でした。そういえば、今年は黒田清輝の生誕150周年。3月から東京国立博物館で特別展が開催される予定ですね。

私が手にとった例の画集は、2001年に宮城県美術館で開催された「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展のカタログでした。実際に見に行った展覧会だったので、当時の思い出が蘇ってきます。どの作品が印象に残ったのか、と言われれば、代表作として紹介される《湖畔》。優しくてさわやかな風が吹き抜けていくような作品でした。そして《智・感・情》の圧倒的な迫力に驚き…。そういえば…その感動を帰宅してから両親に話をしたものの、その感動がまったく伝わっていなかった記憶もついでに蘇りました(笑)

さて、久しぶりに画集を眺めていて気になった作品がありました。それが《昼寝》です。一人の女性が横になって昼寝をしていて、彼女の体を太陽の光が全身を包んでいるというもの。その光の表現が後期印象派を彷彿とさせるものでなかなか興味深い。(どうも萬鉄五郎が頭に浮かぶ…)この絵が生まれてきた背景まではわからないのですが、その画集をめくる限り、こうした表現の作品を黒田が試みたものは見つかりませんでした。どうも気になります。(ちなみに《昼寝》は《湖畔》の3年前に制作されています)

3月から開催される特別展に展示されるかはわかりませんが、そんなことから、まとまった点数で黒田の作品を見てみたいと持っています。ちなみに、同展覧会のホームページを開いたところ、「黒田清輝」が展覧会情報をツイートしていました。面白い試みですね(笑)


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文章がどうも書けない

2016-02-15 19:33:55 | その他
最近、気になっていること。それは、なにか文章を書こうとすると、頭のなかに言葉が浮かんでこないことです。ブログを書くときはもちろん、仕事上の原稿を書くときでもどうも調子が悪い。

どうしてなんだろうか、と考えた時に思いあたることが…。

それは、最近小説を全く読まなくなったこと。思い返してみると、以前は帰宅したら夜ご飯を食べながらでも夢中になって読んでいたものですが、ここのところは休日でも本を読むことがなくなりました。生活環境が変わったせいでもあるでしょうが、どうも机で本を読むということに集中ができない。なぜ集中できないか。それは小説を読まなくなったことに比例して、SNSで情報を得るようになったこと。SNSでの極端な短文を、書いたり、読むことに慣れすぎてしまったせいで、長い文章と対峙するときにまどろこしくてイライラしてしまうようになったようで…。

何のために小説を読むのか、といえば、私はただ単に自分の知らない世界を知ることが本の楽しみだったわけですが、気づかないうちに言葉でモノを考えて、文章が構成される仕組みを小説から得ていたのかもしれません。

と、ここまで書いてきて、まるでSNSが悪者のようですが利便性は魅力的ですし、要するにこれはバランスの問題だと思うので、少しずつ小説を再読し始めて、言葉を鍛えるしかないかな…と考えています。不純な動機ではありますが…。

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展覧会の情報を得る

2016-02-14 21:21:10 | その他
今日は展覧会情報の入手方法について。

私の場合、美術館の展覧会に関する情報は、ほとんどウェブ上で仕入れています。特に利用しているのが、「インターネットミュージアム」と「アートスケープ」。両サイトとも、全国の展覧会情報を掲載しており、イチオシの展覧会には評論家や学芸員による論評をつけて紹介しています。それらを読めば展覧会に行く前の予習ができるし、スケジュールが合わなかったり、遠方で行くことができなかったりする展覧会でもおおよその内容をつかむことができるので助かります。

一方、その年のトレンドを掴みたいときはテレビ番組や美術雑誌。一つのテーマについて突っ込んだ紹介をしてくれるので、作品を解釈するときの参考になったり、トレンドを掴むときのヒントを得させてもらっています。ちなみに…自分の勤務する美術館がテレビ番組や美術雑誌に特集されたときの集客力はものすごく、改めてメディアの広報力はすごいことを実感した覚えがあります。

また、最近では全国の展覧会情報のチラシを集めたアプリも開発されて公開されています。どんどん便利な世の中になっていきますね。

今日は展覧会情報の入手方法についてご紹介しました。ご参考いただければ幸いです。
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風邪でダウンする

2016-02-12 19:57:50 | その他
このあいだの古墳周りをしていたときに、如月の風に当たり過ぎたせいか、久しぶりに風邪でダウンしてしまいました。

風邪でダウンするのは2年ぶりくらい。喉が痛くて、熱でふらふらする。インフルエンザではないのが幸い。食欲はあったので、寝こむ前にご飯をしっかり食べて、ビタミンCを十分に補給したら、1日2日でだいぶ良くなりました。風邪を引くたびに思うのは、健康であることは、いかに素晴らしいことであるかということ。日々、健康であることに感謝しなくてはいけませんね。

明日からの土日、暖かくなるようなので、ゆっくり過ごしたいと思います。
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田んぼの中の古墳

2016-02-08 22:35:55 | その他
今日、家々の庭先に植えられた梅が、小さく咲いているのに気が付きました。2月も初旬になって、少しずつ暖かくなってきたようです。昨年、水戸の偕楽園に行って、色とりどりの梅を見て楽しんだことを思い出しました。

さて、仕事で前方後円墳の調査に出かけました。それは田んぼの真ん中にあって、形はたいぶ崩れつつあるものの、堂々としたものです。考古学を専門とする先輩の話では、おそらくこの周りの水田の開発に携わった有力者であろうとのこと。かつては、この地域にもっとたくさんの円墳があったようですが、開発によって、今残るのはこの前方後円墳だけとなりました。そういう経緯を知っているせいか、なんだかこの古墳は悲しそうな気がしました。

古墳の周りを歩いている時に、同僚が古墳の怖い話をしてくれて、それは江戸時代のこと。私の住んでいる街の、とある古墳を農民が新田開発のために崩そうとしたところ、その古墳の主に祟られて、夜中になると唸りだすようになったとの言い伝えが残っているとの話。それ以来、そこは「うなり塚」と呼ばれるようになったのだとか。怖いですね…。

如月の梅の香りに包まれながら、古墳のそばで春を感じた1日でした。
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