学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

須田努『幕末社会』を読む

2022-01-31 20:34:00 | 読書感想
私が小学6年生のときの修学旅行は会津方面でした。野口英世記念館を見学したり、五色沼をハイキングしたり、陶器に絵付けをしたりと色々な経験をしましたが、なかでも忘られないのが飯盛山で見た白虎隊の悲劇を表現した剣舞。当時の自分とあまり年の変わらない少年たちが戊辰戦争で亡くなったことに心が痛みました。

先日、須田努さんの『幕末社会』(岩波書店、2022年)を読みました。政治史を追いつつ、そのときどきの民衆の動きを取り上げ、当時の社会がいかなるものであったか、そしてどう変わっていったのかを辿っており、幕府崩壊への道のりがリアルに迫ってきます。特に井伊直弼による安政の大獄が、暴力による問題解決のトリガーになったという話はぞっとしました。それが白虎隊の悲劇にまでつながっていくのだとしたら?

本書は幕末社会という混沌とした時代を書きながら、読者を迷わせず、明快に進んでいく内容です。著者の先行研究への敬意は要所に見受けられますし、丹念なフィールドワークの成果が随所に見られる好著です。いつまでも手元に置いておきたい一冊となりました。

蝋梅を見に

2022-01-30 09:25:00 | その他
先日ブログで書いた3つの愉楽のうち、散歩を実践していたら、蝋梅が花を咲かせているを見かけました。

蝋梅は、名前の通り、蝋細工のような黄色の小さい花です。それが可愛らしいですし、近くに寄ると、微かに甘い香りもして、心地が良くなります。寒い時期、まだ周りの花も眠っている中で、この蝋梅を見ると、これからの暖かい季節の到来が待ち遠しくなります。

今日はこれから論文を書いたり、読書をする予定です。いま、読書は今月に岩波新書から出版された須田努さんの『幕末社会』を読んでいますが、面白くてたまらない。今後、この本の感想もご紹介できたら、と考えています。




3つの愉楽

2022-01-27 08:45:00 | その他
休日の今日、たまっていた新聞を読んでいると、よい記事を見つけました。

日経新聞1月23日の文化欄。歴史学者の樺山紘一さんが、3つの愉楽について書いています。コロナ禍で巣ごもり生活が続くけれど、しかし…で始まり、散歩と遊学、酔夢の楽しさについて、それぞれジャン•ジャック•ルソー、ゲーテ、頼山陽のエピソードからひいて論じています。例えば、散歩は気分次第で長引いたり、短くなったりするもの、鬱々とした気分も吹き飛び、血流が改善して空腹や喉の渇きも覚える、そういえばルソーは…と続くのです。

文章のいたるところに、人生は楽しいものだ、という著者の考えがちらほらと見え、読んだ後の心地よい感じがたまりません。私もブログを書いている身として、こういう文章を書いてみたい。そんなよい記事に出会うことができて、朝から嬉しくなって、さっそくブログを書いてみた次第です(笑)

出口保夫『英国生活誌Ⅱ』を読む

2022-01-26 19:47:45 | 読書感想
先日、古本屋へ行ったら、出口保夫さんの著書『英国生活誌Ⅱ』(中央公論社、1994年)がありましたので買い求めました。『英国生活誌Ⅰ』はすでに購入済。2冊とも、著者がロンドンの生活を通して、当時のイギリスの社会について書いたエッセイです。

そのなかに「楽しさを優先する社会」という項目があり、要約すると、イギリス人が生活感情のなかで、最も大切にしているのが「enjoyment」、つまり生活を楽しむということ。人生において、つらいことがあったとしても、持ち前のユーモアで乗り切ってしまう。そして、そういうことに対して寛容な社会があるのだ、といいます。

そこで私はふと考えてしまうのです。昨今、日本のメディアにおいて、北欧のスローライフやこのイギリスのように人生を楽しむ、ということが盛んに取り上げられ、私もそういう生活スタイルにあこがれています。ところが、個人でそれを実現しようとしても、今の日本はそういったことを支えられる社会ではないため、多くの人がうわすべりしてしまうのではないかと。日常がとかく忙しすぎる。自分だけスローライフを楽しもうとすると、必ず周りと軋轢を生じてしまう。そのあたりの微妙なバランスをどのようにとったらいいものでしょう。悩ましいところです。

この本はいまから30年前の本ですから、今のイギリス社会とはだいぶ違うところもあるかもしませんが、何にせよ、他の国の文化を知るということは楽しいことです。それこそ、いずれイギリスはロンドンにものんびりと旅行に行って見たいものですね。

年譜をつくる

2022-01-23 21:04:54 | 仕事
このごろ寒い日が続きます。私が住むところは、あまり雪の降らない地域ですが、それでもときどき風花が舞い、ただでさえ寒いのにますます寒くなるような気がします。

休日の今日は寒さ厳しいこともあり、そして新型コロナウイルスの感染が再び拡大してきたこともあり、家で美術の論文を書いていました。私の場合、書きものは家で集中してやるのが一番良し。仕事中はどうしてもバタバタしてしまいますから。

私は調査した資料がある程度まとまってきたら、テーマに応じて簡単な年譜を作ります。その年譜に美術史や歴史(地方史)、社会の主要な出来事を埋め込んでいく。そうすることで、項目が時系列でわかるし、どんな社会のなかで作家たちが活動してきたのかが立体的にわかるようになります(自分流の年譜を作るのがポイントで、人が作った年譜ではなかなか頭に入らない)。それから文章を書き始めるのですが、筆が進まなくなったら、その年譜に立ち返る。すると、これまで気が付かなかったことが頭に浮かんだりする。それで論文を前進させてゆく感じです。

今年は論文を2本抱えていて、なかなかのハードなスケジュールですが、こういうことが好きで学芸員になったわけですから、楽しみながら論文を書いていきたいと思っています。

デジタルについていけない

2022-01-22 20:46:52 | 仕事
新型コロナウイルスのおかげで、リモートによる会議や研修が多くなってきました。ネット環境さえあれば、どこに居ても参加することができるのですから、ずいぶん便利な世の中になったものです。ところが、私はこのごろデジタルの進展についていけなくなってきた(笑)

例えばZoom。そもそもIDとパスコードを入れることがわからず、しかもカメラと集音マイクが必要なこともわからない、それに研修の参加側は音のミュートを切っておくというマナーも理解するのに時間がかかりました。そして、インスタグラム。そもそもこれがどんなアプリなのかわからない。みんなでそこへ画像を収めていくという課題もちんぷんかんぷん。もう情けないくらいデジタルについていけない…!(私は目が弱いので、オンラインの会議になると眼精疲労がはなはだしく、片頭痛が誘発されるのもつらい!)

私自身、デジタルにはまったく興味がないのですが、しかし、世の中の動きとして最低限のことは知っていなければならない現状がある。しぶしぶ、あああ、とため息をつきながら、今日もZoomやインスタグラムを適当にいじってみる。社会人というのはつらいものですねえ(笑)



私と民藝

2022-01-16 10:12:12 | その他
先日、新聞の訃報欄で、美術史家の水尾比呂志さんが91歳で亡くなられたことを知りました。私は水尾さんと直接の面識はありませんが、水尾さんが編者として担当された岩波文庫の『美の法門』、『柳宗悦民藝紀行』などはよく読みましたし、そのなかの優しく、わかりやすい言葉による解説はとても勉強になりました。心からお悔やみ申し上げます。

若い時分、民藝のある暮らし、というライフスタイルにとても憧れました。柳宗悦の『手仕事の日本』を片手に、ずいぶん色々なところへ出かけたものです。道具は実際に使ってこそ意味がある、と思い、焼物なら、今でも私の茶碗は益子焼、急須は笠間焼、湯呑は備前焼、酒徳利(このごろ酒を飲まないので出番は限られますが)は平清水焼を大事に使っています。また、実際の着物は買えないので、小千谷縮のブックカバーなども買い求めました。私のあこがれは、今から10年ほど前に東京都美術館で見た「アーツ&クラフツ展」で再現されていた三國荘みたいな家。ああいう感じの家が欲しいなあ、と思いましたが、現実的な問題でそうそうに諦めました(笑)

現在、「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展を東京国立近代美術館で開催しています。そのこともあってか、昨年は新日曜美術館で民藝特集、別冊太陽や芸術新潮でも民藝が取り上げられていましたね。100年前の美術の動きが、未だに息をしている。民藝の影響力を改めて強く感じました。コロナが落ち着いたら、また色々なところへ出かけてみたいものです。

投資家は現代アートがお好き?

2022-01-12 20:56:12 | その他
今年の1月3日だったでしょうか。日経新聞の記事に、今の若い投資家は現代アートに関心が高い云々の記事が載っていました。

私の周りには「若い投資家」がいないので、どの程度のものかは実感として感じられないのですが、少なくとも日本各地で開催されている芸術祭においては、若い世代の姿を見かけることが多く、それを考えると、さもありなんという気がしています。「若い投資家」はどういう理由があって、現代アートに関心を寄せているのかはわかりませんが、作品そのものに惹かれるため、心が癒されるため、インスピレーションを受けるため、自室やオフィスを飾るため、あるいは投機のためなど、いろいろな目的があるのでしょう。いずれにしろ、美術に関わる仕事をしている私にとって、美術に関心を持つ方が増えてきたことは嬉しい限りです。

思い起こせば、私が学生のころ、現代アートといえば一部の人が好きなだけで、大方は関心のない人が多かった覚えがあります。実際、私が学芸員になったばかりの頃も、現代アートはわけがわからなくて嫌いだ、とおっしゃるお客様もいました。それを思えば、ずいぶん時代は変わったものです。やはり各地の美術館の活動はもちろん、芸術祭の広まりといった社会的な背景が大きいのかもしれませんね。次の段階として、「若い投資家」だけでなく、一般の方々も現代アートを家やオフィスのなかで身近に楽しめる時代が来ることを願っています。

勝山城跡を見る

2022-01-09 21:09:22 | その他
年初、気持ちをリフレッシュさせたくて、栃木県はさくら市の勝山城跡に行ってきました。過去に何度か来たことのある城跡ですが、何度来てもいいところです。家族には理解されないけれど(笑)

勝山城跡は、戦国時代に宇都宮氏の家臣芳賀氏が治めていたところ。鬼怒川の東に位置していて、現在は公園としてきれいに整備されています。この城跡が好きな理由は、空堀の形が良くわかること。復元された堀とはいえ、当時の雰囲気をよく伝えるもので、とてもよし。また、この公園にはさまざまな野鳥が集まるようで、以前はキツツキもみかけたことがありました。鳥のさえずりを聞きながら、公園を散歩できるなんて、とても贅沢ですよね。さらに、城から北西を見れば、鬼怒川からはるか日光連山も見えます。こんな要素がありますから、きっと城好きでなくとも、気持ちがリフレッシュできるはず!…と確信しています(笑)

1月の澄んだ空気を体のなかに入れ、心身ともにリフレッシュできました!











岡本綺堂『半七捕物帳』を読む

2022-01-08 13:27:14 | 読書感想
昨年の10月頃から、寝る前にミステリー小説を数ページだけ読むことが楽しみになっています。初めは『シャーロック・ホームズ』から入り、今はその小説に影響を受けて岡本綺堂が書いた『半七捕物帳』へ。

『半七捕物帳』は、江戸時代に岡っ引であった半七の経験したことや見聞したことを、明治時代の「わたし」が聞き取りをする、というかたちで進みます。私が買ったものは新潮文庫の版で、「江戸探偵怪異譚」として宮部みゆきさんの編集でまとめられたもの。幽霊よりも人間の方が怖い、などとよく言われるものですが、この短編集もまさにそういう感じです。なかでも面白かったのが無差別殺人の犯人を追う「槍突き」と、店にまつわる幽霊噺の「津の国屋」。犯人探しもさることながら、事件の背後にある犯罪の動機を考えることも含めて、楽しめるストーリーでした。

また、私の場合、東京(江戸)の地理にかなり疎いため、地名が出るたびに調べながら、読み進めていきました。おかげで、少しは地名に詳しくなった…かな(笑)