学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

TOKYO STYLE

2021-03-19 18:41:30 | 読書感想
都築響一さんの『TOKYO STYLE』(ちくま文庫)を読んで(見て)いると、もっと人生を楽しんでいいんだよ、と言われている気がします。この本は1991年、92年頃の東京の古いアパートの部屋をひたすら写真に収めたもの。住む人が変われば部屋の中も変わる。と思いきや、みんなの部屋はとにかくモノにあふれています。洋服、本、ビデオ、カセットテープ、レコード、そして各人のお気に入りのものなど。それらが人によっては足の踏み場もないほどあるわけです。

面白いことに、部屋の写真をじっくり眺めていると、それぞれにストーリーがあることに気づきます。この部屋の住人はこんな顔をしていて、普段こんな生活をしているのかな、とか、この部屋でいつもどんな会話が交わされているんだろうか、などと、どんどん想像が膨らむのです。

これらの写真が撮られてから、30年後の未来に生きる私たちは「断捨離」という言葉があるように、とにかくモノを減らすことがよい考えがちな世の中に生きています。それに比べれば、90年代はなんて人間味あふれる部屋なのだろうか。自分の好きなものにたくさん囲まれて暮らすということは、とても幸せなことだったのかもしれないと、ふと思うのです。

それに比べて私の部屋は…と考えてみたところ、我が家にはそもそも私の部屋がなかった(笑)それはいいとして、自分の趣味というものを部屋のなかに上手に取り入れて、自分の好きなものに囲まれて暮らす生活に、人生の楽しみのひとつがあるような気がしました。

東日本大震災から10年

2021-03-11 20:36:55 | その他
今日で東日本大震災から10年となりました。光陰矢の如し。ついこの間のような気がしますが、もう10年が経ってしまったか、というのが実感です。大地震直後、急いで美術館の建物、作品を点検し、その後にテレビを付けたら津波の衝撃的な映像。これは一体何が起きているんだ?というのが第一印象でした。その日以降は、もう原発事故や計画停電、災害復旧と、もう展覧会の準備どころではなく(それでも準備は進めなければならなかったのですが)、目まぐるしく時間が過ぎていったことを覚えています。久しぶりに実家の宮城県に帰ることができたのは半年後くらいでしたでしょうか。名取市方面では、まだ田んぼの真ん中に漁船がいくつも残されていました。災害復旧と原発事故とこの先どうなっていくんだろう、と私は未来のことがまったく考えられない日々を送りました。それから10年なのですから、何だか不思議な感じがします。災害のあったところへ久しく足を運んでいないため、どの程度復旧が進んだのかわかりませんが、私の出来うる限りの支援を続けていきたいと思っています。改めて、亡くなられた方々へのご冥福をお祈りいたします。

展示作品に迷う

2021-03-10 19:00:55 | 仕事
新しい企画展の開催準備も大詰めになり、チラシも配り始め、展示で使うパネルなどもほとんど出来上がった段階で、まだ私が悩んでいるのが自館が所蔵する作品の出品について。ある程度、もう決めていたのですが、作品のリスト(未完成)や図面(未完成)を眺めていると、この展覧会の趣旨ならこちらのほうがいいかな、いやこれもあるぞ、と一向に答えが出ません(笑)。他館から借用する作品ではないから、余計に思い悩むのでしょうね。ところどころ修正をしつつ、自分が考える理想的な展覧会を作っているような状態です。悩みと言っても、嬉しいほうの悩み。あと少し、精一杯悩みたいと思います(笑)。

美術館のスパイ

2021-03-05 19:09:08 | 仕事
仕事柄、私は他所の美術館を見に行ったら、展覧会そのものを楽しむのはもちろん、その展覧会のために書かれた挨拶文やテーマ解説、作品解説などの内容、書き方、分量、文字の大きさ、レイアウトなどにも意識を向けています。それらを見て、自分の美術館に取り入れられるものがないかどうか、スパイ、ならぬ、勉強のために見ているのです。

これらの文章は、お客様に作品をより楽しんでいただくために書かれるものです。ですから、お客様の立場で言葉を考えなくてはいけません。私が歴代の館長から教わったのは、単純明快に書け、ということでした。文章が長すぎては疲れる、内容が難しすぎても疲れる、字が小さくても疲れる、とにかくお客様を疲れさせるなと。確かにそのとおりで、私もそれを念頭に置いて、文章を書き、パネルをつくっています。今までで、特にそれらが見やすく面白いと感じたのは板橋区立美術館、栃木県立博物館あたり。もちろん、展覧会によって内容は違うのですが、作品や資料の見どころをいかに優しく楽しく伝えられるかを、館全体でかなり意識して取り組んでいるように見受けられました。両館からは、私も随分学ばせてもらいました。

本を読むことだけが勉強ではなし。(ジャンルを問わず)他所の美術館をどんどん見に行き、刺激を受けることが大切、と私は考えています。来年度の新しい企画展に向けて、どうすればいい展示になるのか、今、展覧会の準備が佳境に入っているところです。

南画の潮流展

2021-03-04 18:50:39 | 展覧会感想
先日、宇都宮美術館で「ジョルジュ・ビゴー展」を見たあと、栃木県立美術館へも立ち寄りました。県立美術館で開催していたのは「栃木における南画の潮流展」です。南画の中でも「栃木」と限定したところが、県立らしい企画ですよね。

展示されている作品は、おおよそ江戸後期から昭和の中頃までの南画です。南画全盛期だった江戸後期は、やはりとてもいいものがあります。谷文晁の《富嶽図》、小泉斐の《輞川図》(一見、どこかの城跡でも描いたのかと思いました)の迫力がお見事。また、渡辺崋山、高久靄厓、吉澤松堂の竹図を比べて楽しむことができるのも面白い。きれいにまとめた吉澤、墨の濃淡を効かせた高久、その高久の上を行き、さらに筆先のかすれやねじりを加えた自由奔放な筆力の崋山。3人の特徴が際立って見ることができます。近代に入ると…南画というジャンルにとっては難しい時代になったのかな、という印象です。前衛的な表現をうまく取り入れた、当時の日本画や油画を思い浮かべると、南画は主題が主題だけに新しい表現方法の開拓が厳しかったのかもしれません。そのなかでも、小杉未醒の《石切山》や《雨》はかなり健闘しているな、と感じました。

その後は常設展へ。清水登之の《父の庭》がとても面白い絵でした。植木職人が庭先の巨木の枝を全部切り落とし、はしごの上でどうだと言わんばかりのジェスチャー、それを家の主人である父が背を向けて眺めている。「いくらなんでもやりすぎだろ」と父が背中で語っている感じがして、思わず、にやりとしてしまいました。

企画展も常設展もゆっくりと楽しむことができました。やはり、絵を見ることは楽しいですね。


スローライフでいこう

2021-03-02 20:11:32 | 読書感想
先日、古本屋をのぞいたら『スローライフで行こう』(エクナット・イーシュワラン著、早川書房)という本を見かけ、面白そうだったので、買って読んでみました。

スローライフ、つまり、ゆっくり生きよう、というテーマの本は、書店に行くとたくさん見かけますね。それだけ、生活が忙しくなりすぎている、と自覚している人が多い社会になっているのでしょう。この本は奥付に2001年発行とありますから、今から20年前において、すでに私たちの生活はスローライフを欲していたようです(私の感覚としては2001年なんて、まだ緩やかな時代だった印象があるのですが)。

著者のエクナット・イーシュワランは、インド出身で、大学の先生。彼はスローライフのための8つのポイントを説明してくれます。

1.スローダウン
2.一点集中
3.感覚器官の制御
4.人を優先させる
5.精神的な仲間をつくる
6.啓発的な本を読む
7.マントラ
8.瞑想

このポイントは、著者が自分の経験から挙げた項目です。ですから、科学的な根拠があるというわけではありません。しかし、少なくとも、私にはとても素晴らしい本でした。参考までに、いくつかの彼のアドバイスを要約して載せてみます。

・過去や未来ではなく今に目をむけること。もし、意識が別な方向へ行ったら、マントラを唱えること。
・自分が読んだもの、見たもの、聞いたものが心の中に入り、自分を形作ることを忘れてはいけない。
・毎朝または毎夜、30分(以内)で瞑想する時間や啓発的な本を読む時間をつくりなさい。

著者は、これらに取り組むことで、心を平穏に保つことの大切さを説きます(そして、スローライフとは怠惰になることではないとも)。早速、私も実践し始めましたが、一点集中と瞑想はとても良く、精神的に安定します。良い本と巡り合うことができたことに感謝したい今日のこの頃です。

作家との調整中

2021-03-01 20:39:11 | 仕事
仕事柄、展覧会開催のために現役の作家の方々とお話をさせていただく機会が多くあります。ちょうど今、私が企画している展覧会も、作家とこまめにコンタクトを取りながら進めている最中です。

展覧会の実現のためには、美術館側の意見と作家の意見をすり合わせる必要があります。お互いにとっての理想的なかたちを求めて、何度も打ち合わせるわけですね。今はコロナ禍のため、直にお会いすることがはばかられるため、電話やメールを使ってのやり取りが続きます。私の場合、作家とのやり取りで特に勉強になるのは、作品展示の方法です。私自身、展示方法がどうしてもセオリー通りの無難な配置を組んでしまいやすいのですが、その点、作家のみなさんはやはりすごい。作品を五感で体験してもらうために、あえて作品に触ってもらえるようにしたり、壁面全体を作品で埋め尽くして存在感を出したり…様々なアイディアを提案して下さり、いつも驚かされます。

私は展示方法の勉強のために現代美術の展覧会をなるべく見に行くようにしてはいるのですが、それがなかなか自分の仕事へ消化するまでに至っていないのがくやしいところ。まだまだ勉強が足らないということですね。今度、企画している展覧会ではどういう展示をすれば、作品が生き生きと見えてくるのか。開催まで、作家と相談しながらの調整がしばらく続きそうです。