語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~ 

2011年11月12日 | 医療・保健・福祉・介護
 米国には、日本の公的医療保険はない。職域保険の政府管掌健康保険などはないし、ましてや地域保険の国民健康保険もない。
 あるのは、職場で加入する医療保険(民間の保険会社が保険者)だ。失職と同時に加入資格を失う。
 失業して職場のグループ保険の加入資格を失った場合でも、保険料をすべて自分で払い、保険を一定期間だけ延長することは可能だ。その場合、月に約600~800ドルの保険料を自腹で払い続けねばならない。収入が絶たれる中、高額の保険料を払い続けられる人は多くない。
 しかも、パート労働者の加入資格も打ち切られるようになった。小売り最大手のウォルマートは、コスト削減のため、週の勤務が24時間以下の新規パート労働者には医療保険を提供しない、と発表したのだ。現段階で保険に加入しているウォルマート社員それぞれの負担も、増加する見こみだ。
 ロサンゼルスでは、失業率が13%に迫ろうとする。カルフォニア州で医療保険に加入していない人は約840万人。ロサンゼルス郡の3割近くが無保険だ。

 低所得者向けに公的医療保険「メディケイド」があるが、利用に際して所得審査があり、失業しても、ある程度の資産があれば利用できない。メディケイドの適用を受けても、給付は限定的だ。歯科診療は特別な場合(<例>抜歯)を除いて給付されない。眼科診療も、緑内障の治療は受けられるが、視力検査は給付されない。かくて、虫歯の痛みや度の合わなくなった眼鏡の不自由さを抱えながら過ごしている人々が増えている。
 ちなみに、学生の医療保険(民間の保険)も、歯科診療は給付しない。自費で虫歯1本でも治せば、数百ドルから数千ドルかかる。
 無保険者でも、急病やケガなどの場合、救急病院を無保険で利用し、治療を受けることは可能だが、数千ドル以上の高額の請求書が届くことが多い。病院と直接交渉し、ローンを組めればよいが、そうでない場合、病院は回収業者に負債を売り、回収業者が取り立てる。その結果、自己破産するケースが増加中だ。マサチューセッツ州で行われた調査によれば、自己破産の原因の5割以上が医療費だった。

 オバマ政権が昨年通した医療保険改革法は、現行のメディケイドの拡大のほか、国民が私企業の医療保険を買うことで、現在無保険の3,000万人以上に保険を提供することを目標としている。今後10年間で約9,400億ドルを要するため、共和党は猛反発している。
 新法の国民の保険加入義務化は憲法違反だ、と提訴され、現在連邦最高裁で係争中だ。

 以上、長野美穂(ジャーナリスト)「歯と眼の治療は贅沢品 仕事と同時に失う医療保険 ~ロサンゼルス・無料クリニック報告~」(「AERA」2011年11月14日号)に拠る。

    *

 米国カルフォニア州のデンタルクリニックのホームページによれば、日本の医療保険自己負担分の3~10倍を支払わねばならない。
 <例1>抜歯1本117ドル(8,892円)
 <例2>麻酔185ドル(14,060円)
 <例3>銀の詰め物116ドル(8,816円)

 以上、山田文夫/藤後里子「TPPで日本人の生活は超ピーピー」(「サンデー毎日」2011年11月13日号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~

2011年11月12日 | 社会
 ウォール街の占拠(オキュパイ・ウォール・ストリート、OWS)は、9月に始まった。
 一連のデモは「反格差」が目的と報じられているが、それは本質ではない。
 学生や若者中心と言われたが、実は中流の人たちが相当参加している点に注目すべきだ。主要な労働組合も支持を表明し、デモに参加した。
 これまでの米国のデモは、人種差別、女性問題、労働問題などピンポイントで要求を掲げ、そこに白人の中流層が参加する必要はなかった。しかし、今白人の中流層は失業中か、仕事はあっても教育や医療などの支出が高騰し、その日暮らしをせざるをえないワーキングプアになっている。
 デモ全体は、はっきりとした要求を打ち出していない。個別の要求を掲げれば、メディアによって矮小化されてしまう。要求の優先順序が参加者で異なるから、内紛のもとになる。だから、まずデモで街を占拠し、後から要求を出す。
 「フリーダム」や「99%」のプラカードがよく目に入る。今の米国では「1%の人」だけが政策や国のあり方を決め、「残り99%の国民」の声は政治やメディアに反映されない。その不満が、ワーキングプアの境遇に落とされた中流層を中心に広がっている。政治、仕事、メディアに国民が選択肢をもつ自由を求めているわけだ。

 米国では、大企業が政治に対してあまりに大きな力を持つに至った。二極化が進み、富がごく一部の投資家や金融機関に集中した。「強欲」を規制緩和が後押しして「合法システム」にしてしまったからだ。1980年代から加速し、リーマン・ショックで3,000万人を失業させた金融分野が「1%」を象徴する。
 米国で大統領になるには巨額の資金が必要だ。その資金を確保するには、大富豪、投資家、金融機関から支持を受けねばならない。「1%」の大資本が米国のあり方を決めるシステムができあがっている。米国はいまや「資本独裁国家」の代表だ。
 重要なのは、これが米国だけの問題ではないことだ。チリやブラジルなど南米諸国で左派政権に火がついた。そして、NAFTAのISD条項(投資家と国家間の訴訟制度)がカナダやメキシコにもたらしたもの、韓国の自主権を奪うかのような米韓FTA・・・・。
 TPPは、支持率が急落して再選が危ういオバマ大統領が、それによって「1%」に新たな市場、ビジネスチャンスを提供し、選挙資金を得る手段なのだ。

 「資本独裁国家」のコーポラティズムに対して、このたび、「99%」が初めて「ノー」という声をあげた。デモの核となる事務局の人たちはいう。「今回のデモは、おこぼれみたいに仕事をもらって終わりという性質ものではない。私たちは米国全体、世界全体で起きている同じ流れに対して抗議しているのです」
 TPPとウォール街デモは線でつながっている。 

 以上、堤未果(ジャーナリスト)「問われたのは「国家」の姿 コーポラティズムに国境はない」(「AERA」2011年11月14日号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
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