語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」

2011年11月18日 | 社会
 鈴木宣弘・東京大学教授(農業経済学・国際貿易論)によれば、TPPをめぐる構図は、「国益 対 農業保護」ではなく、「輸出産業(の経営陣) 対 広い分野」の損失だ。具体的な損失は、次のとおり。

 (1)製造業における雇用喪失
 (2)金融・保険・法律・医療・建築など、労働者(看護師・介護士・医師・弁護士等)の受け入れを含むサービス分野の喪失
 (3)繊維・皮革・履物・銅板・コメ・乳製品等の重要品目の損失
 (4)食糧生産崩壊による国家安全保障リスクの高まり
 (5)水田の洪水防止機能や生物多様性の喪失、国土・地域の荒廃等

<例1>製造業【注1】
 米国は、自動車の非関税障壁について、日本の自動車の低燃費やハイブリッドの技術を透明にせよ、と要求している。エコカーへの補助金も競争ルールに反する、とも言っている。日本の代表的な製造業である自動車にも悪影響を及ぼすおそれがある。

 【注1】「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~

<例2>医療【注2】
 混合診療などの医療保険が対象になることも、11月7日になって初めて民主党の経済連携PTが認めた。
 政府の隠蔽体質は許せない。菅政権時代にTPP参加による医療分野への懸念について質問したが、政府は「医療は交渉の参加の議題に上がっていない」と言い続けてきた。しかし、政府の資料には「医薬品」ということで話し合われていた。【川田龍平・参議院議員(みんなの党)】

 【注2】横田一(フリージャーナリスト)「壊滅するのは農業だけじゃない 党内対立激化で野田政権も崩壊か」(「AERA」2011年11月21日号)
 
<例3>食糧の安全保障
 日本の食糧自給率は、40%から50%に増やす計画だったが、TPP参加によって、逆に13%に激減する(農水省試算)。

 以上、横田一「『TPPは日本の食も農も社会全体も破壊する』」(「週刊金曜日」2011年11月4日号)に拠る。

   *

 TPPに参加して成長するアジア市場を取りこむ、アジアに輸出を増やせる、という意見はウソだ。肝心の中国、インド、韓国などが不参加だ。【金子勝・慶應義塾大学教授】
 TPPに参加すると、関税が撤廃されて日本に安い品物が入ってくれば、デフレが加速し、賃金が下がる。弱い立場の派遣労働者などが真っ先にあおりを受ける。国民を守らない政府に人々が不信感を募らせれば、政党政治が崩壊する。どの政権も無責任で情報隠しばかりやっているから、国民に選択肢がなくなる。【同】

 以上、直木詩帆/藤後野里子「TPPで製造業も壊滅、自殺行為」(「サンデー毎日」2011年11月27日号)に拠る。

 【参考】「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
     「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
     「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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