語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>高放射線量の中古車が流通している

2011年11月16日 | 震災・原発事故
 高放射線量で輸出差し止めになった中古車が、国内で再流通している。
 驚くべし、国内市場では放射性物質に汚染された中古車の流通に何の規制もないのだ。110μSv/時という高放射線量が検出されて輸出できなかった中古ミニバンも、国内の業者向けオークション会場に出品されている。
 ある1台の高放射線量の車は、大阪市、神戸市、千葉県と動いたところまで判明したが、最終的に誰の手に渡ったのかは、いまだに不明のままだ。

 海外向けと国内の対策に落差がある。
 (a)国交省は、4月に輸出コンテナのガイドラインを定め、大気中の放射線量の3倍を超える場合は除染を求めた。港湾荷役の労使協定で全台検査が8月から始まり、毎時0.3μSv/時以上の中古車は貨物船に積めなくなった。
 (b)国内のオークション会場では、走行距離や傷の有無などは調べるが、放射線測定は義務づけられていない。

 全国で9月に貨物船への積み荷を拒否された車は、全体の約1%にあたる660台だ。【日本港運協会】
 こうした車は、国内オークションに回されている。【日本中古車輸出業協同組合の幹部】
 110μSv/時の車に妊婦や乳幼児が乗る可能性もあるのだ。

 放射線への知見がなく、うちの省だけではどうにもならない・・・・と、中古車流通を所管する経産省はいう。
 福島県ナンバーの車は「風評被害」にさらされている。中古車業者は、故意にナンバーを外して県外に売るのが常態化している。
 国や業界の無作為は、業者やユーザーの疑心暗鬼を助長している。車が安全な場合、安全であることを証明できれば、風評も生まれまい。

 以上、山田明宏(本紙社会部)「中古車流通 放射線検査を義務づけよ ~記者有論~」(2011年11月16日付け朝日新聞)に拠る。
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【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~

2011年11月16日 | 社会
 TPPの問題点の一つにISD(Investor State Dispute)条項が挙げられることがある。相手国政府の政策で企業が損害を被った場合、政府を提訴して賠償金を請求できる仕組みだ。
 この条項が一方的に米国にだけ有利に働く、とは言えない。日本もまた、米国政府の不当な政策を提訴できるからだ。
 判定は世界銀行傘下の仲裁委員会で行われる。米国企業が自らの利益のために結論を一方的左右できるわけではない。米国議会を相手ににするよりは、公平な結果を期待できるだろう。

 1980年代、日米貿易摩擦の中で「スーパー301条」が登場した。「包括的通商・競争力強化法」の対外制裁に係る条項の一つだ。貿易相手国の不公正な取引慣行に対して当該国と協議し、問題が解決しない場合に報復関税を設定しうる、とした。
 日本政府が教育用コンピュータのOSとして「トロン」を採用しようとした。米国通商代表部は、トロンをスーパー301条に登録した。ために、トロンの市場進出がブロックされた、と言われる。
 ISD条項があれば、日本は米国政府を提訴できた。スーパー301条は、国際的に悪評高い措置だったから、日本が勝てた可能性は十分にある。
 ただし、現在の状況は80年代とはかなり違う。製造業の分野で日本企業が提訴されるような事態は、もう考えにくい。

 現代世界で提訴される可能性が最も高いのは、中国政府だ。
 数年前に、グーグルは中国政府と衝突した。ISDがあれば、グーグルは中国政府を提訴しただろう。
 知的財産権がからむ問題で、中国には問題が多い。

 この点からしても、中国が米国とFTAやTPPを締結しないだろう。
 米国の輸入関税がゼロになったら、その分さらに中国の対米輸出が伸びる、というわけではない。関税率いかんに拘わらず、中国の対米輸出は伸びるのだ。
 ISDという要件が加われば、中国がTPPに入るインセンティブはまったくない。

 以上、野口悠紀雄「タイへの一極集中はFTAによる歪み ~「超」整理日記No.586~」(「週刊ダイヤモンド」2011年11月19日号)に拠る。

 【所見】
 ここで野口は、ISD条項を擁護・・・・とまでいかなくても、否定はしていない。
 しかし、それはIPPに与する意図を表明しているわけではない。否、逆にTPPにはまったく反対だ【注1】。野口がIPPに反対する理由の一つは、TPPによる輸出増加効果はたった0.4%しかない、という点だ。
 その傍証となるデータを前掲「「超」整理日記No.586」で紹介している。10月25日に内閣府から発表された試算がそれで、TPPの実質GDP増大効果は0.54%(金額では2.7兆円)だ。しかも、これは、直ちに発生する効果ではなく、今後10年間程度の期間において生じると期待される効果だ。年間に2,700億円だ。仮にGDP増大効果が10年間等率で進行するとすれば、年平均増加率は0.0539%。金額で2,695億円だ。要するに、事実上、効果がない。
 本旨から逸れるが、野口の「スーパー301条」の取り扱い方が興味深い。
 伊東光晴は、スーパー301条を米国の一方主義の代表的な例としてあげる【注2】。他方、野口は、ISD条項によって対抗しうる例としてスーパー301条をとりあげる。

 【注1】語り手:野口悠紀雄/聞き手:佐藤章(編集部)「「崩壊するのは製造業だ」」(「AERA」2011年11月21日号)
 【注2】「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~

 【参考】「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
     「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
     「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
     「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
     「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
     「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
     「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
     「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
     「【震災】復興利権を狙う米国
     「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ
     「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題
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