(1)増税が景気に与える悪影響の程度
今回の消費増税では、家計や企業は何とかショックを吸収して、「景気腰折れ」までには至らない。
(a)個人消費減退
景気に最大のインパクトを与えるのは個人消費(GDPの6割)の減退だ。これは、次の2つによって生じる。
①増税前の駆け込み需要の反動・・・・一時的なもの
②物価上昇による実質所得の目減り
(b)政府の対策
低所得者向けに「簡素な給付」を行う方針だ。ただし、現在打ち出されている10,000~15,000円/年では、焼け石に水。
(c)賃金増
減り続けてきた名目賃金(現金給与総額)が、今年6月以降、前年同期比で増加に転じた。今後も緩やかながら改善の動きは続くと見られている。ただし、賃金増といっても、増えているのは残業代やボーナスであって、家計に最も大きな影響を与える所定内給与(基本給・パート代など)は減少が続いている。他方、次のような指摘もある。
統計には表れていないが、個人ベースでは定期昇給により1.5~1.6%/年の賃金増加があり、消費増税による負担増をぎりぎり打ち消せる。【是枝俊悟・大和総研研究員】
(d)雇用増
7月時点で、失業率は3.8%まで低下している。今後もさらに改善する、と見込まれている。1人当たりの所得では物価上昇に見合うほどの増加は望み薄だが、経済全体を見れば、何とか消費増税による負担増を補う水準となり得る。
(e)結論
(a)のように、個人消費の水準は増税前より低下するが、(c)、(d)によって、日本経済全体は改善していく。【斎藤勉・大和総研経済調査部主任】
(2)リスク
(a)米国の景気動向 ~最大のリスク~
(1)-(c)、(1)-(d)の改善の見通しは、企業業績の好調が前提となっている。円安基調の持続による輸出企業の好業績が景気全体を牽引する、というシナリオだ。だが、もし米国景気が変調を来せば、このシナリオは瓦解する。
(b)企業の設備投資
(1)-(a)以外では、これが重要だ。内需への波及効果が大きいからだ。トレンドとしては増加の方向にあり、4~6月期にはかろうじて前年同期比プラス圏となった。もっとも、古くなった設備の更新投資が主だ。また、牽引しているのは円安で潤う輸出産業ではなく、非製造業だ。製造業は慎重姿勢を崩していない(いまだに前年同期比マイナス)。現在の傾向が続けば、それでも一定の景気下支えにはなるが、増税で消費が落ち込んだ後も非製造業が投資を続けるか、疑問だ。
(c)政府の対策
法人減税が設備投資につながるか、不透明だ【注】。企業がメリットを得ても、それが賃上げという形で家計に波及しなければ意味がない。下手をすれば、単に法人減税による税収減が、消費増税による税収増を打ち消すだけに終わる。
景気腰折れの回避には、経済対策、わけても即効性の高い公共投資がどの程度の量、出るかによる、という見方も多い。しかし、その規模と内容によっては、かえって財政が悪化する結果となりかねない。規模としては、今年度の税収上ブレ分などを使って(赤字国債の発行をせずに打てる範囲である)3兆円程度、楽観的に見積もっても5兆円程度がギリギリのところ。内容上も、老朽化したインフラの更新など、本当に必要なものに厳しく限定しなければならない。無駄なバラマキが行われたら、何のための消費増税か、ということになる。
(3)財政問題は未解決
消費増税によって財政問題が解決することはない。
消費増税だけで財政再建を果たそうとすると、最終的な税率は25~30%になる、という試算も少なくない。
経済の「地力」をつけるための成長戦略遂行が極めて重要だ。具体的には、企業の活力を引き出す規制改革、若者や女性の労働参加を促すための政策だ。
持続的成長のためには、企業業績の改善の恩恵が家計に回ることが必要だ。カギを握るのは、ボーナスではなく所定内給与の増額、パートではなく正規雇用の拡大だ。だが、それには企業が中長期の成長を確信しなければならない。今は、そこまで至っていない。
【注】
「法人税減税が経済成長となる条件 ~「超」整理日記No.518~」
「法人税減税批判 ~「超」整理日記No.530~」
「法人税率引き下げは経済を活性化しない ~「超」整理日記No.531~」
□記事「消費税アップ! 家計・景気はどうなる?」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月5日号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~」
「【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~」
「【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~」
「【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~」
「【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~」
「【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~」
「【経済】円安による費用増はすでに政治的問題」
「【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~」
「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場」
「【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~」
「【経済】円安を止められなくなるリスク」
「【税】富裕層への増税を支持する富裕層」
「【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~」
「【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~」
「【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~」
「【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~」
「【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~」
「【経済】税制が作った“富裕老人”400万人」
「【経済】消費税は失業者を増やす」
「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~」
「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~」
今回の消費増税では、家計や企業は何とかショックを吸収して、「景気腰折れ」までには至らない。
(a)個人消費減退
景気に最大のインパクトを与えるのは個人消費(GDPの6割)の減退だ。これは、次の2つによって生じる。
①増税前の駆け込み需要の反動・・・・一時的なもの
②物価上昇による実質所得の目減り
(b)政府の対策
低所得者向けに「簡素な給付」を行う方針だ。ただし、現在打ち出されている10,000~15,000円/年では、焼け石に水。
(c)賃金増
減り続けてきた名目賃金(現金給与総額)が、今年6月以降、前年同期比で増加に転じた。今後も緩やかながら改善の動きは続くと見られている。ただし、賃金増といっても、増えているのは残業代やボーナスであって、家計に最も大きな影響を与える所定内給与(基本給・パート代など)は減少が続いている。他方、次のような指摘もある。
統計には表れていないが、個人ベースでは定期昇給により1.5~1.6%/年の賃金増加があり、消費増税による負担増をぎりぎり打ち消せる。【是枝俊悟・大和総研研究員】
(d)雇用増
7月時点で、失業率は3.8%まで低下している。今後もさらに改善する、と見込まれている。1人当たりの所得では物価上昇に見合うほどの増加は望み薄だが、経済全体を見れば、何とか消費増税による負担増を補う水準となり得る。
(e)結論
(a)のように、個人消費の水準は増税前より低下するが、(c)、(d)によって、日本経済全体は改善していく。【斎藤勉・大和総研経済調査部主任】
(2)リスク
(a)米国の景気動向 ~最大のリスク~
(1)-(c)、(1)-(d)の改善の見通しは、企業業績の好調が前提となっている。円安基調の持続による輸出企業の好業績が景気全体を牽引する、というシナリオだ。だが、もし米国景気が変調を来せば、このシナリオは瓦解する。
(b)企業の設備投資
(1)-(a)以外では、これが重要だ。内需への波及効果が大きいからだ。トレンドとしては増加の方向にあり、4~6月期にはかろうじて前年同期比プラス圏となった。もっとも、古くなった設備の更新投資が主だ。また、牽引しているのは円安で潤う輸出産業ではなく、非製造業だ。製造業は慎重姿勢を崩していない(いまだに前年同期比マイナス)。現在の傾向が続けば、それでも一定の景気下支えにはなるが、増税で消費が落ち込んだ後も非製造業が投資を続けるか、疑問だ。
(c)政府の対策
法人減税が設備投資につながるか、不透明だ【注】。企業がメリットを得ても、それが賃上げという形で家計に波及しなければ意味がない。下手をすれば、単に法人減税による税収減が、消費増税による税収増を打ち消すだけに終わる。
景気腰折れの回避には、経済対策、わけても即効性の高い公共投資がどの程度の量、出るかによる、という見方も多い。しかし、その規模と内容によっては、かえって財政が悪化する結果となりかねない。規模としては、今年度の税収上ブレ分などを使って(赤字国債の発行をせずに打てる範囲である)3兆円程度、楽観的に見積もっても5兆円程度がギリギリのところ。内容上も、老朽化したインフラの更新など、本当に必要なものに厳しく限定しなければならない。無駄なバラマキが行われたら、何のための消費増税か、ということになる。
(3)財政問題は未解決
消費増税によって財政問題が解決することはない。
消費増税だけで財政再建を果たそうとすると、最終的な税率は25~30%になる、という試算も少なくない。
経済の「地力」をつけるための成長戦略遂行が極めて重要だ。具体的には、企業の活力を引き出す規制改革、若者や女性の労働参加を促すための政策だ。
持続的成長のためには、企業業績の改善の恩恵が家計に回ることが必要だ。カギを握るのは、ボーナスではなく所定内給与の増額、パートではなく正規雇用の拡大だ。だが、それには企業が中長期の成長を確信しなければならない。今は、そこまで至っていない。
【注】
「法人税減税が経済成長となる条件 ~「超」整理日記No.518~」
「法人税減税批判 ~「超」整理日記No.530~」
「法人税率引き下げは経済を活性化しない ~「超」整理日記No.531~」
□記事「消費税アップ! 家計・景気はどうなる?」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月5日号)
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【参考】
「【【消費税】増税で家計はどうなる? ~5%から10%へ~」
「【消費税】増税5年後の苛酷な負担増 ~消費税の他にも負担増~」
「【消費税】増税の背後にある権力闘争 ~政権内部の抗争~」
「【経済】安部政権下、賃金が下がりつつある理由 ~スタグフレーション~」
「【消費税】第三の矢が折れる日 ~成長戦略破綻の構図~」
「【社会保障】医療、介護、年金・・・・怒濤の負担増 ~「後出し公約」~」
「【経済】円安による費用増はすでに政治的問題」
「【経済】ビジョン計画はあっても実行計画のないアベノミクス ~マネーゲームの誘発~」
「【経済】投機に翻弄される日本経済と金融市場」
「【経済】アベノミクスの金融緩和はデフレを脱却させない ~雇用が重要~」
「【経済】円安を止められなくなるリスク」
「【税】富裕層への増税を支持する富裕層」
「【選挙】小泉「改革」の悪夢は甦るのか ~「失われた20年」の元凶~」
「【選挙】負担に口をつぐむ各党 ~世代間移転~」
「【税】実質税負担率はトヨタ社長より庶民のほうが高い ~金持ち優遇~」
「【経済】金持ちに1%の富裕税を課せ ~消費税の2倍の税収~」
「【経済】年々減る給与、年々増える会社の貯金 ~企業の内部留保金300兆円~」
「【経済】税制が作った“富裕老人”400万人」
「【経済】消費税は失業者を増やす」
「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~」
「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~」