語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~

2013年10月04日 | 震災・原発事故
 (1)原発事故はコントロールされている、と安倍晋三・首相が明言したことで、放射性物質拡散を予想したシミュレーションがあらためて注目を集めている。
 それは、ドイツのキール研究所(ヘルムホルツ海洋研究センター・キール)が2012年7月に発表した論文と詳細な動画【注】だ。
 事故後5~6年間で、放射性物質は米国西海岸に達する。10年間で、太平洋全域や日本海などに拡がる。

 【注】動画はこちら。「10年後の太平洋放射能汚染シミュレーション (Future Pacific Ocean Radioactivity SIM) 」。ちなみに、画像の左上の数字は、フクイチから海洋に漏れ出してから経過した日数だ。

 (2)キール研究所の試算では、放射性物質の濃度は海水で薄まるため、事故から2年後で10Bq/トン、10年後では約1Bq/トンとなっている。
 1Bq/トンだと、飲料水基準の1万分の1の量にしか過ぎない。
 ただし、このシミュレーションは3・11後、数週間で海洋に放出されたとされる1京Bqのセシウム137の拡散を予測しただけだ。3・11後の爆発で大気中に放出された放射性物質55京Bqの55分の1に過ぎない。食物連鎖で汚染値が上がり生体濃縮の危険性を考慮しなければならないし、どんな悪影響が出て来るか、不明だ。まして、新たに汚染水が出続けているわけだから、現実の事態はこのシミュレーションよりさらに深刻だ。

 (3)フクイチの汚染水の原因の一つは阿武隈山地(フクイチ西側)からの豊富な地下水だ。
 フクイチは、地盤を掘って建設したため、事故前でも850トン/日の地下水を汲み上げていた。地震被害で、汲み上げ機能がまだ回復していない。このため、300トン/日が原発敷地内を通って海に出ている。
 東電発表によれば、濃度が高い井戸では60万Bq/リットルのトリチウム(三重水素)が観測されている。最悪だと、1,800億Bqのトリチウムが海に出ていることになる。
 トリチウムは、水素と化学的にふるまいが同じなので、体内に入ると前身をめぐって筋肉や臓器などの癌の原因になる。欧州放射線リスク委員会(ECRR)によれば、トリチウムバンドという現象によって体内に蓄積する危険がある。
 しかも東電は、地下水に当然含まれているストロンチウムについて観測結果を発表していない。

 (4)凍土壁の建設は、2年間要するし、建設費は1,500億円。さらに運転には年間数十億円要する。対応がとにかく付け刃で、本当に効果があるか、不透明だ。
 さらに厄介なのが、汚染水貯蔵タンクからの漏洩だ。現在34万トンが「貯蔵」されているが、このなかにはトリチウムだけで、3・11後の爆発で出たのと同じ規模の放射性物質が溜まっている。
 東電は、当初、トリチウム以外の放射性物質を取り除いた後で、海に捨てようとしていた。つまり、爆発で出たのと同じ量のトリチウムを意図的に海に捨てようとしていた。
 
 (5)村田光平・元駐スイス大使は言う。
 国際社会の反応について、政府と東電が信用されていないことが深刻だ。
 福島原発事故は、地球環境上これまで最大の危機である、との認識が広がっている。原発そのものが、核兵器に劣らず危険なものであること、しかも簡単に破局事故を起こしうることが明確になった。だから、米国は5基の原発を廃炉にした。
 米国では、最近2つの動きが出ている。 
  (a)ロサンゼルス在住の女性がオバマ大統領宛の署名をインターネットを通じて集め始めた。福島原発問題を東電・日本政府のみに任せず、米国および国際チームで対応するよう要請する署名で、1億人分を集めたい、としている。
  (b)日本政府と東電が信用できないため、食糧および健康問題に関心を寄せるNGO「ナチュラル・ソリューションズ・ファンデーション」が、各国政府にも国際機関にも依存しないNGOの監視機関を創る動きを始めている、云々。

 (6)村田元大使は、さらに言う。
 キール研究所は、汚染水流出を組み込んだ新しいシミュレーションを準備している。
 汚染水事件は、日本の排他的経済水域(EEZ)にも影響する危険性がある。EEZの200カイリの権利を主張するためには、その国が適切に海洋を管理していることが条件となっている。汚染水をこのままくい止められなければ、適切な管理ができな国と見なされて、EEZの権利を失う可能性もある。
 震度6強の地震が来れば、使用済み核燃料が詰まった4号機が崩壊し、翌日から東京に住めなくなるなど深刻な核被害が想定されているのに、コントロールされていると放言する安倍首相には危機意識が足りない、云々。

 (7)9月13日の「第1回海洋モニタリングに関する検討会」で原子力規制委員会の姿勢と「実力」が典型的に可視化された。事故後2年半のモニタリングは問題だらけであった。
  (a)モニタリング・データについて、「サイエンスとしては何の意味もない」【外部有識者】
  (b)出されたデータは、放射能測定データにも拘わらず“不確かさ”がついていない。学生のレポートなら零点。確認しようと思うと、一個ずつきちんと測れているか、と問うハメになる。【青山道夫・気象庁気象研究所主任研究官】
  (c)中村佳代子・原子力規制委員会委員いわく、「汚染水という言い方は私はあまり好きではない」。
  (d)セシウムの経時変化のグラフにストロンチウム90のデータを加えてほしい。次回からは他の核種についても忘れずに図示してもらいたい。【青山研究官】
  (e)①資料採取の方法を一定にすべき。②フランスやドイツで導入している連続モニタリング装置をなぜ導入しないのか。③補正が間違っていたまま掲載している東電のデータは意味がない。④放射性物質以外による海洋汚染も重要、ホウ酸とヒドラジンがどれだけ投入され、汚染水タンクにどれだけ入っているのか、海にどれだけ漏れ出ている可能性があるのか、データを出してくれ。【外部専門委員】

□伊田浩之(本誌編集部)「終わらない原発汚染水」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
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