(1)安部首相は、(a)政府と企業との直接交渉で賃上げを促す、(b)法人減税で賃金を上昇させる、といったプランを持っている。
見当違いだ。わけても(a)は論外だ。政治的パフォーマンスとして行いたいのだろうが、こんな対応しか思いつかないのか、と国民を幻滅させる点で逆効果だ。発想の貧困を暴露している。
そもそも安部首相は、賃金下落のメカニスムを分かっていない。
(2)個々の企業が賃金を抑えているのではなく、産業構造の変化に伴って、日本経済全体の平均賃金が下落しているのだ。
(a)産業計の賃金指数は、1990年代末がピークだ。それ以降は、おおまかな傾向として、最近に至るまで低下し続けている。事業所規模5人以上の現金給与総額は、1997年度(104.4)から2012年度(99.9)まで、4.5%の下落だ。
(b)製造業では、リーマンショック以前の時点においては、賃金が上昇していた。特に1990年代後半から2000年代中ごろにかけて、産業計の賃金が下落していたときに、製造業の賃金は上昇していた。1997年と2007年を比べると、
①産業計は1.8%下落
②製造業は3.8%上昇
(c)製造業の賃金は、リーマン・ショックで大きく低下したが、その後は回復している。その結果、製造業の2012年度の賃金指数は、リーマンショック前のピークには及ばないものの、2000年代初めより高くなっている。
(d)製造業と対照的に、医療、福祉業は、賃金指数が趨勢的に低下している。その結果、最近の賃金指数は、2000年代初めより12%も低下している。
(e)賃金水準に、大きな格差がある。賃金は、基本的には労働の限界生産力に等しい。生産性は産業別に大きな差があるため、賃金水準は産業別に大きくことなる。2012年度における従業員1人当たりの給与は、
①製造業・・・・440万円
②非製造業・・・・338万円
※うち、医療、福祉業・・・・217万円(①の5割)
(f)製造業の従業員は、縮小する一方だ。2012年度はピーク(1991年度)より269万人減った。
※1,300万人近く(1991年度) → 1,200万人超(1995年度まで) → 1,000万人弱(2011年度)
(g)非製造業の従業員は、一貫して増えている。特に2000年代初めに増加が顕著だ。この結果、非製造業は2,236万人(1990年度)から3,141万人(2012年度まで、904万人増えた。
(h)非製造業の従業員数増加は、介護保険の導入によって、医療、福祉業の従業員が増えたことの影響が大きい。39万人(2004年度)から86万人(2012年度)まで47万人増えた。同期間中の製造業の従業員数減少は62万人なので、その4分の3をカバーしている。
(i)賃金が高い製造業が縮小し、賃金が低い非製造業(特に医療、福祉業)が拡大したため、日本経済全体の賃金が下がったわけだ。
(3)(1)に戻ると、(a)は日本が計画経済国家や統制経済国家ではない以上論外であるとして、(b)の、法人減税は賃上げを促すか?
否。
「利益は配当、内部留保、役員報酬、賃金で山分けされる」・・・・わけではない。売上げから賃金などを引いて残ったものが利益だ。仮に内部留保を吐き出させたいなら、法人税を増税する必要がある。
さらに重要なことは、(2)で示すように、個々の企業が賃金を抑えているわけでなない、ということだ。ある産業の賃金は、その生産性で決まる。
では、製造業の縮小をくい止めれば問題は解決するか? 否。製造業の縮小は、新興国の工業化がもたらした必然的結果だからだ。
結論。新しい産業を興す。それが、日本の賃金を引き上げるための、困難だが、唯一の方法だ。
□野口悠紀雄「賃金引き上げの方法は新産業を興すことだけ ~「超」整理日記No.681~」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月26日号)
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見当違いだ。わけても(a)は論外だ。政治的パフォーマンスとして行いたいのだろうが、こんな対応しか思いつかないのか、と国民を幻滅させる点で逆効果だ。発想の貧困を暴露している。
そもそも安部首相は、賃金下落のメカニスムを分かっていない。
(2)個々の企業が賃金を抑えているのではなく、産業構造の変化に伴って、日本経済全体の平均賃金が下落しているのだ。
(a)産業計の賃金指数は、1990年代末がピークだ。それ以降は、おおまかな傾向として、最近に至るまで低下し続けている。事業所規模5人以上の現金給与総額は、1997年度(104.4)から2012年度(99.9)まで、4.5%の下落だ。
(b)製造業では、リーマンショック以前の時点においては、賃金が上昇していた。特に1990年代後半から2000年代中ごろにかけて、産業計の賃金が下落していたときに、製造業の賃金は上昇していた。1997年と2007年を比べると、
①産業計は1.8%下落
②製造業は3.8%上昇
(c)製造業の賃金は、リーマン・ショックで大きく低下したが、その後は回復している。その結果、製造業の2012年度の賃金指数は、リーマンショック前のピークには及ばないものの、2000年代初めより高くなっている。
(d)製造業と対照的に、医療、福祉業は、賃金指数が趨勢的に低下している。その結果、最近の賃金指数は、2000年代初めより12%も低下している。
(e)賃金水準に、大きな格差がある。賃金は、基本的には労働の限界生産力に等しい。生産性は産業別に大きな差があるため、賃金水準は産業別に大きくことなる。2012年度における従業員1人当たりの給与は、
①製造業・・・・440万円
②非製造業・・・・338万円
※うち、医療、福祉業・・・・217万円(①の5割)
(f)製造業の従業員は、縮小する一方だ。2012年度はピーク(1991年度)より269万人減った。
※1,300万人近く(1991年度) → 1,200万人超(1995年度まで) → 1,000万人弱(2011年度)
(g)非製造業の従業員は、一貫して増えている。特に2000年代初めに増加が顕著だ。この結果、非製造業は2,236万人(1990年度)から3,141万人(2012年度まで、904万人増えた。
(h)非製造業の従業員数増加は、介護保険の導入によって、医療、福祉業の従業員が増えたことの影響が大きい。39万人(2004年度)から86万人(2012年度)まで47万人増えた。同期間中の製造業の従業員数減少は62万人なので、その4分の3をカバーしている。
(i)賃金が高い製造業が縮小し、賃金が低い非製造業(特に医療、福祉業)が拡大したため、日本経済全体の賃金が下がったわけだ。
(3)(1)に戻ると、(a)は日本が計画経済国家や統制経済国家ではない以上論外であるとして、(b)の、法人減税は賃上げを促すか?
否。
「利益は配当、内部留保、役員報酬、賃金で山分けされる」・・・・わけではない。売上げから賃金などを引いて残ったものが利益だ。仮に内部留保を吐き出させたいなら、法人税を増税する必要がある。
さらに重要なことは、(2)で示すように、個々の企業が賃金を抑えているわけでなない、ということだ。ある産業の賃金は、その生産性で決まる。
では、製造業の縮小をくい止めれば問題は解決するか? 否。製造業の縮小は、新興国の工業化がもたらした必然的結果だからだ。
結論。新しい産業を興す。それが、日本の賃金を引き上げるための、困難だが、唯一の方法だ。
□野口悠紀雄「賃金引き上げの方法は新産業を興すことだけ ~「超」整理日記No.681~」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月26日号)
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