語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】米国の日本支配の策動 ~安部首相のTPP詐欺~

2013年10月25日 | 社会
 (1)米国の1980年代以降の対日経済戦略は、長期的に継続している。その柱は、
  (a)金融市場の開放・・・・<典型例>橋本内閣が提示した金融ビッグバン(1996年)
  (b)米国企業に利益をあげさせるための日本国内の制度改革

 (2)一時は100兆円の資金を誇ったかんぽ生命を狙って、米国はさまざまな手を使ってきた。
 米国は、かんぽ生命(将来はゆうちょ銀行も)に対し、まず後ろ盾である政府の支配から切り離した上で、株式を売却させ、実質的なM&Aを実行できるような流れを作ろうとしている。まさに、そのための新しい戦略としてTPPがある。
 そもそも米国にとってTPPとは、日本を引き入れて米国企業の意向が貫徹できるように日本国内の制度、規制、仕組みを好き勝手に作り変えるためのツールだ。(1)-(b)の最強の武器だ。
 それを担保するのが、TPPに盛り込まれるISDS条項(ISD条項)だ。
 TPPで細かな条約を取り決めなくても、後でいくらでもISDS条項を使って、米国企業の要求を実現させることができる。

 (3)米国では、保険業界の政治力が大きい。TPPを使って、かんぽ生命を始めとした郵政グループの資金を狙い、日本への米国系保険会社の進出を拡大しようとしている。
 国民皆保険の存在しない米国では、民間の医療保険で医療がまかなわれている。営利事業が医療を支えている。このため、富裕層が高度の医療を受けられる半面、民間の保険に入れなくて、医療サービスを受けられない多数の低所得者層が存在する。
 米国は、米国系保険会社の日本での拡大のため、TPPを使って、日本の現行の国民皆保険制度を限りなく米国の仕組みに変えるよう仕掛けてくる可能性が高い。場合によってはISDS条項を発動させて。

 (4)安倍首相は、「医療を新しい成長産業にする」という方針を掲げている。
 同時に、高齢化社会で医療費が増大し、このままでは現在の公的医療制度は成り立たなくなる。医療費抑制が叫ばれている。
 医療分野のGDPが大きくなるのに、医療費を抑制するのは矛盾だが、この矛盾を解くカギは実はTPPに関わる。
 すなわち、米国がかねてから解禁を求めている混合診療的な制度を導入すれば、民間の高額の保険でまかなうような室の高い医療サービスの分野が拡大する。そうしたサービスのために医療機器価格の自由化も促進される。その分、「新しい成長産業」となる余地も生まれる。
 政府にとっては、医療費を削ることができる。米国企業にとっては、保険商品の売り込みを拡大できる。
 そして・・・・国民の間には、医療分野における貧富の格差が拡大する。

 (5)安倍首相と自民党は、2012年の総選挙で、TPPに関して6つの公約を掲げた。
  (a)聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPP交渉には参加しない。
  (b)自由貿易の理念に反する工業製品の数値目標を受け入れない。
  (c)国民皆保険制度を守る。
  (d)食の安全・安心の基準を守る。
  (e)国の主権を損なうISDS条項に合意しない。
  (g)政府調達・金融サービスなどでわが国の特性を踏まえる。

 (6)(5)は、「安部首相のTPP詐欺」である。
 3月以降、安部首相はもっぱら(5)-(a)と(c)のことしか言わなくなったからだ。しかも、安倍首相はオバマ大統領のとの会談(2月)の際、「(交渉参加にあたって)聖域なき関税撤廃を前提としない点を確認した」と述べたが、日本として「(農産物等)聖域をなくするのは受け入れない」と確認したわけではない。
 (5)-(g)についても、安部内閣は米国の意向を汲んで、かんぽ生命に国内で新規の癌保険商品の販売を認めなかった。しかも、6月、昨年就任したばかりの坂篤郎・日本郵政社長を民営化に積極的な西室泰三に社長交替させた。その西室新社長は、7月、癌保険の販売で提携するはずだった日本生命と突然手を切り、米国内で癌保険を独占し、一貫してかんぽ保険の完全民営化を要求してきた米アフラック社と提携する旨、発表した。
 米国は、①かんぽ生命の完全民営化によって売却された株式を取得すると同時に、②いま全国にある郵政グループの膨大な販売拠点を獲得する、という複眼的戦略を展開しているらしい。安部首相の行動は、この戦略に忠実に応えるものだ。このままでは、(5)-(c)も反故にされかねない。形だけ国民皆保険制度が守られても、現在の内容とは別の制度にされてしまう可能性が大だ。

□植草一秀(経済評論家)「かんぽ生命に見る米国の日本支配の策動 安部首相の公約違反を許してはならない」(「週刊金曜日」2013年10月18日号)
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 【参考】
【TPP】米国主導の秘密交渉に抵抗する各国 ~情報公開~
【TPP】は企業権益拡大のための協定 ~リーク文書~
【TPP】秘密交渉の裏側/多国籍企業群がTPP妥結に圧力
【TPP】数百万人の命を左右するEU・インドのFTA ~対岸の火事?~
【食】モンサントの不自然な食べもの
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
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【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
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