(1)10月2日、またもやフクイチのタンクから高濃度の汚染水が漏れ、一部が海に流出した。周囲の雨水を汲み上げてタンクに移し過ぎたのが原因だった。【注】
【注】記事「汚染水、東電ちぐはぐ また海へ流出 傾斜地、水位計役に立たず 福島第一原発」(朝日デジタル 2013年10月4日)
(2)今年3月、フクイチで大規模な停電が発生した。地元自治体への連絡は、停電発生から3時間後だった。東電は批判を浴びた。
4月、ストロンチウムなどの放射性物質を含む汚染水を貯蔵している地下貯水槽からの漏洩について、東電は漏洩の可能性を疑い始めてから2日後に公表。批判はさらに強まった。
(3)6月19日10時開始の臨時会見で、東電は、港湾の護岸付近(タービン建屋東側)に掘ってあった放射性物質観測用井戸の地下水から、50万Bq/リットルのトリチウムが検出されたことを発表した。発電所から排水を放出する際の濃度限度(トリチウム6万Bq/リットル)の9倍近くが地下水から検出されたわけだ。汚染源は、地下トレンチ(観測用井戸の南側)に残っていた汚染水だと説明された。
フクイチの地下水は、敷地の西から東へ向かって流れ、海に出て行く。汚染源から北方に拡散した、ということは、同時に東側の護岸から海へ流出している可能性があった。
ところが、会見で東電は、海水に影響していることはない、と説明した。当然、複数の記者から、それならば何故北方向にだけ拡散するのか、と質問が相次いだが、東電はひたすら「海での影響が見られない」と回答し続けた。
会見では、データ公表が遅かったことにも批判が出た。
(a)5月24日、東電は観測用井戸から地下水を採取。
(b)5月30日(公表の約3週間前)、トリチウムの濃度が判明。
(c)5月31日、6月7日、6月14日、採取。
(d)6月19日ごろ、ほとんどの分析結果が出揃う。
その後、観測用井戸のトリチウム濃度はさらに上昇したが、東電は「データを蓄積し、総合的に判断する」として、海洋流出を認めなかった。
(4)7月10日、定例会議で、原子力規制委員会は「海への拡散が強く疑われる」と、見解をまとめた。同会議では、護岸近くの観測用井戸の水位と、海面の潮位の相関関係を見るべきだ、という意見も出た。
東電はしかし、1週間経っても水位の観測結果を公表しなかった。
7月19日、東電は記者の質問に対して、「実際に水位のデータを公表するということではなく、近々、私どもが検討している中身を説明したい」と、すでにデータがあることを推定させる回答を行った。
7月22日(参議院選挙の翌日)、定例会見で東電は、45ページに及ぶ資料「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇の問題の現状と対策」を配布した。1時間半近くの説明では、海洋流出を明言しなかった。
質疑応答で、東電はようやく、しかも渋々という態度で、地下水の海洋流出を認めた。
資料には、公表を渋っていた地下水位のデータ(1月31日から1時間単位で計測)も含まれていた。地下水位は海水面より2m近く高く、海への流出は一目瞭然だった。
当然、会見では公表遅れについて批判が続出した。
地元の漁業関係者も批判の声をあげた。
7月23日、閣議後の会見で、茂木敏充・経済産業相は「データ開示は大変遅くて非常に遺憾」だと批判した。
7月26日、東電は、廣瀬直己・社長を減給1ヵ月10%などとする幹部5人の処分を発表した。
(5)8月19日、東電は汚染水貯蔵タンク(ストロンチウムなどが高濃度で含まれる)から漏洩があることを発表した。発表によれば、漏洩量は120リットル。汚染水は拡散防止の堰の外に広がっていた。
ところが、この日、堰内にどの程度の水溜まりがあるかを「確認する」として公表しなかった。
この日の深夜、20日1時半、報道関係者に一斉メールが配信された。堰内から4立米の水を回収した、と書かれていた。その水には8万Bqの全ベータ核種(主要核種はストロンチウム90)が含まれていた。
8月20日昼、臨時会見で東電は、漏洩量は300立米と推計した、と発表。漏洩量は、当初発表の2,500倍に増えた。
(6)汚染水貯蔵タンクに係る最大の疑問は、タンクのコストが適正であるかどうかだ。急ごしらえのものではないか。
タンクは、工期が短く、カネもなるべくかけずに作った。長期間耐えられる構造ではない。【協力会社会長】
1基200万円で、1ヵ月で6基の建造を依頼された下請け業者が、手を抜けないので断った。業者は「そんな調子で発注してできあがったものは、まあもって2年じゃないか」と話した。【増子輝彦・参議院議員(民主党)】
このため、記者会見では何度も、コストを明らかにするよう要求が出ている。しかし、東電は拒否している。
□木野龍逸(ジャーナリスト)「この期に及んでも 情報をすぐに出さない東京電力の汚染ぐあい」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
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【参考】
「【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~」
「【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~」
「【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~」
「【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~」
「【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~」
「【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~」
「【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~」
「【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~」
「【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~」
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
「【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~」
「【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~」
「【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~」
「【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~」
「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~」
「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
【注】記事「汚染水、東電ちぐはぐ また海へ流出 傾斜地、水位計役に立たず 福島第一原発」(朝日デジタル 2013年10月4日)
(2)今年3月、フクイチで大規模な停電が発生した。地元自治体への連絡は、停電発生から3時間後だった。東電は批判を浴びた。
4月、ストロンチウムなどの放射性物質を含む汚染水を貯蔵している地下貯水槽からの漏洩について、東電は漏洩の可能性を疑い始めてから2日後に公表。批判はさらに強まった。
(3)6月19日10時開始の臨時会見で、東電は、港湾の護岸付近(タービン建屋東側)に掘ってあった放射性物質観測用井戸の地下水から、50万Bq/リットルのトリチウムが検出されたことを発表した。発電所から排水を放出する際の濃度限度(トリチウム6万Bq/リットル)の9倍近くが地下水から検出されたわけだ。汚染源は、地下トレンチ(観測用井戸の南側)に残っていた汚染水だと説明された。
フクイチの地下水は、敷地の西から東へ向かって流れ、海に出て行く。汚染源から北方に拡散した、ということは、同時に東側の護岸から海へ流出している可能性があった。
ところが、会見で東電は、海水に影響していることはない、と説明した。当然、複数の記者から、それならば何故北方向にだけ拡散するのか、と質問が相次いだが、東電はひたすら「海での影響が見られない」と回答し続けた。
会見では、データ公表が遅かったことにも批判が出た。
(a)5月24日、東電は観測用井戸から地下水を採取。
(b)5月30日(公表の約3週間前)、トリチウムの濃度が判明。
(c)5月31日、6月7日、6月14日、採取。
(d)6月19日ごろ、ほとんどの分析結果が出揃う。
その後、観測用井戸のトリチウム濃度はさらに上昇したが、東電は「データを蓄積し、総合的に判断する」として、海洋流出を認めなかった。
(4)7月10日、定例会議で、原子力規制委員会は「海への拡散が強く疑われる」と、見解をまとめた。同会議では、護岸近くの観測用井戸の水位と、海面の潮位の相関関係を見るべきだ、という意見も出た。
東電はしかし、1週間経っても水位の観測結果を公表しなかった。
7月19日、東電は記者の質問に対して、「実際に水位のデータを公表するということではなく、近々、私どもが検討している中身を説明したい」と、すでにデータがあることを推定させる回答を行った。
7月22日(参議院選挙の翌日)、定例会見で東電は、45ページに及ぶ資料「海側地下水および海水中放射性物質濃度上昇の問題の現状と対策」を配布した。1時間半近くの説明では、海洋流出を明言しなかった。
質疑応答で、東電はようやく、しかも渋々という態度で、地下水の海洋流出を認めた。
資料には、公表を渋っていた地下水位のデータ(1月31日から1時間単位で計測)も含まれていた。地下水位は海水面より2m近く高く、海への流出は一目瞭然だった。
当然、会見では公表遅れについて批判が続出した。
地元の漁業関係者も批判の声をあげた。
7月23日、閣議後の会見で、茂木敏充・経済産業相は「データ開示は大変遅くて非常に遺憾」だと批判した。
7月26日、東電は、廣瀬直己・社長を減給1ヵ月10%などとする幹部5人の処分を発表した。
(5)8月19日、東電は汚染水貯蔵タンク(ストロンチウムなどが高濃度で含まれる)から漏洩があることを発表した。発表によれば、漏洩量は120リットル。汚染水は拡散防止の堰の外に広がっていた。
ところが、この日、堰内にどの程度の水溜まりがあるかを「確認する」として公表しなかった。
この日の深夜、20日1時半、報道関係者に一斉メールが配信された。堰内から4立米の水を回収した、と書かれていた。その水には8万Bqの全ベータ核種(主要核種はストロンチウム90)が含まれていた。
8月20日昼、臨時会見で東電は、漏洩量は300立米と推計した、と発表。漏洩量は、当初発表の2,500倍に増えた。
(6)汚染水貯蔵タンクに係る最大の疑問は、タンクのコストが適正であるかどうかだ。急ごしらえのものではないか。
タンクは、工期が短く、カネもなるべくかけずに作った。長期間耐えられる構造ではない。【協力会社会長】
1基200万円で、1ヵ月で6基の建造を依頼された下請け業者が、手を抜けないので断った。業者は「そんな調子で発注してできあがったものは、まあもって2年じゃないか」と話した。【増子輝彦・参議院議員(民主党)】
このため、記者会見では何度も、コストを明らかにするよう要求が出ている。しかし、東電は拒否している。
□木野龍逸(ジャーナリスト)「この期に及んでも 情報をすぐに出さない東京電力の汚染ぐあい」(「週刊金曜日」2013年9月27日号)
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【参考】
「【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~」
「【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~」
「【原発】【食】魚への影響 ~過去・現在・未来~」
「【原発】銀行はボロ儲け ~汚染水に国費投入~」
「【原発】【食】関東の食材からセシウム ~安部首相的「安全」の実態~」
「【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~」
「【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~」
「【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~」
「【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~」
「【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~」
「【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~」
「【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~」
「【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~」
「【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~」
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「【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~」
「【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~」
「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~」
「【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~」
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」