語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【スペイン】国を借金漬けにし、ツケを国民に回す支配階級 ~公金横領~

2014年02月07日 | 社会
 (1)スペイン国王の二女クリスチーナは、夫のパルマ公イニャーキ・ウルダンガリンとともに、数々の違法な資産運用の嫌疑で予審判事から裁判所への召喚命令を出された。
 王女への嫌疑は、脱税と資金洗浄だ。しかし、本質的には公金横領だ。それは、スペインを未曾有の経済破綻に追い込んだ支配階級の者たちに深く根付く「略奪文化」の一端に過ぎない。

 (2)2000年代初頭、王女の夫イニャーキが代表を務める非営利団体「ノース協会」に、バレンシア州やバレアレス州などの自治体と国内外の多くの企業から、合計1,400万ユーロ(19億7,400万円)もの出資が行われた。その大半は各自治体の公金だったが、「ノース協会」が主催・後援した各種イベントに新たに公金が湯水のようにつぎ込まれた。しかも、その使途は多くの疑惑に包まれている。
 <例>2005年と2006年にマジョルカ島で開催された「ノース協会」主催のスポーツ振興イベントに240万ユーロ(3億3,840万円)の公金が使われた。しかし、最近、バレアレス州がそれと全く同じ内容と規模のイベントを開催したところ、わずか8万ユーロ(1,128万円)で実施できたのだ。
 「ノース協会」主催イベントで、さまざまの名目の「領収書」と引き替えに消えた公金が戻ることはない。
 バレンシアを中心に行われた数多くの豪勢なイベント(F1自動車レースやローマ教皇訪問を含む)において数億ユーロもの公金がでたらめに流用された。こうした一連の浪費活動の起点は、2004年に「ノース協会」が主催したバレンシアサミットなのだ。

 (3)「ノース協会」を通じて王女夫妻が手にした資金の流れも闇に包まれているが、ようやく裁判所がその一部にメスを入れ始めた。
 王女夫妻は、バルセロナ市内に2人の名義で「アイゾーン」という不動産取引の会社を所有している。自治体からかき集められた多額の公金は、「アイゾーン」にも流れ込んでいた。
 裁判所は、「アイゾーン」が全国13カ所で行った不動産取引での脱税と資金洗浄を調べている。

 (4)王家からの支給のほかに、幾つかの形で公式に申告される2人の収入だけでは買えない豪邸は、「アイゾーン」に所有させ、ついで借家として自分自身に貸し出した。税務当局にも借家住まいとして申告していた。
 さらに、王女夫妻は「アイゾーン」のゴールドカードを使って、贅沢三昧を繰り返していた。アフリカで狩りをし豪華な旅行をし、数十万ユーロ分の高級な家具やワインを買い漁った(すでに明らかにされた事実)。これら派手な生活の原資は、要するに国民の税金だ。

 (5)世間知らずのお姫さまと元・有名スポーツ選手にしてにわか貴族のペアは、愚かにも多くの悪事の証拠を残してしまった。
 他方、王族の権威と名声を利用し、隠れ蓑にした伝統的なたかりと略奪のプロたちは、知らぬ顔の半兵衛を決め込み、悪事の証拠を闇の中にかき消している。
 このスペインの中央と地方で絶大な権力を握る者たちこそ、天文学的な額の公金を動かして群がり、国家と自治体を借金漬けにして、そのツケを国民にまわしている本物の巨悪なのだ。

 (6)覚悟を決めた現王室は、王家を守るために「殉教者」が必要だ、と語った。王女は召喚命令に対して控訴しない、と表明した。

□童子丸開(スペイン在住著述家)「違法な資産運用嫌疑でクリスチーナ王女に召喚命令 公金を懐に入れる支配階級にやっとメス」(「週刊金曜日」2014年1月24日号)
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