語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】「反知性主義」への警鐘

2014年02月25日 | ●佐藤優
 (1)「反知性」。「非」知性でも「無」知でもなく「反」知性。
 「反知性主義」をキーワードに、政治的な問題発言が論壇で続出する現状を分析・批判するのだ。
 「週刊現代」1月25日・2月1日合併号の特集は、「嫌中」「憎韓」「反日」・・・・首相の靖国神社参拝や慰安婦問題をめぐり日・中・韓でナショナリスティックな感情が噴き上がる現状を問題視した。
 同誌の対談で、佐藤優は領土問題や歴史問題をめぐる国内政治家の近年の言動に警鐘を鳴らした。その中で使った分析用語の一つが「反知性主義」だ。この言葉を昨年来、著書などで積極的に使っている。

 (2)佐藤は、「反知性主義」をどう定義するか。
 「実証性や客観性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解する態度」だ。新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中に閉じこもる姿勢だ。とりわけ問題になるのは、その物語を使う者がときに「他者へ何らかの行動を強要する」からだ。
 佐藤が反知性主義という概念を使おうと考えたきっかけは、昨年の麻生太郎・副総理の「ナチスの手口に学んだら」発言だった。「ナチスを肯定するのかという深刻な疑念が世界から寄せられたが、麻生氏も政権も謝罪や丁寧な説明は必要ないと考えた。非常に危険だと思った」
 異なる意見を持つ他者との公共的対話を軽視し、独りよがりな「決断」を重視する姿勢がそこにある。「反知性主義の典型です」。
 前掲対談では、靖国や慰安婦に関する海外からの批判の深刻さを安倍政権が認識できていない、とも指摘した。
 自分が理解したいように世界を理解する「反知性主義のプリズム」が働いているせいで、「不適切な発言をした」という自覚ができず、聞く側の受け止め方に問題があるとしか認識できない・・・・そう分析する。

 (3)昨年12月、内田樹・フランス現代思想研究者は、反知性主義が「日本社会を覆い尽くしている」とツイッターに書いた。参考図書を読もうとしない学生たちに、君たちは反知性主義的であることを自己決定したのではなく、「社会全体によって仕向けられている」のだ、と挑発的に述べた。

 (4)同じ月、竹内洋・関西大学東京センター長/社会学者は、米国の歴史学者ホーフスタッターの著書『アメリカの反知性主義』の書評をネットの「書評空間」に寄稿した。
 ホーフスタッターが同書を発表したのは半世紀前。邦訳されたのも10年前だ。なぜいま光を当てたのか。
 「反知性主義的な空気が台頭していると伝えたかった」と竹内は語る。
 反知性主義の特徴は「知的な生き方およびそれを代表するとされる人びとにたいする憤りと疑惑」だ、と同書は規定する。米国社会を揺るがした1950年代のマッカーシズム(赤狩り)に直面したことで、ホーフスタッターは反知性主義の分析に取り組んだ。
 竹内がこの概念に注目したきっかけは、いわゆる橋下現象だった。「橋下市長は学者たちを『本を読んでいるだけの、現場を知らない役立たず』と口汚くののしった。ヘイトスピーチだったと思うが、有権者にはアピールした」
 なぜ、反知性主義が強く現れてきたのか。「大衆社会化が進み、ポピュリズムが広がってきたためだろう。ポピュリズムの政治とは、大衆の『感情』をあおるものだからだ」

 (5)「反知性主義」に同じように警鐘を鳴らしても、佐藤・内田・竹内の主張では力点が違う。だが佐藤は、3人には共有されている価値があると語る。
 「自由です」
 反知性主義に対抗する連帯の最後の足場になる価値だろう、とも佐藤は言う。
 「誰かが自分に都合の良い物語を抱くこと自体は認めるが、それを他者に強要しようとする行為には反対する。つまり、リベラリズムです」

□塩倉裕「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論」(朝日デジタル 2014年2月19日09時30分)
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【ロシア】は列強として国際舞台に復帰できるか(2)

2014年02月25日 | 社会
 (6)リアリストのプーチンは、ロシアの現在および将来に関して世界の多極化を実現するには、パートナーが必要だ、と考えている。
 中国がロシアにとっての最初の戦略的パートナーとなり、最も重きをなすパートナーとなっている。その結果、安保理では両国が共同歩調を取ることが常態となった。特に、イラン問題、リビア問題、イラク戦争(2003年)、シリア問題で中露は共同歩調を取った。中国はロシアを信頼し、共同の立場を擁護するためにロシアが前面に出ることを容認している。ロシアは、国連安保理を神聖化することによって、安保理を国際政治における仲介者の役割を果たす唯一の正統的な場にしようとしている。
 中露両国の協力関係は、絶え間なく深化している。
  (a)経済分野・・・・ロシアの石油や武器の中国への輸出。
  (b)政治分野・・・・上海協力機構での共同歩調。
  (c)軍事分野・・・・ほぼ毎年、陸海空軍の共同訓練や共同演習。

 (7)中露両国の間には、溝のある問題も存在している。<例>2009年以来、中国がロシアより貿易量を増大させているポストソ連邦の中央アジア諸国との関係。
 だが、今までのところ、中国は中央アジアにおけるロシアの地政学的利益の優先権を認めている。そこに中国の基地となるような施設を設置するような気配は示していない。さらに、ロシアと当該地域諸国との間で締結された「集団安全保障条約機構(CSTO)」を中国は承認している。

 (8)しかし、ロシアが繰り返し要求しているアフガニスタンをめぐる協力関係の枠組みとなるNATOとCSTOとの協力関係構築を、米国は常に拒否している。
 米国は各国と区別に交渉し、その国に軍事基地を設ける、といった条約や、米軍の補給路を確保するといった条約を締結することを望んでいるからだ。
 プーチンは、あらゆる分野での米国との競争を求めてはいない。明らかに、それだけの資金がないのだ。
 たしかに、米露両国は、冷戦のメンタリティは混乱を生み出すだけなのに、それを維持し続けている、と互いに非難合戦をしている。だが、ロシアは、米国の国際的な失敗を喜ぶにしても、それは復讐心によって、というよりは、自らがその役割を果たせなかった、という恨みに基づいたものだ。
 よって、ロシアは米国のアフガニスタンでの敗北を望んでいない。アフガニスタンからの慌ただしい撤退も望んでいない。
 シリア問題に関する対立についても、当初よりロシアは国際的ルールづくりを提唱していた。ロシアは、世界秩序の再均衡を求めているのだ。米国や欧州大西洋の国々と、新しい基礎の上に再出発することを求めているのだ。
 ただし、このことはロシアが武器を持っているらのセクターでの厳しい競争が起こることを排除しない。<例>ロシアのガスパイプ・ラインの南ルート・プロジェクトが、米国が支持しているナブコ・プロジェクトより大成功を収める可能性がある。

 (9)ロシアが強く望んでいる再均衡が達成される時が来たのだろうか。
 国際舞台での副次的ではない役割を再びロシアが果たす、という大望は実現されたのだろうか。
 シリア問題におけるプーチンの成功は、この大望が実現した、という期待(むしろ幻想)をもたらしたように見える。多極化を米国に押し付けつつあるのだ、という感覚だ。米国の無条件の盟友=イギリスが離脱したことは、まさに時のサインだった。
 同じことが、G20(於サンクト・ペテルブルグ、ロシア)で起こった。シリアにおけるあらゆる軍事的冒険に反対する表明がなされ、英国に同調する協議がなされた。
 ロシアと米国の再接近は、非常に劇的な9月の転換よりずっと早くから始まっていた。
 2013年5月、ケリー国務長官はアサド大統領の退陣要求はそのままにして、シリア問題に関する国際会議案について、ロシア外相に同意を与えた。
 2013年6月、G8サミット(於ロックアーン、北アイルランド)において、シリア問題に関する共同声明は、プーチンの承認を得るために遅れた。というのも、アサド大統領が化学兵器の廃棄を受け入れることが確認できていれば、西欧のG8参加国の司法当局が主張していた正当性をロシアの指導者に与えることになるからだ。
 数ヶ月前から、ロシアはシリア問題に関する予定された国際会議の成功のためにも、イランを会議に参加させるべきだ、と主張している。現在までイスラエルの強い反対に遭って米国は拒否している。ゆえに、オバマとイラン新大統領のハサン・ロウハニとの間で着手された対話を活性化するためにも、ロシアが力を尽くしているのだ。
 核問題に関する妥協が始まれば、関係全体の回復に弾みをつけることになるだろう。
 2010年に国連安保理で米国が要求したイランに対する多くの制裁措置に、ロシアが賛同した後で、ロシアとイランの関係は悪化していたが、ロシアはさらなる関係改善に努力している。
 当時、ロシアは対空防御ミサイルS-300のイランへの引き渡しをキャンセルしたのだ。

 (11)プーチンが少なくとも相対的には平等を基礎として米国との関係強化を試みたことは、初めてではない。
 2001年9月11日の同時多発テロの直後、アフガニスタン戦争のために中央アジアの同盟国における米軍軍事基地の設営を無条件で認める決定を下した。
 緊張緩和をより積極的に進める意志を表するために、キューバに監視用に設営された旧ソ連最後の軍事基地の閉鎖を決定した。
 その数ヶ月後、ジョージ・ブッシュ大統領は米露関係の一時的な好転に終止符を打つ政策を採用したが、プーチンはより成果の上がる協力関係に戻すことは可能であると判断した。しかし、かかる進展のチャンスをつかむための重要な仮設がある。それは、ロシアの国内問題に関わる外国からの影響が、今後の続くか、というものだ。
 2012年にプーチンは大統領職に復帰したが、彼は権力の座に心地よく座るために、ロシアのナショナリズムの一要素たる反米主義を煽ることになった。特に、海外からの資金援助を受けているNGOには、外国の利益のために働いているかどうかを自己申告させる新法案を採択した。ここにプーチンがKGBで教育を受けた痕跡を見出すことができる。すなわち、外国からsの操作や影響こそ、ロシアの国内問題の主要な原因であり、政治的不安定の主要な要素だ、という見方だ。
 プーチンの権力の正統性がいっそう傷つくことになるのか、それもと逆に強化されるのか。それは、国際舞台においてロシアが米国と対等な列強に復帰する、という彼の大望が実現できるかどうかにかかかっている。

□ジャック・ルベック(政治学博士/カナナ・ケベック大学専任講師)/坪井善明・訳「ロシアは列強として国際舞台に復帰できるか ~ル・モンド・ディプロマティック~」(「世界」2014年3月号)
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 【参考】 
【ロシア】は列強として国際舞台に復帰できるか(1)
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