(6)オバマ大統領は、中東問題の処理に驚くほど淡泊だ(ロイド=ジョージやカーゾンとの比較)。
プーチン(秘密情報部員の経験を持ち策謀渦巻く中東の特性を理解)にとって、これほど御しやすい米国大統領はいない。
オバマは、アサド政権(シリア)が市民虐殺のレッドラインを越えるなら軍事干渉も辞さず、とトランペットを吹き鳴らした。しかし、
(a)エジプト民主化の行き詰まりと軍政の台頭
(b)第五艦隊の基地を置くバーレーンへのシーア派宗教指導者による民主化要求
にも直面し、もともと整合性の乏しいオバマの中東政策は挫折した。
オバマの対応は市民主義者レベルの思いつきであり、①シリア危機であれ、②アラブの民主化変革であれ、③湾岸安全保障であれ、どこにも首尾一貫した戦略性がなかった。
プーチンやラブロフは、それを見抜いた。
(7)ロシアの相対的に安定した外交能力は、オバマの隙を見逃さなかった。
が、プーチンと言えども、ロシアが現実に行使できる力の限度を無視してオバマ政権の弱さを逆手にとるほどの力量を持つわけではない。
プーチンに可能なのは、
(a)中東におけるロシアの歴史的な役割や威信を人々に思い出させ、
(b)そのプレゼンスを感じさせる
点までだった。シリアを軸に米国とのバランスを復活できれば、それでよし、としなければならない。
かくて、①オバマが言葉だけにせよ公言したシリアへの武力行使を無期限に延期させ、②アサド大統領の退陣を化学兵器の廃棄問題とすり替える・・・・という巧みなロシア外交に、人々は脱帽した。
中東では、予期せざる事件が突如として起こる。驚きになれたアラブやイスラエルの人々さえ、シリア市民の人権や反体制勢力の抵抗へのこだわりが、いまや化学兵器の廃棄と査察の問題に新聞の紙面やテレビ画面の大部分を譲るのを目撃して、唖然としたはずだ。
(8)中東の国際関係におけるロシアの強みは、すべての関係国や当事者にコネクションを持っていることだ。
これは米国にはない特徴だ。
シリアとイランはもとより、南レバノンのヒズブッラー、パレスチナのハマスと直接関係を持てるのはロシアだけだ。
ロシア系移民はじめソ連からの移住者の多いイスラエルは、ロシアが情報収集や人脈形成の中心としている中東国家だ。
アングロサクソン流のハードな交渉による解決は、特定の国に屈服を強いがちだ。
ロシアの持ち味は、自国のグローバルな影響力と各国の自負心を満足させる妥協や調停を図る巧みさにある。
もっとも、調停努力を重ねても失敗に終わる事例も多い。<例>湾岸戦争、イラク戦争、イスラエルにおけるヒズブッラーとのレバノン戦争、ガザ戦争。
また、中東の関係当事国や団体は、回りくどいロシアを相手にするのを嫌い、じかに米国やNATOとの交渉を望む事例も少なくない。
しかし、米国とは異なるロシア外交の特徴は、ソ連時代を含めて、価値観やイデオロギーではなくてレアルポリティーク(現実政治)の外交に徹する点にある。
(9)米国のリベラルな民主主義を至上の価値観とするイデオロギー外交に
(a)イランの核開発を批判しながら、
(b)イスラエルの核保有に寛容
といった偽善、虚偽をイランやアラブは感じ取っているかもしれない。
アングロサクソンの価値観とリベラルな民主主義のイデオロギーに、イスラムの歴史と伝統で培われた中東の国々が妥協を余儀なくされるのは苦痛なのだ。
ましてや、価値観の押し付けは、逆効果を生むことが多い。
民主化運動が進み、良質な政権ができるはずのリビアやエジプトの現状、気息奄々たる現状を見れば、その逆説は明かだ。
(10)とはいえ、ロシアが、米国に対抗して中東政治や国際舞台に主役として本格的に復帰するすることは近未来でも難しい。ソ連邦とワルシャワ条約機構をの解体で力と威信を失ったロシアの軍部は、今のところ国際政治の二極や三極になる力が乏しい。
『中東国際関係史研究』は、第一次大戦後の混乱期に外交と軍事に共通するソ連のレアルポリティークを、トルコ革命の視点から眺める試みとも言える。
いまだソ連邦解体の余波がくすぶる21世紀前半の中東国際理解に、英米仏中心の視野ではない別の見方を示した。
□山内昌之(明治大学特任教授)「観察せよ、そして時機を待つべし」(「図書」2014年1月号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【ロシア】中東戦略 ~レアルポリティーク外交(1)~」
プーチン(秘密情報部員の経験を持ち策謀渦巻く中東の特性を理解)にとって、これほど御しやすい米国大統領はいない。
オバマは、アサド政権(シリア)が市民虐殺のレッドラインを越えるなら軍事干渉も辞さず、とトランペットを吹き鳴らした。しかし、
(a)エジプト民主化の行き詰まりと軍政の台頭
(b)第五艦隊の基地を置くバーレーンへのシーア派宗教指導者による民主化要求
にも直面し、もともと整合性の乏しいオバマの中東政策は挫折した。
オバマの対応は市民主義者レベルの思いつきであり、①シリア危機であれ、②アラブの民主化変革であれ、③湾岸安全保障であれ、どこにも首尾一貫した戦略性がなかった。
プーチンやラブロフは、それを見抜いた。
(7)ロシアの相対的に安定した外交能力は、オバマの隙を見逃さなかった。
が、プーチンと言えども、ロシアが現実に行使できる力の限度を無視してオバマ政権の弱さを逆手にとるほどの力量を持つわけではない。
プーチンに可能なのは、
(a)中東におけるロシアの歴史的な役割や威信を人々に思い出させ、
(b)そのプレゼンスを感じさせる
点までだった。シリアを軸に米国とのバランスを復活できれば、それでよし、としなければならない。
かくて、①オバマが言葉だけにせよ公言したシリアへの武力行使を無期限に延期させ、②アサド大統領の退陣を化学兵器の廃棄問題とすり替える・・・・という巧みなロシア外交に、人々は脱帽した。
中東では、予期せざる事件が突如として起こる。驚きになれたアラブやイスラエルの人々さえ、シリア市民の人権や反体制勢力の抵抗へのこだわりが、いまや化学兵器の廃棄と査察の問題に新聞の紙面やテレビ画面の大部分を譲るのを目撃して、唖然としたはずだ。
(8)中東の国際関係におけるロシアの強みは、すべての関係国や当事者にコネクションを持っていることだ。
これは米国にはない特徴だ。
シリアとイランはもとより、南レバノンのヒズブッラー、パレスチナのハマスと直接関係を持てるのはロシアだけだ。
ロシア系移民はじめソ連からの移住者の多いイスラエルは、ロシアが情報収集や人脈形成の中心としている中東国家だ。
アングロサクソン流のハードな交渉による解決は、特定の国に屈服を強いがちだ。
ロシアの持ち味は、自国のグローバルな影響力と各国の自負心を満足させる妥協や調停を図る巧みさにある。
もっとも、調停努力を重ねても失敗に終わる事例も多い。<例>湾岸戦争、イラク戦争、イスラエルにおけるヒズブッラーとのレバノン戦争、ガザ戦争。
また、中東の関係当事国や団体は、回りくどいロシアを相手にするのを嫌い、じかに米国やNATOとの交渉を望む事例も少なくない。
しかし、米国とは異なるロシア外交の特徴は、ソ連時代を含めて、価値観やイデオロギーではなくてレアルポリティーク(現実政治)の外交に徹する点にある。
(9)米国のリベラルな民主主義を至上の価値観とするイデオロギー外交に
(a)イランの核開発を批判しながら、
(b)イスラエルの核保有に寛容
といった偽善、虚偽をイランやアラブは感じ取っているかもしれない。
アングロサクソンの価値観とリベラルな民主主義のイデオロギーに、イスラムの歴史と伝統で培われた中東の国々が妥協を余儀なくされるのは苦痛なのだ。
ましてや、価値観の押し付けは、逆効果を生むことが多い。
民主化運動が進み、良質な政権ができるはずのリビアやエジプトの現状、気息奄々たる現状を見れば、その逆説は明かだ。
(10)とはいえ、ロシアが、米国に対抗して中東政治や国際舞台に主役として本格的に復帰するすることは近未来でも難しい。ソ連邦とワルシャワ条約機構をの解体で力と威信を失ったロシアの軍部は、今のところ国際政治の二極や三極になる力が乏しい。
『中東国際関係史研究』は、第一次大戦後の混乱期に外交と軍事に共通するソ連のレアルポリティークを、トルコ革命の視点から眺める試みとも言える。
いまだソ連邦解体の余波がくすぶる21世紀前半の中東国際理解に、英米仏中心の視野ではない別の見方を示した。
□山内昌之(明治大学特任教授)「観察せよ、そして時機を待つべし」(「図書」2014年1月号)
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【参考】
「【ロシア】中東戦略 ~レアルポリティーク外交(1)~」