(1)東京都知事選は、舛添要一知事の誕生で幕を閉じた。
田母神俊雄氏・元航空幕僚長が61万票余を得た。当選ライン.に遠く及ばず、泡沫と評せる数だ。元幕僚長に大した求心力があるとは見えない。
ただ、朝日新聞の出口調査によれば、若い人ほど田母神・候補者を支持する傾向が強かった。投票者のうち30代では17%が、20代では24%が田母神・元幕僚長に投票した、という。
世代別投票率も精査する必要があるが、20代のみを見れば支持者は、
(a)宇都宮健児・候補者と細川護煕・候補者を上回り、
(b)投票者の4分の1近くに達した。
(2)田母神・候補者は、街頭演説(2月8日、於東京・秋葉原)で、次のようなことを吠え立てた。
(a)日本が侵略戦争をしたとか、南京大虐殺をしたとか、みーんなウソです。ウソの歴史を子どもたちに教えてきた。
(b)私は靖国参拝を実施します。靖国参拝は日本が自虐史観から解放され、われわれ日本国民が誇りある歴史を取り戻すために絶対必要なステップなんです。
(c)子どもたちの道徳教育を強化しなければいけない。それから治安対策、テロ対策を強化したい。不法滞在の外国人を徹底して取り締まりたいと思います。
(3)田母神・候補者は、焦点となった原発については、(a)や(b)の持論を繰り返し、(c)のようなことも口走っていた。大半が手垢にまみれた「自慰史観」だが、中韓を公然と敵視して薄っぺらい愛国心を鼓舞するあたり、不寛容な排外主義が露骨に見える。応援演説に立った石原慎太郎・元東京都知事にせよ、百田尚樹・NHK経営委員/作家にせよ、言説のなかみが大同小異であるのは周知のとおり。
(a)安全に運用できる。
(b)原発事故で死者はいない。
(c)日本が原発をやめても、中国や韓国がどんどん作る。中国や韓国に運用できるものが、どうしてこの優秀な日本民族に運用できないのか。
(4)かかる田母神・候補者に投じられた61万の票。
決して少ない数字ではない。
まして、若年層が誘引されたとすれば薄気味悪い。
(5)ウンベルト・エーコは『永遠のファシズム』(岩波書店、1998)で、社会に蔓延る不寛容の危険性を論じている。
(a)どんな理論も、日々占領地域を拡大していく匍匐前進の不寛容のまえでは無効でしかない。
(b)さらに恐るべきは、差別の最初の犠牲者となる貧しい人びとの不寛容である。
(c)金持ちは人種主義の教義を生み出したかもしれないが、貧しい人びとは、それを実践に、危険極まりない実践に移す。
(e)知識人たちは野蛮な不寛容を倒せない。思考なき純粋な獣性をまえにしたとき、思考は無力だ。
(f)不寛容が教義となってしまってはそれを倒すには遅すぎるし、打倒を試みる人びとが最初の犠牲者となる。
(g)だから(略)、あまりに分厚く固い行動の鎧になる前に、もっと幼い時期からはじまる継続的な教育を通じて、野蛮な不寛容は、徹底的に打ちのめしておくべきなのだ。
(6)野蛮な不寛容は早期に対処せねば取り返しのつかないことになる。
だが、明かなエセ愛国者への共感というかたちで、じわりと根を伸ばしつつある。特に格差の拡大で喘ぐ若い人々の間に。
しかも、この国の為政者たちは、エーコのいわゆる<教育>にも真正面から手を突っ込み、オナニスト好みの愛国譚を刷り込もうと躍起になっている。
薄ら寒さを感じさせるのは、決して季節のせいではない。
□青木理「脱原発「元総理」敗北の陰で「元幕僚長」が取った61万票の薄ら寒さ ~ジャーナリストの目 第195回~」(「週刊現代」2014年3月1日号)
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田母神俊雄氏・元航空幕僚長が61万票余を得た。当選ライン.に遠く及ばず、泡沫と評せる数だ。元幕僚長に大した求心力があるとは見えない。
ただ、朝日新聞の出口調査によれば、若い人ほど田母神・候補者を支持する傾向が強かった。投票者のうち30代では17%が、20代では24%が田母神・元幕僚長に投票した、という。
世代別投票率も精査する必要があるが、20代のみを見れば支持者は、
(a)宇都宮健児・候補者と細川護煕・候補者を上回り、
(b)投票者の4分の1近くに達した。
(2)田母神・候補者は、街頭演説(2月8日、於東京・秋葉原)で、次のようなことを吠え立てた。
(a)日本が侵略戦争をしたとか、南京大虐殺をしたとか、みーんなウソです。ウソの歴史を子どもたちに教えてきた。
(b)私は靖国参拝を実施します。靖国参拝は日本が自虐史観から解放され、われわれ日本国民が誇りある歴史を取り戻すために絶対必要なステップなんです。
(c)子どもたちの道徳教育を強化しなければいけない。それから治安対策、テロ対策を強化したい。不法滞在の外国人を徹底して取り締まりたいと思います。
(3)田母神・候補者は、焦点となった原発については、(a)や(b)の持論を繰り返し、(c)のようなことも口走っていた。大半が手垢にまみれた「自慰史観」だが、中韓を公然と敵視して薄っぺらい愛国心を鼓舞するあたり、不寛容な排外主義が露骨に見える。応援演説に立った石原慎太郎・元東京都知事にせよ、百田尚樹・NHK経営委員/作家にせよ、言説のなかみが大同小異であるのは周知のとおり。
(a)安全に運用できる。
(b)原発事故で死者はいない。
(c)日本が原発をやめても、中国や韓国がどんどん作る。中国や韓国に運用できるものが、どうしてこの優秀な日本民族に運用できないのか。
(4)かかる田母神・候補者に投じられた61万の票。
決して少ない数字ではない。
まして、若年層が誘引されたとすれば薄気味悪い。
(5)ウンベルト・エーコは『永遠のファシズム』(岩波書店、1998)で、社会に蔓延る不寛容の危険性を論じている。
(a)どんな理論も、日々占領地域を拡大していく匍匐前進の不寛容のまえでは無効でしかない。
(b)さらに恐るべきは、差別の最初の犠牲者となる貧しい人びとの不寛容である。
(c)金持ちは人種主義の教義を生み出したかもしれないが、貧しい人びとは、それを実践に、危険極まりない実践に移す。
(e)知識人たちは野蛮な不寛容を倒せない。思考なき純粋な獣性をまえにしたとき、思考は無力だ。
(f)不寛容が教義となってしまってはそれを倒すには遅すぎるし、打倒を試みる人びとが最初の犠牲者となる。
(g)だから(略)、あまりに分厚く固い行動の鎧になる前に、もっと幼い時期からはじまる継続的な教育を通じて、野蛮な不寛容は、徹底的に打ちのめしておくべきなのだ。
(6)野蛮な不寛容は早期に対処せねば取り返しのつかないことになる。
だが、明かなエセ愛国者への共感というかたちで、じわりと根を伸ばしつつある。特に格差の拡大で喘ぐ若い人々の間に。
しかも、この国の為政者たちは、エーコのいわゆる<教育>にも真正面から手を突っ込み、オナニスト好みの愛国譚を刷り込もうと躍起になっている。
薄ら寒さを感じさせるのは、決して季節のせいではない。
□青木理「脱原発「元総理」敗北の陰で「元幕僚長」が取った61万票の薄ら寒さ ~ジャーナリストの目 第195回~」(「週刊現代」2014年3月1日号)
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