語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【南雲つぐみ】あんぱんの日 ~4月4日~

2017年04月04日 | 医療・保健・福祉・介護
 4月4日は「あんぱんの日」。1875(明治8)年のこの日、木村屋の創業者木村安兵衛らが、花見の茶菓子としてあんパンを明治天皇へ献上したのが由来という。
 東京・銀座の木村屋総本店の資料によれば、木村安兵衛が日本で初めてのパン店を東京・芝日陰町(現在の新橋駅近く)に開業したのは、1869(明治2)年のこと。日本人の口に合うパンを作ろうと試行錯誤の末、イースト菌発酵ではなく、酒種を使って発酵させて、その生地であんを包んで焼いたあんパンが1874(明治7)年に出来上がった。
 明治天皇への献上が決まった際に、日本を象徴する国花であり、季節感も表現できる桜を取り入れることを思いついた。奈良の吉野山から、八重桜の花びらの塩漬けを取り寄せてあんパンに埋め込んだという。明治天皇がお気に召されたということで、一躍庶民にも大人気となった。【注】
 同店では、何種類ものあんパンが店頭に並んでいるが、私はフランスパン生地につぶあんとホイップした無塩バターをいれた「あんバターホイップ」がお気に入りだ。

 【注】<「和」と「洋」を融合させたあんパンは、桜の塩漬けで「甘さ」と「しょっぱさ」の取り合わせの妙をも得た。弁証法的というか、示唆に富むというか、不寛容の嵐の吹き荒れる世相を嘆くにつけても、学ぶべきところの多い逸品である。/ちなみに、炭水化物に炭水化物を加えた焼きそばパンは足し算の魅力に満ちているし、香りと表面の網目模様と微妙な色合いでメロンを演出するメロンパンには、風雅な「見立て」の美学がありそうだ。/さらには、香り高いカレーをあえてパンの中に封じ込めたうえに、衣までつけて揚げたカレーパンは、まさに逆転の発想。>【重松清「あんパンとツナマヨ ~暦の余白に(14)~」(「日本海新聞」 2017年4月2日)】

□南雲つぐみ(医学ライター)「あんぱんの日 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年4月4日)を引用
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【俳句時評】100歳のユーモア ~後藤比奈夫~

2017年04月04日 | 詩歌
 世阿弥は能の奥義を老木(おいき)に花咲かすことだといった。いま俳句で奧千本の花をみせてくれるのは四月に満百歳になる後藤比奈夫。代表句に<東山回して鉾を回しけり>がある。句巾(くはば)は柔軟で広やか。2006年蛇笏賞を受賞した『めんない千鳥』には斬新な現代批評詠まである。
  蟻地獄までもバーチユアルリアリテイ
 現実は仮現実に侵食され、ついにお堂下に巣食う蟻地獄(ありじごく)まで取り込まれる。スノーデンが告発したサイバー空間が地球上の見えない戦争を支配するように。
  抱えられ跨ぐ湯槽や初湯殿
 昨年の句集『白寿』は肉体の衰えを素直にあらわす。初湯は新年の季語。バスタブをじぶんではもう跨(また)げない。若い介護職員に抱えられて浸(つ)かる風呂桶(ふろおけ)は、下五で一挙に御殿のゆたかさに変容する。初湯に合体した「殿」の効果だ。ものと春をなす老艶(ろうえん)の境地といえよう。
  喪に籠もりゐても年賀は述べたかり
 長寿にも嵐はあり昨年愛息を喪った。父の夜半から継承主宰した「諷詠」を譲り四年。だが、俳精神はくじけない。
  あらたまの年ハイにしてシャイにして
 今年の新年詠。ハイは高揚する気分、シャイははにかみ。百歳のかわいさ、めでたさ、おかしみがあふれる。ハイが俳、シャイが謝意の懸詞(かけことば)なら、素顔の恥じらいすらほのみえよう。母音アの開放的な五音が、母音イの歯切れ良い連打へと変わってゆく音楽性は、俳句を「定型音感詩」と心得てきた人ならではの愛誦性に富む。なんともふくよかな上方文化の薫りだ。百歳の俳味にほっこりし、やがてシャンとさせられる。

□恩田侑布子「100歳のユーモア ~俳句時評~」(「日本海新聞」 2017年2月27日)を引用
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