語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【鼎談書評】村上春樹『騎士団長殺し』

2017年04月24日 | 批評・思想
【鼎談書評】村上春樹『騎士団長殺し』
 ★村上春樹『騎士団長殺し(第1部・第2部)』(新潮社 各1,800円+税)

 (1)村上春樹、3年ぶりの新作。発売日に書店に行列ができ、徹夜の読書会が開かれる。そんな作家は日本には他にいない。
 主人公は36歳の肖像画家。妻から突然「あなたと一緒に暮らすことはこれ以上できそうにない」と言われ、怒るのではなく自分が出て行く。友人の父親で日本画の大家の小田原近郊にある家を借りて、ひとりで住む。するとスティーブン・キング並みの不思議小説になってくる。屋根裏に隠された日本画を見つける。その絵はモーツァルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」に基づいている。歌劇と同じく騎士団長が殺されている。その騎士団長が、夜中に鈴が鳴ると絵から出てくる。身長60センチ。まさにファンタジー。
 そこに若くして総白髪の金満家、免色(めんしき)や、主人公の死んだ妹と被る少女のまりえが交錯し、時空を超えた物語が展開する。

 (2)この作品はボリューム十分なのにすんなりとしたおもしろさにひきこまれ、一気に読んでしまう。現実世界では起こり得ないような奇妙な話なのに、それが自然と感じてしまう。
 夜中の2時間前後、地中深くからチリンチリンと鈴が鳴り、45分経つとぴたりと止まる。この情景にまずワクワクさせられる。まるで小栗風太郎『黒死館殺人事件』のノリだ(笑)。やっぱり村上春樹は読ませる仕掛けが見事。主人公の相棒が免色・・・・色を免れるなんて、読者をからかうネーミングだ。小説はおもしろくなくてはいけない、の持論の人はたっぷり楽しめる。

 (3)主題は喪失と自己回復だろう。妹を失い妻に捨てられた「私」が、いかに立ち直るか。主人公は小女時代に逝った妹に「永遠の女性」を見ている。少女愛なのだ。そこから大人の女性を愛せる男へ成熟し、妻を取り戻そうとする。
 小説は女性の胸の大きさにこだわる。バストの描写が何かと多い。少女の胸、大人の胸。胸の大小についての性的な感じ方が主人公の成熟と関わる。
 それから絵。主人公は画家だから。騎士団長殺しの絵に隠された意味を解読すればするほどこれまた成熟する。

 (4)画家を主人公に置き、絵が大きな役割を果たす設定は、小説家にとって難しそうだと最初は感じた。主人公の絵への眼差しや、創作との関係性を作品の中で作り上げるのは大変な作業だと感じたからだ。ところがあまり多くの説明はないのに、作中で重要となる絵は、頭の中にパッとイメージが浮かんでくる。絵の存在が、小説をより良くしている。
 主人公にとって、絵は記憶を残すために描くものだ。原体験は、12歳で亡くなった妹の顔を覚えておこうとスケッチしたこと。妻との初めてのデートでも、スケッチブックに彼女の似顔絵を描く。

 (5)小説の展開につれて、主人公の天分が開花していくあたりの描写は生き生きとしている。

 (6)不思議と、妹、妻、そしてまりえと、主人公にとって大きな意味を持つ女性はどことなくイメージが似ている。浮気という行為をしている妻のユズも、読んでいると純粋さの方が際立つ。ユズはどこか中性的な印象があり、まりえは胸が小さいところを気にしていたり、「女」というより妖精的な感じがするせいか。その中で、主人公と浮気する41歳の人妻だけ、感触が違って印象に残る。
 平凡そうな人妻でありながら、したたかで情報通。免色の家に秘密があると匂わせるなど、脇役だが存在感がある。
 「もうあなたとは会わない方がいいと思う」と電話1本でさらりと別れるあたりは、そんな都合のいい話があるわけない、とつっこみたくもなるが(笑)。

 (7)『騎士団長殺し』というタイトルはひじょうにうまい。誰でも手に取りたくなる。
 最初、中世の物語かと思う。実際、1938年のドイツによるオーストリア併合「アンシュルス」が、なにやら意味ありげに語られる。また、上田秋成『春雨物語』を用いながら、悟りを開くために生きて棺に入る「入定」について触れた件(くだり)もある。中世、近世、現代と重層的な構造を作り出しているが、さほど歴史的にドラマチックな展開が起こるわけではないのが残念。

 (8)やはり第三部が予定されているのではないか。騎士団長はともかく、「ドン・ジョバンニ」のほかの登場人物はまだ使い切れていないと思われるし。印象派の音楽を思わせるモヤモヤした感じの、顔のない男が出てきて、この顔を描けると肖像画家としての主人公の完成みたいな大団円を迎えられると思うが、まだ描けていない(笑)。
 騎士団長殺しの絵を描いた老大家は若き日にウィーンへ留学し、ナチスに恋人を奪われる悲劇を体験する。その弟はピアニストを志すものの、日中戦争で音楽の夢を奪われる。喪失の主題は歴史的な広がりを見せ、ノーベル文学賞を取るための仕掛けかとも感じたが、そのへんの展開もまだ不十分に感じる。

 (9)穏やかな結末なのは意外だった。物語はこれで終わりではないのかも。
 まりえが免色の家で隠れているときに近づいてきた足音の主が、まだはっきりとは解明されていないし(笑)。

□山内昌之×片山杜秀×村田沙耶香「鼎談書評 ~文藝春秋BOOK倶楽部~」(「文藝春秋」 2017年5月号)
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 【参考】
【鼎談書評】失われた宗教を生きる人びと ~中東の秘教を求めて~


【南雲つぐみ】歯周病と原因菌

2017年04月24日 | 医療・保健・福祉・介護
【南雲つぐみ】歯周病と原因菌

 朝起きたとき、口内がネバネバする、歯磨きの際の出血、歯肉がむずがゆい、口臭が気になるなどの症状があれば、歯周病かもしれない。そのような症状に気付いたら、全身の健康のためにも早めに歯科医への受診をお勧めする。
 歯周病は全身の病気に関わることが分かってきた。口の中に歯周病を引き起こしている細菌が多くなると、それらが血液や呼吸器内に入り込んで、血管内にプラークというどろどろの沈着物を作る。これが心筋梗塞などの心臓病や、脳梗塞などの脳血管の病気を起こす一因となる。
 妊婦は早産のリスクにもなるし、高血糖の人は歯周病と糖尿病のどちらも悪化しやすくなるという。最近では、日本大学口腔細菌学のチームにより、「歯周病菌の一つが、その人のインフルエンザウイルス感染を助長している可能性がある」という研究結果も出てきた。
 40歳を過ぎたら歯周病になりやすい。毎日の歯磨きを丁寧に行い、原因菌を撃退することが全身の健康につながる。

□南雲つぐみ(医学ライター)「歯周病と原因菌 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年3月16日)を引用
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【南雲つぐみ】口角炎のケア

2017年04月24日 | 医療・保健・福祉・介護
 唇の両端が裂けて、血が出てくる口角炎は、なかなか治りにくいことがある。傷がふさがったと思っても、口を開けただけでまた切れてしまう。痛みも強く、食事をするのもつらいほどだ。
 口角炎のほとんどはカンジダ菌の感染とされている。カンジダ菌はもともと体内にあり、普段は悪影響を及ぼさない常在菌だ。ところが、ストレスや病気で免疫力が下がったり、ビタミンB2、B6、鉄分などの栄養不足が続いたりすると活動が盛んになって、炎症を起こす。
 また、抗生物質などを長期間飲み続けている場合や、女性では化粧品によるかぶれでブドウ球菌や連鎖球菌に感染して起こる場合もあるという。
 口角炎が治りにくいときには、まず清潔にすることが大切だ。いくら薬を塗っても、傷口に食べ物のかすがついたままだったり、指で触ってかさぶたをはがしていれば治りにくい。
 対策は、食後に口の周りを水できれいに洗う。そしてワセリンなどの保湿剤を塗って、触らないようにしておくことが悪化させない秘訣だ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「口角炎のケア ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年4月5日)を引用
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【南雲つぐみ】ガガーリンはいかにして地球へ帰還できたか ~ソ連の宇宙衛星~

2017年04月24日 | 医療・保健・福祉・介護
 1961(昭和36)年4月12日、当時のソ連は世界初の有人宇宙衛星であるボストーク1号の打ち上げに成功した。搭乗員で、世界で初めて地球の大気圏外を約1周した宇宙飛行士が、ユーリ・ガガーリンである。
 JAXA(宇宙航空研究開発機構)によれば、ボストーク1号は、直径2.58メートル、長さ3.1メートルの機械船と、直径2.3メートルの乗員用再突入カプセルでできていた。しかし、船内は狭く、ガガーリンは身長158センチの小柄なことも選ばれた理由のひとつだったという。当時の写真を見ると、ガガーリンはいつも朗らかな笑顔で写っている。社交的で好奇心が強く、心理的にとても安定していたことも、過酷な訓練を耐えぬいて、乗員に選ばれた要因だったという。
 アメリカの宇宙船は帰還時に海に着水するが、ソ連の海は凍っているため、それができない。そこで、大気圏に再突入したガガーリンは途中でボストーク号から離脱し、高度約4千メートルからパラシュートで降下した。米ソの宇宙開発競争が激しい時代で、この帰還の方法は長い間、非公開とされていたのだそうだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「ソ連の宇宙衛星 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年4月12日)を引用
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